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隻眼の俺と世界を救った錬金術師の目覚め

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「悪いが新宿でも原宿でもない」



「じゃあ吉祥寺ですか?」



 俺は無言で首を振った。



「まさか君は、現代人?」



「そういうオジサンは日本の人ですか。初めて出会いました」



 は、はは——俺以外にも、いた。



 現代人が、いたんだ。



 久しぶりに同郷の人間に出会えた感覚は思いの他に大きかった。胸が僅かばかり締め付けられる。



「君はどうやってここへ?」



「私は召喚されたんです、この異世界の方々に」



「召喚だって?」



「はい、召喚です——そうか、私、召喚されて——」



 意識がはっきりしてきたのか自分の頭を押さえて、左右に首を振る。



「寝ぼけてた、そう、私は召喚されて、ううん、まだ記憶の再構築が済んでない。あのとき急いだから、完璧じゃなかったせいね」



 彼女を包んでいたぽやっとした雰囲気が徐々に固まりだして、彼女という個性が明確に目覚めていくようだ。



「私は、私は、そう遠野真耶佳、覚えてる。十六歳、吉祥寺第一女学院一組——大丈夫。大脳皮質と海馬は正常ね。でもあの戦いの前が思い出せない——記憶障害?」



 前髪を指で弄りながら彼女はぶつぶつと呟く。



「——あれ、私の髪色、銀に変化してる。なんで黒かったのに? コールドスリープを実行するための魔法に綻びがあったのは確かね。記憶障害も髪も副作用ってこと」



「だ、大丈夫か? ひとまずここを出ようか?」



「黙ってて。今考え事してるの」



 目つきは鋭く、俺は睨まれた蛙のように息をのむ。



「よっと、やっと来れたぜ。誰だそいつ」



 軽快な音で着地したのは、疲労で倒れていたシュラクだった。体中のところどころから血は出ているが、命に別状はないようで、俺は自然と顔がほころんだ。



「トオノ、マヤカ……遠野真耶佳さんだ」



「変わった名前だな、なんか義贋総司郎みたいな響きだ」



 そりゃ同郷だからな。



「しかし義贋といい、この女といい、変な服装だな。あいつ短すぎねえ? どれだけ見せてんだよ」



「子供は黙ってて」



「な、お前も子供だろうが!」



 歳はほぼ変わらないだろうが、俺はシュラクの肩を抑える。こらこら女子に手は挙げちゃだめだぞ。



「街が沈んでる? 十年単位なんかじゃない。都市を囲むように隆起している。地殻変動で押し上げられたのね。地下水が街を保管してた。地殻変動が起きるほど私は眠っていた?」



 ペタペタと少女は屋上を歩き、手すりから湖の中を覗く。ローブが短すぎるのも気にせずにのぞき込むもんだから、俺とシュラクは目のやり場に困りお互いに肩を突き合った。



「生物はいない、か。でもこの水質は——うん、この重い口当たりは炭酸水素カルシウム、マグネシウム——硬水ね。硬度が高すぎて死滅したかそれとも何かが食べたか——何か?」



 遠野はハッと俺たちを見て、走り寄ってくる。
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