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隻眼の俺と温室聖剣たちの座談会

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 サウナというものを知っているだろうか。



 大体の日本人はほぼ知っているだろう。高温の水蒸気が詰め込まれている謎の高温室だ。



 サウナ風呂の中には中肉中背の現代出身三五歳の俺、容姿端麗細マッチョの黄金甲冑、筋肉の塊のガドウ、ガドウに着いてきてなんでお前までサウナ勝負に入ってるんだ少年シュラクの四人が一列に座っている。



「驚きましたよ。まさか十三聖剣を抜けた貴方までいたなんて、ガドウ」



「見たくねえ、会いたくねえ、声も聴きたくねえの三本揃ったアウルム様こそ、こんなところに何用だ。仕事馬鹿のお前さんがただ風呂に浸かりに来るわけもあるまい」



「それが、『ただ』浸かりに来ただけなんです」



 額から汗を流しつつにっこりとガドウに微笑む。



「ふん、どうだか」



 汗も拭かずにガドウは呟いた。



「ですので、黒甲冑もどきの義贋総司郎君。今回は極彩色の罪人を捕まえる気はありません」



「……あれだけの攻撃を撃ち込んどいてよく言う」



 あの黄金の奔流に飲まれたおかげで、アトラスは万年動力不足に落ちいったからな。



「業務時間外では誰でも平等な人間ですよ。仕事中ならそうもいきませんがね。そうそう私の国では極彩色の罪人の闘争を手伝ったとして、偽黒甲冑として義贋総司郎君も罪人扱いですので、寄る時は気を付けてください」



「な、お前しか登録しないじゃねーか」



「そうとも言えますね」



 ふふふ、と笑い汗を軽く拭う。



 このアウルムという黄金甲冑はどうにも信用できない表情と声だ。初めて会った時とは違い、のらりくらりとした雰囲気を隠そうともしない。よくできた営業マンみたいな男だ。



「今宵は久々の顔合わせです。もっと楽しい話題にしましょうよ」



「例えばなんだ」



 俺が聞くと、アウルムはわざとらしく指に唇を当てる。



「出るらしいですよこの街に」



「なにが」



 出ると言えば一つしかないがここは異世界。言葉通りに受け取るわけにもいかない。



「グロウスでもない人里離れた山に出現する精霊の類でもない、意味不明なことを呟いて徘徊する何かが」



「何かって」



 何なんだそれは、学校の怪談か。



 何となしにシュラクを見ると、俺を物凄く睨んでいる。目には「お前より早く絶対にサウナを出ねぇ!」という意志が読み取れた。



「ちなみにそれに出会うとどうなるんだ?」



「どうなるんでしょうね。何処かに連れ去られるとかなんとか。まあでもそこまで詳しくは——なんせ僕には聖剣がありますから」



「何でもぶった斬る気か」



「切れる者なら全て」



 さて、といってアウルムはサウナを立つ。



「もし良かったら遊びませんか。せっかくの休暇なのですから」



「先にそいつ——便宜上アンノウンと呼称しよう——を見つけた方が勝ちってことか」



「ええ、流石は義贋総司郎君、話が早い」



 乗る必要はないが、乗らない理由もない。



「俺はパスだ」



 と、ガドウ。雰囲気からアウルムに関わりたくないらしい。



「お、俺は、の、乗ります」



 息も絶え絶えシュラクが手を上げる。



「折角だし、賞品も準備しましょう。勝った人は相手方の好きな相手とデートできるというのはどうでしょう」



「——はあ?」



 何言ってんだお前は。



「いえ、僕、一度くらいは普通に罪人と話をしてみたかったんですよね。"姉妹"を捕まえた事しかないので」



「ああん——?」



 今のアウルムの言葉に俺の中で何かが緊張する。



「やってやろうじゃねえか、その代わり俺が勝ったらてめえとじっくり話をしてやるぜ——アウルム!」



「僕なんかでいいんですか? もう少し若くて可愛い子もいますよ」



 のらりくらりと言い放つが、このアウルム、やはりどこか抜け目がない。



「楽しみにしてますよ黒甲冑もどき、義贋総司郎君。遊ぶ相手がいなくて困っていましたから」



 アウルムが出ていくと、ガドウも立ちサウナを出ていく。



 俺も続いて出ていこうとするが、シュラクがまだ居座っている事に気が付いた。



「出るぞ、シュラク」



「——」



「おい」



「——」



 分かっちゃいたが、想像通り、サウナに負けて気を失っていた。

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