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1章 見習い
1話 出会い
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「待って、アタシに見習いなんていらないわよぉ」
毎年くる、見習い騎士の入隊式。
それが終わってからレイモンドは困り果てていた。
「ですが、今年こそは1人受け持って頂かないと本当に示しがつきません」
そう言うのは副官のムファサ。
「だってぇ、アタシより可愛い子来ちゃったらアタシの美貌を損ねちゃうじゃない?だから……ね?」
「だからではありません。既に扉の前に来ています」
「ちょっ?」
「入りなさい」
ムファサが扉に向かって声を掛けると、ノックがあり扉が開く。
「本日から騎士団見習いとして配属されました、ニコルと申しますよろしくお願いします」
そう、元気そうに声を上げたまだあどけない少年。
クルクルと巻いた亜麻色の髪。
瞳はアンバー。
「ニコル、アタシの従者として来てくれたのは嬉しいわ。でもね?」
「よろしくお願いします」
他の騎士に付けて貰うわとレイモンドが言う前に深々と頭を下げられてしまった。
「小隊長に見習い騎士が居ないのは困ります」
「でもぉ」
「ニコル、お前の部屋はそっちの扉の奥。小隊長の部屋は反対側だ。部屋の中は自由にしていい」
ムファサが部屋の扉を指差す。
今まで誰も使ったことがない部屋だ。
「待ってって、断るつもりだから本当に何も無いのよ!」
「大丈夫です、僕、土の上でも寝られますから、床があるだけ幸せです」
「えっ!?」
「ほら、ニコル荷物片付けてこい」
ムファサが言うと、ニコルはぺこりと頭を下げて手にした小さな包を大切そうに持って部屋に入った。
「あいつ、元々奴隷なんだよ」
「待って、シュテルンハイムに奴隷制度は無いはずよ!」
「隣国が攻めてきた時に拾われたんだ」
「それって、一年前も前じゃないの」
レイモンドは驚いたように目を見開き、金色に染めた髪に指を絡めた。
「あぁ、一年で見習いになれるくらい優秀なんだ……だけどな、どうしても奴隷だったからと受け入れられるやつがいなくてお前に白羽の矢が立ったんだ」
「馬鹿じゃないの!?生まれが何なのよそんなの本人に決められないじゃない!」
声を張り上げそうになったレイモンドの口元にムファサの指が触れる。
「そう言うだろうと思ってな。じゃあ頼んだぜ?」
そう言うとムファサはパチンと小粋なウィンクをして見せてから、ひらひらと手を振って部屋を出ていく。
「もう、何なのよ……仕方ないわねぇ、取り敢えずお茶にでもしましょ」
レイモンドは息を吐き出すと椅子から立ち上がる。
お気に入りのティーカップと甘いクッキーを用意するために。
毎年くる、見習い騎士の入隊式。
それが終わってからレイモンドは困り果てていた。
「ですが、今年こそは1人受け持って頂かないと本当に示しがつきません」
そう言うのは副官のムファサ。
「だってぇ、アタシより可愛い子来ちゃったらアタシの美貌を損ねちゃうじゃない?だから……ね?」
「だからではありません。既に扉の前に来ています」
「ちょっ?」
「入りなさい」
ムファサが扉に向かって声を掛けると、ノックがあり扉が開く。
「本日から騎士団見習いとして配属されました、ニコルと申しますよろしくお願いします」
そう、元気そうに声を上げたまだあどけない少年。
クルクルと巻いた亜麻色の髪。
瞳はアンバー。
「ニコル、アタシの従者として来てくれたのは嬉しいわ。でもね?」
「よろしくお願いします」
他の騎士に付けて貰うわとレイモンドが言う前に深々と頭を下げられてしまった。
「小隊長に見習い騎士が居ないのは困ります」
「でもぉ」
「ニコル、お前の部屋はそっちの扉の奥。小隊長の部屋は反対側だ。部屋の中は自由にしていい」
ムファサが部屋の扉を指差す。
今まで誰も使ったことがない部屋だ。
「待ってって、断るつもりだから本当に何も無いのよ!」
「大丈夫です、僕、土の上でも寝られますから、床があるだけ幸せです」
「えっ!?」
「ほら、ニコル荷物片付けてこい」
ムファサが言うと、ニコルはぺこりと頭を下げて手にした小さな包を大切そうに持って部屋に入った。
「あいつ、元々奴隷なんだよ」
「待って、シュテルンハイムに奴隷制度は無いはずよ!」
「隣国が攻めてきた時に拾われたんだ」
「それって、一年前も前じゃないの」
レイモンドは驚いたように目を見開き、金色に染めた髪に指を絡めた。
「あぁ、一年で見習いになれるくらい優秀なんだ……だけどな、どうしても奴隷だったからと受け入れられるやつがいなくてお前に白羽の矢が立ったんだ」
「馬鹿じゃないの!?生まれが何なのよそんなの本人に決められないじゃない!」
声を張り上げそうになったレイモンドの口元にムファサの指が触れる。
「そう言うだろうと思ってな。じゃあ頼んだぜ?」
そう言うとムファサはパチンと小粋なウィンクをして見せてから、ひらひらと手を振って部屋を出ていく。
「もう、何なのよ……仕方ないわねぇ、取り敢えずお茶にでもしましょ」
レイモンドは息を吐き出すと椅子から立ち上がる。
お気に入りのティーカップと甘いクッキーを用意するために。
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