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隻眼の俺と赤髪の純粋

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 俺とガドウとレウィンリィが交替で馬車を走らせる。屋根付き馬車は大きく、椅子も全員が座れる分は確保されていて乗り心地も悪くない。



 シエロも馬車を走らせているうちに機嫌が直ったらしく、クロエと楽しそうにあれこれ話していた。レウィンリィは馬車に揺られながら読書を楽しんでいる。



「つまり義贋が強いのではなく、甲冑が強いのか」



「そうだな。俺はこの通り筋肉もない男だ」



 細腕をまくり上げ、手綱を握るガドウへ見せる。



「ふむ、十三聖剣にも似たような奴はいた。聖剣使いも聖剣と鎧に使われている賢者の石で、身体能力を強化している」



「賢者の石か、凄そうな名前だな」



「太古の昔の魔術時代に人工的に作られた物質と聞く。発掘はほとんど終わったそうだが、残っている物を切り分けて使われておる」



「聖剣と聖剣見習いに使われてるってことか」



 俺はアトラスに取り込んでしまった聖剣見習いのミセリアの剣を思い出す。



「見習いに振り分けられる賢者の石はほぼ砂粒だ。その賢者の石を成長させることができるかが鍵となる。使用者の運命や生き様に反応し、大きくなる、文字通りな」



「それが聖剣使いの聖剣と鎧ってわけか」



「聖剣の力は魔術であるが、現代魔術ではない。古代魔術だが意味も分からず俺たちは使っている」



「なるほどな、時代が違うと同じ魔術ではないのか」



 そうこう話しているうちに馬車はなだらかな坂道を徐々に登り、湯けむりが見えてきた。



 ガドウと話し込んで気が付かなかったが、この辺り一帯は竹林が生い茂っており、湯気が沸き立つ街並みには木材で出来た家々が並び立つ。



 丘に作られているのか、段々になっている街は色取り取りの屋根を見せ、これから向かう者達を歓迎しているようだ。



「ここは観光で成り立ってる街、トゥリズモスだ」



「街!」



 元気よく叫んだ声が聞こえ、御者席に座る俺の顔のすぐ脇からシエロが顔を出した。



「街の中央に長い階段がある! そうじろう、街の頂上まで行ってみるの!」



「そうだな、後で行くか。街の高台から見る景色は絶景だろうなあ」



「やったー!」



 背中から抱きついて喜びを表現する。



「おいおい、ここで騒ぐと落ちるぞ」



 それと顔が近い。



 シエロの真っ白な頭を撫でて落ち着かせ、とりあえず椅子に戻るように促す。



「世話が焼けるおこちゃまだ」



 といいつつ顔がにやけてしまうのは何故か。



「加点十点」



「うおっ!」



 先ほどまでシエロが顔を出していた位置から、今度はクロエが顔を出す。



「なんなんだこの点数は」



「ふふふ……」



 不敵な笑みを浮かべたままクロエは音もなくシエロの元へ帰る。



 シエロとは違い、表情にあまり変化がないせいか、クロエはかなりミステリアスだ。
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