53 / 70
義贋総司郎——少女
しおりを挟む
「終わりか」
パワードスーツのアトラスの継ぎ目という継ぎ目からは、おびただしいほどの蒸気が吹き上がる。
離れた対岸にいるシュラクは、全力で逃げてくれたのか苦笑いしながら親指を立てて地面にバッタリと倒れこんだ。少しだけ休みたいようだった。
「ん?」
『いかがしましたか、マスター』
「いや、今あそこに誰か歩いていたような」
見間違えかと思ったが、俺は旅館でメイドさんを見間違えたときのことを思い出した。
「いや、行こう」
街の中央、ただ天井だけが生き残っている場所へ。
跳躍して着地すると、そこには一つのプレハブがあるだけで、ヘリポートのH文字がある何の変哲もないビルの屋上だった。
「アトラ、少し脱ぐ」
『承知しました』
アトラスパージと呟くと、アトラスは粉々にばらけ、地面で正方形のアタッシュケースへと姿を変えた。
スーツごと飲み込まれていたが、それほど汗ばんでいないのはアトラススーツの快適性のたまものだろう。
俺は包帯を巻かれているが、包帯の下の失った右目に意識を向ける。
体中の何かがそこに集まっていく気がした——これはパスカルの気配か? それとアトラスと同化した際に紛れ込んだ賢者の石が、俺の体にも影響を及ぼしている。
「サン、ニ、イチ」
プレハブのドアが開く。
「——ゼロ」
生まれたままの姿の少女がゆっくりとドアを開ける。
日本人のような顔立ち、銀髪ロングの赤目。歳は多分、十六くらいか。
「スーツの人……私は帰れたの?」
何を言っているのか自分でも分からないというようだ。
「ほらよ」
お約束でビンタを貰う前に上着のジャケットを彼女に投げる。小柄な女子だし、羽織るだけでも少しは隠せるだろう。
「え——?」
女子は不思議そうに飛んでくるジャケットを受け取ったが、自分が今どんな姿をしているのか知って地面にへたり込んだ。
「え、あ、ちょ、え?」
「悪い、そういうつもりはないんだ。アトラ、何か長い服はないか」
『シエロのローブでしたら』
「それで頼む」
アタッシュケースは勝手に口を開いて、この前まで着用していた極彩色の白ローブをこちらに投げ飛ばす。
「かなり小さいが、ないよりマシだろう」
高揚した少女にローブを渡し、俺は背中を向ける。
少女は何も言わずに、いそいそとその場で袖を通した。衣擦れする音がなくなるまで俺は天井を眺めていた。
「……いいですよ」
「やっぱ小さいな」
シエロ八歳くらいだもんな……。
少女は無理やり袖を通したのか、胸は弾けそうだし、太ももも隠しきれていない。悪いが俺のジャケットで何とか隠してくれ。
「さてと、まず君は誰——」
俺が聞こうとする前に、彼女は被せるように俺に問うた。
「ここは新宿ですか、それとも——原宿?」
パワードスーツのアトラスの継ぎ目という継ぎ目からは、おびただしいほどの蒸気が吹き上がる。
離れた対岸にいるシュラクは、全力で逃げてくれたのか苦笑いしながら親指を立てて地面にバッタリと倒れこんだ。少しだけ休みたいようだった。
「ん?」
『いかがしましたか、マスター』
「いや、今あそこに誰か歩いていたような」
見間違えかと思ったが、俺は旅館でメイドさんを見間違えたときのことを思い出した。
「いや、行こう」
街の中央、ただ天井だけが生き残っている場所へ。
跳躍して着地すると、そこには一つのプレハブがあるだけで、ヘリポートのH文字がある何の変哲もないビルの屋上だった。
「アトラ、少し脱ぐ」
『承知しました』
アトラスパージと呟くと、アトラスは粉々にばらけ、地面で正方形のアタッシュケースへと姿を変えた。
スーツごと飲み込まれていたが、それほど汗ばんでいないのはアトラススーツの快適性のたまものだろう。
俺は包帯を巻かれているが、包帯の下の失った右目に意識を向ける。
体中の何かがそこに集まっていく気がした——これはパスカルの気配か? それとアトラスと同化した際に紛れ込んだ賢者の石が、俺の体にも影響を及ぼしている。
「サン、ニ、イチ」
プレハブのドアが開く。
「——ゼロ」
生まれたままの姿の少女がゆっくりとドアを開ける。
日本人のような顔立ち、銀髪ロングの赤目。歳は多分、十六くらいか。
「スーツの人……私は帰れたの?」
何を言っているのか自分でも分からないというようだ。
「ほらよ」
お約束でビンタを貰う前に上着のジャケットを彼女に投げる。小柄な女子だし、羽織るだけでも少しは隠せるだろう。
「え——?」
女子は不思議そうに飛んでくるジャケットを受け取ったが、自分が今どんな姿をしているのか知って地面にへたり込んだ。
「え、あ、ちょ、え?」
「悪い、そういうつもりはないんだ。アトラ、何か長い服はないか」
『シエロのローブでしたら』
「それで頼む」
アタッシュケースは勝手に口を開いて、この前まで着用していた極彩色の白ローブをこちらに投げ飛ばす。
「かなり小さいが、ないよりマシだろう」
高揚した少女にローブを渡し、俺は背中を向ける。
少女は何も言わずに、いそいそとその場で袖を通した。衣擦れする音がなくなるまで俺は天井を眺めていた。
「……いいですよ」
「やっぱ小さいな」
シエロ八歳くらいだもんな……。
少女は無理やり袖を通したのか、胸は弾けそうだし、太ももも隠しきれていない。悪いが俺のジャケットで何とか隠してくれ。
「さてと、まず君は誰——」
俺が聞こうとする前に、彼女は被せるように俺に問うた。
「ここは新宿ですか、それとも——原宿?」
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~
暇人太一
ファンタジー
仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。
ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。
結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。
そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる