上 下
66 / 70

隻眼の俺と中年の努力

しおりを挟む
「ふっ——ふっ——」



 何故、俺はこんな日の光も当たらない洞窟の中で死ぬほど刀型の石刀を振るっているのか。しかもただの人間状態で鍛えろというので、アトラスは全て外されている。



 おかげでアトラスの翻訳機能も使えず、翻訳してくれる遠野だけが頼りだった。



「遠野、今日の訓練は終わったのか?」



「だからいるのよ」



 遠野の衣装は巫女装束のようで赤と白を基調としている。



「今日は何回殺されたんだ」



「一〇〇回以上、それ以上は頭が痛くなるから数えるのはやめた」



 俺は素振りを辞めずに手短な岩に座った遠野を横目で見る。



「流転未来の儀か、刹那のうちに可能性のあった自分を何度も体験し、並行世界で生きてきた経験を己に取り込む、だったか?」



「あのハイネって幼女のせいで今では錬金術も完璧、いえ全盛期の私以上かも」



 座っている岩に両手を当てるだけで、武骨な岩は石造りの豪華な椅子へと変化する。



「現実世界の時間はほぼ進んでいないって言っても、ハイネに儀式をされると一人生分を数秒で体験してくるんだから嫌になっちゃうわ」



「終わりはいつなんだ?」



 ハイネはムムムと眉根を寄せ、大きく溜息をつく。



「《今》に届くまで。あと何百回理不尽に死ぬやら。死の記憶を刷り込み過ぎるのは毒だから、起きると全然覚えてないのが幸いね。能力のみを引き継いでパワーアップしましょ、とはよく考えたものよ」



「悪夢を見て起きるようなもんか……俺は不幸中の幸いだな」



「総司郎もやれば良かったのよ」



「したくてもできねーんだよ」



 遠野と同じように俺もハイネに流転未来の儀を試してもらおうとしたら、《白魔女の加護》が強すぎて別の魔女が入り込む隙がないらしい。



 加護といっても俺には何も思い当たる節がない。



 だから俺は仕方なく石の塊で作られた石刀を振っている。



 一見ただの刀だが、実際は五〇キロ以上はある体感である。



「それで本当に総司郎は死を回避できるの?」



「回避するには俺が取り込んだ、賢者の石を成長させなければならないらしい」



 以前の戦いでアトラスに取り込まれた賢者の石は、《人の進むべき意思》に吸い寄せられ、アトラスで戦ってきたこともあり、徐々に俺へと馴染んでいたらしい。



 今ではアトラスを離れて俺の中で成長を続けているようだ。



 つまりアトラからすれば、俺がアトラスを装着しなければ賢者の意思にも接続できず、万年腹ペコ状態なのである。だから今はまた近所で自然破壊をしながら栄養を蓄えている。



「それでどうやって成長させるのよ。ずっと素振りしてればいいなんて楽な話でもないでしょ」



「それはだな——」



「(脇がしまっとらん!)」



 何を言っているか理解できなくても、声を聴くだけで背中に鉄の棒が入ったように、全身がしゃっきと伸びる。



 声を出した相手を見ずに、俺は意識を集中して石刀を再びしっかりと振り始める。



「素振りが終わったら、腕立て一〇〇回三十セット、その後、滝行、ランニングだって。楽しそうね」



 毎日やってるから翻訳しなくてもおおよそニュアンスは分かるが、遠野はニシシといやらしい目で笑う。



「私は精神的にきついけど、総司郎は肉体改造からだね。賢者の石は健全な肉体と魂に宿るだって、つまり死ぬほど鍛えろってことかな」



「まじかよ……」



 あと何日強化しなければいけないのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました

ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが…… なろう、カクヨムでも投稿しています。

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...