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隻眼の俺と魔術を狩る者の牙

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 港町アルウェウスは俺が思っていた港町とは全然違っていた。



 荒々しい漁師が荒波に揉まれ、居酒屋のようなところで飲み明かす騒がしい街かと思っていたが、まるで違う。



 水路は整備され赤と白のお洒落なゴンドラが街に生まれた水路を行き交う。建物も運河に面した家が多く、行ったことはないがヴェネツィアを思い出した。



「こんな綺麗な街があるんだね」



 上目遣いで俺を見上げるシエロの髪には、トゥリズモスで購入したかんざしが差してあった。 シエロが概念封印で使用していた鎖の一本が外されたので、俺と《白魔女の契約》を繋いだついでに渡したのだ。



 飛び跳ねて喜ぶ可能性もあるかな、なんて期待していたが、静かに目に涙を浮かべて喜ばれるとなんて言ったらいいか困ったことを思い出して苦笑いする。



「魚料理が上手そうだな」



「シエロ、魚料理すき、そうじろう、マヤカ、早くいこう!」



 うわーい、と両手を上げて喜ぶシエロを見て、俺はほっと胸をなでおろす。



 これからいつ死線を超えるか分からない。



 シエロが変に緊張していないのが、見ている俺からも救いだった。



 ちなみにシエロは極彩色の白魔女が纏う真っ白なローブを久しぶりに着用していた。こればっかりはすぐに戦闘になってもいいようにと心構えなのだろう。



「ふーん……悪くないじゃない。潮風なんて何千年ぶりかしら」



 銀色に輝く髪をなびかせながら、赤い瞳の遠野は大きく背伸びをする。上下動きやすそうな服装で、ホットパンツからはすらりとした足が伸びる。温泉街で買った白衣は脱いだが、結局銀の刺繍を入れた白衣のようなマントを羽織っていた。



 幾多の死を取り込んだ遠野は錬金術の力も十二分に戻ったらしく、体の至る所に薬品やら道具を隠し持っているようで、小さなポーチがたまにちらちら見える。



「それじゃガドウ達が連絡を入れてくれてるはずの、マギアハウンドの本拠地に向かうとするか」



 ガドウは連絡用の大鷲を飛ばし、俺たちにマギアハウンドの地図を渡してくれた。地図を見ながら細い路地を何度か曲がり、川沿いのゴンドラ乗り場で黒と白のゴンドラを待つ。



「見てマヤカ、水が透けてるんだよ。深くて地面は見えないけど」



「本来、町中にある水路はプランクトンが増えやすいから澄んでいないけど、確かに綺麗ね。生活用水を流していないのと、石灰石がろ過の役割でも果たしてるのかしら……」



「うわぁ……マヤカさわってさわって、すごく冷たい!」



「この手触り……うん、舌触りも硬水ね。気候もヨーロッパ風だし、ほぼヴェネツィアよね」



「遠野いっつも水の硬さ確かめてるよな、趣味なのかよ……」



 会話が噛み合ってないくせに、意外と仲良いんだよなシエロと遠野は。



 激しい修行の後なので息抜きも必要なのだろう、しばらくして白と黒のゴンドラが俺たちの元へとやってきた。
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