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隻眼の俺と追憶の湯煙
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「お部屋はこちらになります」
二つ結びのメイドさんに案内された部屋は、落ち着いた雰囲気の洋間だった。
窓からは竹林と湯の流れ道が見え、結構いい雰囲気だ。
「結構いい部屋じゃないか」
街の雰囲気や旅館という言葉から、畳の間を想像していたが流石は異世界。内装は洋風で床はフローリングだった。
俺はさっそくスーツの上着をハンガーにかけて、大きく背伸びをする。まだガドウ戦の傷が癒えていないこともあり、身体のどこかしらは必ず痛い。
「さあて、せっかく来たし温泉でも堪能するか」
ベッドの上に置かれているのは浴衣ではなく、一般的な小奇麗なパジャマだった。隣にはシエロの薄ピンク色のパジャマも用意されている。
「シエロはどうする、風呂に行くか?」
だがシエロからの返答はない。
思い返してみたらこの部屋に入ってから、まったく返事がない。
「こ、この部屋は二人部屋なのかな?」
「だろうな、ダブルベッドだし」
何を当たり前のことをと思いながら俺は回答する。
「このベッドで、し、シエロたちは、ねるの?」
「うん? そうだと思うが」
今までもそうだったのに、何を今更と思うところはある。
「ははーん、今まで止まった宿屋とは違って、こんなに大きくてふっくらしたベッドだから、大の字で寝たいんだな?」
「ち、違うんだよ! だってその、あの、うーん——」
なんだかわたわたと身振り手振りで慌てながら、うー、と頬を抑えるシエロ。
ここ最近、というかグロウス:シュレディンガー事件やミセリアと出会ってからいうもの、シエロが恥ずかしがるようになった気がする。
やはり洋服も新しくしたから、年頃なんだろうか。
年頃だと保護者から離れていくもんだしな……。
「分かった。俺も年頃の女の子にデリカシーがなかった、ここは俺が床で寝るぜ! 初めての巨大ベッドを堪能してほしい!」
「ち、ちがうの、そういうんじゃないの!」
じゃあ、どういうことなんだろうと聞き返そうとしたとき、シエロはそそくさと部屋を出て行ってしまった。
そして一分もしないうちに帰ってくる。クロエを連れて。
「クロエ、どうしたんだ。荷物なんか持って」
クロエは自分の荷物袋を抱えて、何故か俺たちの部屋にシエロと戻ってきた。
「……わたしも、ここで、ねる」
「——ん?」
「わたしもここでねる」
「クロエの部屋は確かレウィンリィとじゃなかったか?」
「レウィンリィは酒癖が悪い」
クロエにしては珍しく、目を斜めに伏せて悲しそうに語る。レウィンリィに相当ひどい目にあわされた過去でも思い出しているのだろう。
「んー、俺は良いが」
「シエロもクロエもいた方が良いと思うの!」
うんうんとシエロが大きく首を上下に振ったので、この件に関してはもう決定で間違いない。
「じゃメイドさんに寝床を増やしてもらえるか聞いてみるか」
敷布団みたいなもので俺は寝てもいいしな。
ほら、今ちょうどそこを通った。
「おーい、そこのメイドさん、ちょっといいかな」
手を振るとメイドさんの姿がすうっと消えた。
「あれ?」
シエロとクロエが振り返るとそこには誰もいない。
「どうしたのそうじろう?」
「あ、いや、今メイドさんが——ああ、また通った、すいません、他にも布団欲しいんですけど」
手を振ると今度はしっかりとこちらを認識して、メイドさんは対応してくれた。
メイドさんも忙しいんだなあと思いつつ、俺とシエロ、クロエは大浴場へと向かい、入り口で分かれたのだった。
二つ結びのメイドさんに案内された部屋は、落ち着いた雰囲気の洋間だった。
窓からは竹林と湯の流れ道が見え、結構いい雰囲気だ。
「結構いい部屋じゃないか」
街の雰囲気や旅館という言葉から、畳の間を想像していたが流石は異世界。内装は洋風で床はフローリングだった。
俺はさっそくスーツの上着をハンガーにかけて、大きく背伸びをする。まだガドウ戦の傷が癒えていないこともあり、身体のどこかしらは必ず痛い。
「さあて、せっかく来たし温泉でも堪能するか」
ベッドの上に置かれているのは浴衣ではなく、一般的な小奇麗なパジャマだった。隣にはシエロの薄ピンク色のパジャマも用意されている。
「シエロはどうする、風呂に行くか?」
だがシエロからの返答はない。
思い返してみたらこの部屋に入ってから、まったく返事がない。
「こ、この部屋は二人部屋なのかな?」
「だろうな、ダブルベッドだし」
何を当たり前のことをと思いながら俺は回答する。
「このベッドで、し、シエロたちは、ねるの?」
「うん? そうだと思うが」
今までもそうだったのに、何を今更と思うところはある。
「ははーん、今まで止まった宿屋とは違って、こんなに大きくてふっくらしたベッドだから、大の字で寝たいんだな?」
「ち、違うんだよ! だってその、あの、うーん——」
なんだかわたわたと身振り手振りで慌てながら、うー、と頬を抑えるシエロ。
ここ最近、というかグロウス:シュレディンガー事件やミセリアと出会ってからいうもの、シエロが恥ずかしがるようになった気がする。
やはり洋服も新しくしたから、年頃なんだろうか。
年頃だと保護者から離れていくもんだしな……。
「分かった。俺も年頃の女の子にデリカシーがなかった、ここは俺が床で寝るぜ! 初めての巨大ベッドを堪能してほしい!」
「ち、ちがうの、そういうんじゃないの!」
じゃあ、どういうことなんだろうと聞き返そうとしたとき、シエロはそそくさと部屋を出て行ってしまった。
そして一分もしないうちに帰ってくる。クロエを連れて。
「クロエ、どうしたんだ。荷物なんか持って」
クロエは自分の荷物袋を抱えて、何故か俺たちの部屋にシエロと戻ってきた。
「……わたしも、ここで、ねる」
「——ん?」
「わたしもここでねる」
「クロエの部屋は確かレウィンリィとじゃなかったか?」
「レウィンリィは酒癖が悪い」
クロエにしては珍しく、目を斜めに伏せて悲しそうに語る。レウィンリィに相当ひどい目にあわされた過去でも思い出しているのだろう。
「んー、俺は良いが」
「シエロもクロエもいた方が良いと思うの!」
うんうんとシエロが大きく首を上下に振ったので、この件に関してはもう決定で間違いない。
「じゃメイドさんに寝床を増やしてもらえるか聞いてみるか」
敷布団みたいなもので俺は寝てもいいしな。
ほら、今ちょうどそこを通った。
「おーい、そこのメイドさん、ちょっといいかな」
手を振るとメイドさんの姿がすうっと消えた。
「あれ?」
シエロとクロエが振り返るとそこには誰もいない。
「どうしたのそうじろう?」
「あ、いや、今メイドさんが——ああ、また通った、すいません、他にも布団欲しいんですけど」
手を振ると今度はしっかりとこちらを認識して、メイドさんは対応してくれた。
メイドさんも忙しいんだなあと思いつつ、俺とシエロ、クロエは大浴場へと向かい、入り口で分かれたのだった。
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