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1章 見習い

14話

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「どっちも美味しいわね、ニコルが好きな味が見つかるといいわ」
「どっちも美味しいです」
ふたりでゆっくり食事を終えるとフルーツジュースを飲み干してから立ち上がろうとした瞬間、声が降ってきた。
「レイモンド小隊長!」
「あらぁ、久しぶりじゃないシュラ、元気だった?」
現れたのは薄紫の真っ直ぐな髪を肩口で切り揃えた青年。
「なかなか合わないものねぇ、同じ騎士団にいるのに」
レイモンドは立ち上がると、シュラと呼んだ青年をハグする。
レイモンドと同じより少し背が高いだろうか。
「あらやだ、つい昔の癖ね」
ポンポンとシュラの背中を叩いてから離れると、レイモンドはちらりとニコルを見る。
「こっちはニコル、見習い兼アタシの従者になってくれているの」
そう、紹介してもらい立ち上がったニコルはシュラに頭を下げた。
「まだ、騎士団に慣れない子だから仲良くして困っていたら助けてあげて?」
「ニコルです、よろしくお願いします」
頭を下げたままニコルはそうシュラに向かって言い、少ししてから頭をあげる。
「えぇ、シュラですよろしく」
そう言ったシュラの顔は笑顔だったが、目は笑っていなかった。
ニコルが良く見る、相手を蔑むような表情。
それを感じ取って頭を下げるだけにした。
「じゃあシュラ、アタシ達は行くわね?折角の非番なんだものゆっくりなさいな」
「えっ、小隊長?」
「ふふ、アタシ達も非番なのよ。だからアタシは今は小隊長じゃないのよ」
レイモンドはひらひらとシュラに手を振ると、行きましょうとニコルに手を差し出す。
手を繋ぐことに慣れてきたニコルは、出された手を繋ぐ。
それを見ながらギリっと歯を食いしばったシュラ。
それをふたりは気付かなかった。

「楽しかったわ、ありがとうね?」
騎士団に帰ってきたレイモンドはニコルを促し部屋に戻る。
「届けてくれるように頼んでおいたものが順次届くだろうから、連絡があったら玄関まで取りに行かなきゃいけないけど……あら、誰か気を効かせて部屋の前まで運んでくれてるわね。誰?運んでくれたの?」
部屋の前でレイモンドが呟くと、通りがかった騎士が、運んでくれた騎士の名前を告げるとちょっと待ってと部屋を開けて、通りがかりの騎士に買ってあった焼き菓子の包みを渡す。
運んでくれた騎士にと、こっちは貴方の分ねと。
助かったわと伝えてちょうだい。そんな細やかな気遣いに騎士たちは恐縮しつつも次になにかあればと手助けしてくれる。
「本当に助かるわ、今日、他にもあるかもしれないから何かあったら連絡ちょうだいね?」
レイモンドはそう言うと、箱に入った荷物をひょいと抱え上げて部屋に入る。
「ニコル、これは服だからあなたの部屋に入れるわね?クローゼットにしまいなさい?ハンガーあったでしょ?洗ってから着るなら、まだ早いから一緒に洗濯に行きましょう?乾くわよ」
楽しそうにするレイモンドにニコルは申し訳なさしかなかった。
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