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4章覚醒

6話

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連隊長にあてて手紙を書く。
「気になるなら読んでも良いわ、読み終わったら連隊長に届けて頂戴」
封はせずにニコルに渡した。
「畏まりました」
ニコルはそっと手の中に封筒を挟むと中を見る気配は無い。
「何が書いてあるか気にならないの?」
「レイモンド様が書いて下さった事ですから。行ってまいります」
ニコルは手紙を手に部屋を出ていく。
その背中を見送ってから、レイモンドはもう一通手紙を書いた。
もう二度と合うことは無いだろうと思っていた相手に。
「さて、これは普通に郵便でいいかしらね?読めばあっちから何か言ってくるだろうし、連絡が無ければそれまでよ。さぁて、寝る準備でもしようかしらね……お風呂でも行って、少しお湯に浸かりながら考え事でもしようかしら……」
レイモンドはこちらの手紙にはきっちりと封蝋をして、テーブルの引き出しの中に一時的に入れた。
明日の集配に乗せようとするためだ。
「ニコルへ、お風呂に行ってくるわ、レイモンドと、これでわかるでしょ」
テーブルの上にメモを起き、着替え一式を手にしてからレイモンドは風呂場に向かう。
大浴場だ。
「個人のバスルームも欲しいわよね……いや、あるにはあるけど、荷物置き場になっているしねぇ?」
広い風呂が好きなレイモンドは、部屋に備え付けのバスルームは使わないだろうと、バスタブはそのままに荷物置き場にしてしまっていた。
「次の休みにでも片付けて使えるようにしようかしら」
呟きながら大浴場に到着すると、そこには連隊長であるクラウスがいた。
「ちょっ!何でいるのよ!」
先程ニコルに手紙を託したのだ。
「あー……読んだけどな?読んだから何となくお前が風呂に入りに来るような気がしてな?大当たりだろ」
ほら、とばかりに肩を竦めたクラウスに、レイモンドは眉を顰める。
「まだ、若いのが何人かいるけど、大丈夫だろ?入ろうぜ」
服を脱ぎ始めたクラウスの隣でレイモンドも服を脱ぎ始めるが、ちらりとこちらを向いたクラウスが絶句した。
「お前、それ!」
「何よ」
「……その痕、全部アレだろ?」
珍しくクラウスが何かを言い淀む。
そして、クラウスが何ヶ所かレイモンドの肌に触れる。
その先を見てレイモンドも絶句した。
赤黒い鬱血が身体にいくつも散っている。
「ーーーっ!」
レイモンドは、声にならない叫び声を上げた。
「気付いてなかったのかよ?」
「気づかないわよ!どうりで皆がちらちら見てくるわけだわ」
付けられたのは数日前。
それに気付かなかったのだ。
「本気……?あんの馬鹿っ!」
「まさか、それ……」
察しのいいクラウスは答えなくても誰が付けたのかは分かるだろう。
レイモンドは額を抑えて苦悩するのだった。
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