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隻眼の俺と開演狼煙

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「入るぞ、義贋総司郎」



 声を返す前に入ってきたのはシュラクだったが、寝ているシエロとクロエを見て顎で外を指す。



 俺は頷いて遠野と部屋の外に出た。



 シュラクに続いていくと、開けた中庭があった。



 中庭は竹と砂利が程よくあり、端に小さな池も存在している和風な造りだった。



「お待ちしていました」



「アウルムか」



 黄金甲冑アウルムは革張りのジャケットを羽織っていて、軽装の騎士のような服装だった。



 その後ろにはアウルムと同じ金髪を持った三つ編みの少女がいた。



「どうやら今回の勝負は私の負けのようですね」



「俺も負けたよ、そこの若者にな」



 俺とアウルムは突っ立っていたシュラクを見る。シュラクは一斉に視線を集めたので、鼻の頭を掻いてそっぽを向いた。



「ありがとうございます、シュラク君。君のおかげで僕の妹は今もこうして元気だよ」



「あの夜道を歩いてた女か」



「その節はありがとうございました」



 礼儀正しく少女はお辞儀をした。アウルムの妹ということは育ちが良いのだろう。



「では商品なのですが、生憎僕には妹しか連れはおりません。非常に稀な例ですが、この世界よりも大切な可愛すぎる妹とデートする権利を上げましょう」



「デ、デートなんて、別に——俺は義贋総司郎に勝ちたかっただけだ。興味もねえし」



 するとアウルムの妹は「えっ」と身を引いて胸の前で手を握る。



「わ、私——興味ないんですか?」



 遠野がくくくと俺の背中で笑っている。



「あの子、シュラクだっけ、女子に酷いこと言っちゃって」



「あの年頃は恥ずかしいんだよ」



 こそこそ話していた矢先、アウルムが光の速さで剣を抜いて踏み込み、シュラクの喉元に充てる。



「——よく聞こえませんでしたが?」



「あ、いや、おれは、まあ、そこそこ興味出てきたなあ」



「——そこそこ?」



「すげえ興味出てきたなあぁああ、俺」



「——シュラク君。君はまだ若い。ガドウ君の下で修業しているのも分かる。他人の扱いも知るべきだ」



 いつの間にか抜刀した剣は腰の鞘に納められていた。全く見えなかった。



「さあ、行ってらっしゃい。暗くなる前には帰るんですよ。妹に何かあったら思いつく限りの拷問を試すので、試したいならいつでもどうぞ」



 にっこりと笑って妹とシュラクを見送り、さて、と俺と遠野に振り向いた。



「本題かい、黄金甲冑殿」



「ええ、そろそろ勤務時間ですからね」



 アウムルは柄に手をかけるが、身体の力を入れることはしなかった。



「本日のタスクは別件なのです。義贋総司郎君と魔女の取り合いではない」



「なら早く仕事に行ったらどうだ、社畜剣士」



「いえいえ、そんなに敵視しないでください。これでも感謝しているのです。ありふれた言葉ですが、文字通り僕の命よりも大切な妹を救ったのは、あなたなんでしょ義贋総司郎」



「間接的にはな」



「私も十三聖剣の一人である前に人間です。これは最初で最後のプレゼントです。早くこの場から極彩色の罪人を連れて逃げなさい」



「逃げるだと?」



 思いもよらない言葉に俺は息を飲む。



「今まさに僕の管轄する第一騎士団の団体がトゥリズモスに向かっています。そして隣国の第四聖剣の部隊も」



 聖剣同士の部隊がこの温泉街に向かっている理由は一体と考えを巡らせたとき、前髪を弄っている遠野が視界に入った。



「——古代遺跡」



「ご察しの通り」



 よく当てましたと言わんばかりで、オーバーリアクションでアウルムは手を広げる。



「早朝に見つかった古代遺跡は、かなり綺麗な状態で保管されていました。今まで夢物語といわれていた『魔法』が眠っていて、しかも魔術文明を発展させる世紀の発見になるかもしれない」



「もうないと思う」



 口を開きかけた遠野を制止して、俺はアウルムをじっと見つめる。奴の思考は本当なのか、相変わらず掴みどころがない口調で罠なのかすら分からない。



「良いのか逃がしても。冬の賞与に響くんじゃないのか?」



「賞与よりも妹が先決です。私事ではありますが、妹はこの街が好きなんです。只でさえあの第四聖剣が来るというのに、そこに極彩色の魔女までいては乱戦必須です。それは避けたい。来年も妹と楽しむためにはね」



「……分かった、恩に着る。だがいつかシエロの姉たちは取り戻させてもらう」



「酒を飲みかわせる間柄かと思いましたが、次ぎ会うときもそうはいかないようですね」



 俺と遠野が中庭から出ようとすると、アウルムは去り際に俺を呼び止めた。



「そういえばその銀髪の少女、いつの間にか増えてませんか?」



「そうだよ、娘が増えた」
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