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隻眼の俺と休息地と減点対象

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「へえ、結構良い身体してるねえ」



 背中を人差し指で上から下にツツツと動かされ、俺は小さく声を上げた。



「準備はできたか、レウィンリィ」



「酒瓶を一本空けるほどには待ってたよ」



 振り向くと、嫌が応にも一番初めに、豊満な形のいい胸部が目に入ってくる。視界を上げると眼鏡をずり下げながらかけている、長い髪を一つに結っている妖艶な女性が立っていた。



「ど、どうも」



 顔立ちもやけに艶っぽく、垂れた目じりと泣きホクロが色っぽさを際立たせる。胸元はだらしなく、ホットパンツから伸びる脚は程よく肉付き健康的で、何処に目をやっていいのか分からない。



「可愛い顔してる」



 にっこりと笑いながらレウィンリィは俺の頬をなぞった。



「あー、こ、これは、どういった」



 俺こと義贋総司郎、三十五歳。女性との触れ合いはさほど多い部類ではなく別れ際も散々だったので、どうにも女性に対しての扱いが分からない。情けないことにな。



「挨拶は後だ行くぞ、レウィンリィ、義贋。子供二人」



「い、行くってどこにだ?」



 レウィンリィの指をそっと避けて、俺はガドウに向き直る。



「そいつの足しにはならんだろうが、せめてもの報いだ」



 俺の潰れた右目を見てガドウは苦笑する。少しばかり気にはしてくれているらしい。



「温泉街だ」



 お、温泉街——?



 俺は異世界にあるまじき言葉を聞き、どう処理していいか固まってしまう。温泉、温泉ってあの温泉だよな。暖かいお湯の。



「歓迎会とはいかなかったが、酒は飲める。そうと決まれば外の馬車に乗り込め! ぬはは!」



 お前は飲めれば何でもいいだろうがな、と突っ込もうとしたが、ガドウがだんだん近所のガタイの良いオッサンにしか見えなくなってきたので、口をはさむのを辞めた。



「は~い、またねチェリーブロッサム」



 腰に手を当てながら レウィンリィもガドウに着いていく。モデルのような歩きがくびれをより一層強調させ、久しぶりに見た大人の女に気圧されてしまう。



「——って誰がチェリーだ!」



 と突っ込んだのも束の間、物凄い勢いで背中に掌を叩きつけられて「ひっ」と小さな声が出る。まだガドウ戦の傷が癒えてないんだぞ——。



「ふん、行こう。クロエ」



 地面にうずくまる俺を置いて、何故か不機嫌なシエロが、珍しくドスドスと歩いていく。



「なんだよ、シエロのやつ」



 立ち上がりながら、俺も皆の後を追うとすると、前を歩いていたクロエは振り返り、一言いった。



「減点、四十点」





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