48 / 70
赤髪の純粋——。
しおりを挟む
「来るな!」
シュラクはファイティングポーズを構え、腰に差してあったナイフをすらりと抜いた。動きや構えはただの少年にあらず、それ相応の訓練をした動きが見て取れる。
シュラクの背中には金髪を三つ編みに結った大人しそうな少女がいた。
「お前はなんだ、グロウスなのか? それとも噂のアイツなのか?」
街に忘れ去られた原っぱでシュラクが見つけたのは、真っ黒な靄に襲われそうになっている少女の姿だった。
奴の名前を思い出すのは不愉快だが、この黒いのは義贋総司郎が便宜上名付けたアンノウンなのか。
「お前もなんでこんなとこにいるだよ!」
初めて見た少女にシュラクは強めに言葉を放ってしまう。悪い癖だといつも叫んでから思う。
「わ、わたしは、ただ、庶民の夜を見たいなって……」
泣きそうな声でシュラクの背中に縋りつく。
こいつどこかの貴族か、お偉いさんってところだろう。世間知らずではた迷惑な話だ。
「早く逃げろ!」
「で、でも」
少女は足が竦んで動けないのか、シュラクの背中から離れようとしない。
「やってやる、俺だってやれるってとこおさあ!」
上半身を低く。滑り込むように黒い靄の内側に入り込む。
(取った——!)
何度も反復練習をした動きがスムーズに再生される。あとは首と思われる部分にナイフを切り込む。
——ヒュン。
霧を切るように手ごたえがない。
「グロウスですら身体はあったぞ!」
瞬時にバックステップし少女のところに戻る。
黒い靄はかろうじて人の形をしているような気がする。
ゆっくりと近寄り、手らしい部分を持ち上げておいでおいでを繰り返す。
「よ、呼んでる」
「見ない方が良い」
見ると憑りついてくる輩もいると、ガドウに昔習ったことがある。
「こんなの見つけても対処の仕様がねえ、逃げるぞ!」
引き際の見極めは早く。
シュラクは少女の手を取り踵を返す。
「——!」
いつの間にか後ろに黒い靄がいる。
「なっ!」
靄が少女においでおいでを繰り返す。
伸ばされた手が彼女に届く前に、強く身体を押した。
「誰かを呼べ、呼んで来い! 街には一三聖剣がいる、だから——!」
シュラクは黒い靄にずぶずぶと全身を飲まれていく。飲まれた身体は地面へと沈み、まるで泥沼に引きずり込まれているような感覚だった。
(もうだめか——?)
口元が地面へと飲み込まれ、息苦しくなった時、思考は鈍る。
死ぬ。こんなどうでもいいところで俺は死ぬ。死んじまう。ガドウさんみたいに強くなる前に——両親の敵を取る前に。
視界は既に暗く、息苦しい。地面と同化し、果てのない海へと沈んでいく。けど諦めたくねえ。生きることを諦めたくねえ。
必死にもがき手を伸ばす。
漕いでも漕いでも浮き上がる事は決してない。
(もう息、が——光が……)
ついに意識を失ったか、ありもしない光の点が徐々に広がっていく。
光は徐々に大きくなり、水面から無理やり引き釣り上げられるように、身体が持ち上がる。
「よく、頑張った」
「げほっ、げほ」
「お、お前は、く、黒」
「もうその答えは聞き飽きた。俺は、」
彼は頭を掻き、何かを言おうとして何も言わなかった。
どうやらいい答えが思いつかなかったようだ。
シュラクはファイティングポーズを構え、腰に差してあったナイフをすらりと抜いた。動きや構えはただの少年にあらず、それ相応の訓練をした動きが見て取れる。
シュラクの背中には金髪を三つ編みに結った大人しそうな少女がいた。
「お前はなんだ、グロウスなのか? それとも噂のアイツなのか?」
街に忘れ去られた原っぱでシュラクが見つけたのは、真っ黒な靄に襲われそうになっている少女の姿だった。
奴の名前を思い出すのは不愉快だが、この黒いのは義贋総司郎が便宜上名付けたアンノウンなのか。
「お前もなんでこんなとこにいるだよ!」
初めて見た少女にシュラクは強めに言葉を放ってしまう。悪い癖だといつも叫んでから思う。
「わ、わたしは、ただ、庶民の夜を見たいなって……」
泣きそうな声でシュラクの背中に縋りつく。
こいつどこかの貴族か、お偉いさんってところだろう。世間知らずではた迷惑な話だ。
「早く逃げろ!」
「で、でも」
少女は足が竦んで動けないのか、シュラクの背中から離れようとしない。
「やってやる、俺だってやれるってとこおさあ!」
上半身を低く。滑り込むように黒い靄の内側に入り込む。
(取った——!)
何度も反復練習をした動きがスムーズに再生される。あとは首と思われる部分にナイフを切り込む。
——ヒュン。
霧を切るように手ごたえがない。
「グロウスですら身体はあったぞ!」
瞬時にバックステップし少女のところに戻る。
黒い靄はかろうじて人の形をしているような気がする。
ゆっくりと近寄り、手らしい部分を持ち上げておいでおいでを繰り返す。
「よ、呼んでる」
「見ない方が良い」
見ると憑りついてくる輩もいると、ガドウに昔習ったことがある。
「こんなの見つけても対処の仕様がねえ、逃げるぞ!」
引き際の見極めは早く。
シュラクは少女の手を取り踵を返す。
「——!」
いつの間にか後ろに黒い靄がいる。
「なっ!」
靄が少女においでおいでを繰り返す。
伸ばされた手が彼女に届く前に、強く身体を押した。
「誰かを呼べ、呼んで来い! 街には一三聖剣がいる、だから——!」
シュラクは黒い靄にずぶずぶと全身を飲まれていく。飲まれた身体は地面へと沈み、まるで泥沼に引きずり込まれているような感覚だった。
(もうだめか——?)
口元が地面へと飲み込まれ、息苦しくなった時、思考は鈍る。
死ぬ。こんなどうでもいいところで俺は死ぬ。死んじまう。ガドウさんみたいに強くなる前に——両親の敵を取る前に。
視界は既に暗く、息苦しい。地面と同化し、果てのない海へと沈んでいく。けど諦めたくねえ。生きることを諦めたくねえ。
必死にもがき手を伸ばす。
漕いでも漕いでも浮き上がる事は決してない。
(もう息、が——光が……)
ついに意識を失ったか、ありもしない光の点が徐々に広がっていく。
光は徐々に大きくなり、水面から無理やり引き釣り上げられるように、身体が持ち上がる。
「よく、頑張った」
「げほっ、げほ」
「お、お前は、く、黒」
「もうその答えは聞き飽きた。俺は、」
彼は頭を掻き、何かを言おうとして何も言わなかった。
どうやらいい答えが思いつかなかったようだ。
0
2024/10/13 からカクヨムで新作の執筆開始!異世界転移で俺だけ別ゲー仕様!?無職レベル1で実績解除を楽しんでたら闇の組織で世界を救うみたい「うあああ、無職Lv1中年!?けど近未来SFパークで素材もバトルも無双する!」https://kakuyomu.jp/works/16818093086666246290
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説

やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

テクノブレイクで死んだおっさん、死後の世界で勇者になる
伊藤すくす
ファンタジー
テクノブレイクで死んでしまった35才独身のおっさん、カンダ・ハジメ。自分が異世界に飛ばされたと思ったが、実はそこは死後の世界だった!その死後の世界では、死んだ時の幸福度によって天国か地獄に行くかが決められる。最高に気持ちいい死に方で死んだハジメは過去最高の幸福度を叩き出してしまい、天国側と敵対する地獄側を倒すために一緒に戦ってくれと頼まれ―― そんなこんなで天国と地獄の戦に巻き込まれたハジメのセカンドライフが始まる。
小説家になろうでも同じ内容で投稿してます!
https://ncode.syosetu.com/n8610es/

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました
ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが……
なろう、カクヨムでも投稿しています。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる