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義贋総司郎——少女

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「終わりか」



 パワードスーツのアトラスの継ぎ目という継ぎ目からは、おびただしいほどの蒸気が吹き上がる。



 離れた対岸にいるシュラクは、全力で逃げてくれたのか苦笑いしながら親指を立てて地面にバッタリと倒れこんだ。少しだけ休みたいようだった。



「ん?」



『いかがしましたか、マスター』



「いや、今あそこに誰か歩いていたような」



 見間違えかと思ったが、俺は旅館でメイドさんを見間違えたときのことを思い出した。



「いや、行こう」



 街の中央、ただ天井だけが生き残っている場所へ。



 跳躍して着地すると、そこには一つのプレハブがあるだけで、ヘリポートのH文字がある何の変哲もないビルの屋上だった。



「アトラ、少し脱ぐ」



『承知しました』



 アトラスパージと呟くと、アトラスは粉々にばらけ、地面で正方形のアタッシュケースへと姿を変えた。



 スーツごと飲み込まれていたが、それほど汗ばんでいないのはアトラススーツの快適性のたまものだろう。



 俺は包帯を巻かれているが、包帯の下の失った右目に意識を向ける。



 体中の何かがそこに集まっていく気がした——これはパスカルの気配か? それとアトラスと同化した際に紛れ込んだ賢者の石が、俺の体にも影響を及ぼしている。



「サン、ニ、イチ」



 プレハブのドアが開く。



「——ゼロ」



 生まれたままの姿の少女がゆっくりとドアを開ける。



 日本人のような顔立ち、銀髪ロングの赤目。歳は多分、十六くらいか。



「スーツの人……私は帰れたの?」



 何を言っているのか自分でも分からないというようだ。



「ほらよ」



 お約束でビンタを貰う前に上着のジャケットを彼女に投げる。小柄な女子だし、羽織るだけでも少しは隠せるだろう。



「え——?」



 女子は不思議そうに飛んでくるジャケットを受け取ったが、自分が今どんな姿をしているのか知って地面にへたり込んだ。



「え、あ、ちょ、え?」



「悪い、そういうつもりはないんだ。アトラ、何か長い服はないか」



『シエロのローブでしたら』



「それで頼む」



 アタッシュケースは勝手に口を開いて、この前まで着用していた極彩色の白ローブをこちらに投げ飛ばす。



「かなり小さいが、ないよりマシだろう」



 高揚した少女にローブを渡し、俺は背中を向ける。



 少女は何も言わずに、いそいそとその場で袖を通した。衣擦れする音がなくなるまで俺は天井を眺めていた。



「……いいですよ」



「やっぱ小さいな」



 シエロ八歳くらいだもんな……。



 少女は無理やり袖を通したのか、胸は弾けそうだし、太ももも隠しきれていない。悪いが俺のジャケットで何とか隠してくれ。



「さてと、まず君は誰——」



 俺が聞こうとする前に、彼女は被せるように俺に問うた。



「ここは新宿ですか、それとも——原宿?」
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