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3章 騎士
1話
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「素敵」
早朝早く、一度ニコルを風呂にやり身綺麗にさせてから着替えをさせた。
全て新しい物を身に付けさせる。
下着、靴下、レイモンドの手づからシャツを着させてズボンを履かせる。
箱に入って届いた騎士服はニコルの身体にぴったりと合わせて作られているため皺ひとつ無い。
「ほら、顎を上げて?」
襟を整えてやり、肩に掛けるのは背中を覆う外套。
騎士の紋章の入るブローチで留めて、ロングブーツを履かせて紐で編み上げる。
「後は髪を整えてから最後に手袋ね。これはひとりで付けるのに慣れが必要だから出来なければ手伝って貰うと良いわね」
短く整えたニコルの髪に軽く整髪料を乗せる。
ゆっくりと指先で髪を後ろに流してやった。
「じゃあ、手を出して?手袋を付けてあげるわね?」
小さな箱を取り出して、中から真っ白な染みひとつない手袋を取り出す。
手首の裏側にはニコルの名前が刺繍されているのだ。
「ほら、ニコル……あなたの手袋よ。白い手袋は騎士の証……とても誇らしいわ」
ニコルの手に手袋を填めてやると、その手の大きさや指の長さが良くわかる。
「それとね、これは飾り尾……貴方の剣に飾りとして下げるものよ。本当は家族や恋人が用意する物だけど……誰か用意してくれているならそれを付けなさい?もし、誰かから貰っていなくてアタシが用意したので良いのなら二色用意したけれどどちらがいいかしら」
新しい箱を開けてみせると、ニコルは躊躇いなく薄紫の飾り尾を手にした。
「レイモンド様、こちらを……でも、もうひとつは?」
緊張していたのか、今まで言葉を発しなかったニコルがそう聞いてくる。
「アタシが使うわよ?他に親戚も恋人も、あげたい人もいないもの」
「……レイモンド様……」
「ほら、飾り尾は後でね?ニコルの正装で下げる剣も用意はしてあるからね?」
正装時には飾りの剣を腰から下げる。
「ありがとうございます……」
「じゃあ、アタシも着替えて来ちゃうわね?」
「お手伝いします、先日倒れたばかりなのに」
「大丈夫よ、着慣れた正装だもの。まだ式典までには時間があるから、ソファーにでも座ってなさいな」
レイモンドはヒラヒラと手を振ってニコルの部屋から出て行く。
ニコルは皺にしたくないため、ソファーに座ることは出来なかった。
「レイモンド様から飾り尾をいただけるなんて」
ニコルも、飾り尾の意味は知っていた。
出兵するときに、恋人が騎士へと無事の帰還を願い手渡すのだ。
だが、自分に飾り尾をくれる人がいると思ってもいなかったのと、それがレイモンドであったこと。
感動を噛み締めるようにしてニコルは飾り尾を握り締めた。
早朝早く、一度ニコルを風呂にやり身綺麗にさせてから着替えをさせた。
全て新しい物を身に付けさせる。
下着、靴下、レイモンドの手づからシャツを着させてズボンを履かせる。
箱に入って届いた騎士服はニコルの身体にぴったりと合わせて作られているため皺ひとつ無い。
「ほら、顎を上げて?」
襟を整えてやり、肩に掛けるのは背中を覆う外套。
騎士の紋章の入るブローチで留めて、ロングブーツを履かせて紐で編み上げる。
「後は髪を整えてから最後に手袋ね。これはひとりで付けるのに慣れが必要だから出来なければ手伝って貰うと良いわね」
短く整えたニコルの髪に軽く整髪料を乗せる。
ゆっくりと指先で髪を後ろに流してやった。
「じゃあ、手を出して?手袋を付けてあげるわね?」
小さな箱を取り出して、中から真っ白な染みひとつない手袋を取り出す。
手首の裏側にはニコルの名前が刺繍されているのだ。
「ほら、ニコル……あなたの手袋よ。白い手袋は騎士の証……とても誇らしいわ」
ニコルの手に手袋を填めてやると、その手の大きさや指の長さが良くわかる。
「それとね、これは飾り尾……貴方の剣に飾りとして下げるものよ。本当は家族や恋人が用意する物だけど……誰か用意してくれているならそれを付けなさい?もし、誰かから貰っていなくてアタシが用意したので良いのなら二色用意したけれどどちらがいいかしら」
新しい箱を開けてみせると、ニコルは躊躇いなく薄紫の飾り尾を手にした。
「レイモンド様、こちらを……でも、もうひとつは?」
緊張していたのか、今まで言葉を発しなかったニコルがそう聞いてくる。
「アタシが使うわよ?他に親戚も恋人も、あげたい人もいないもの」
「……レイモンド様……」
「ほら、飾り尾は後でね?ニコルの正装で下げる剣も用意はしてあるからね?」
正装時には飾りの剣を腰から下げる。
「ありがとうございます……」
「じゃあ、アタシも着替えて来ちゃうわね?」
「お手伝いします、先日倒れたばかりなのに」
「大丈夫よ、着慣れた正装だもの。まだ式典までには時間があるから、ソファーにでも座ってなさいな」
レイモンドはヒラヒラと手を振ってニコルの部屋から出て行く。
ニコルは皺にしたくないため、ソファーに座ることは出来なかった。
「レイモンド様から飾り尾をいただけるなんて」
ニコルも、飾り尾の意味は知っていた。
出兵するときに、恋人が騎士へと無事の帰還を願い手渡すのだ。
だが、自分に飾り尾をくれる人がいると思ってもいなかったのと、それがレイモンドであったこと。
感動を噛み締めるようにしてニコルは飾り尾を握り締めた。
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