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隻眼の俺と魔術を狩る者

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「小僧と極彩色の罪人はグロウスを全て鎮魂し、魔術を一掃すると言っていたな。そんなことができると思うか? 魔術は世界を豊かにする万能の力だ。魔術によって人がグロウス化しようとも、人は魔術開発を辞めないであろう」



「万能すぎる力は人には早すぎる。どんな世界でも」



「より大きな街では魔術は下級国民に使用させ、貴族や王族はその恩恵を授かるルールすら敷かれている。下級国民はいずれグロウスになるが、素材として魔術の元に還元される。甘い汁を吸うのは権力者ばかりだ。故に権力者を敵に回せば他の極彩色の罪人のように万死よりも厳しい未来が強いられる」



「シエロは優しいやつだ。姉を助けるためと言っているが、グロウスを鎮魂して助けたいなんて言ってる。多分森の中でグロウスと生きてきたからなんだろう。自分の生きている役目をよく知ってる」



 俺のように自分の生きる道を模索してるやつからすると、あまりにも眩しすぎる。



「だから俺がシエロを助ける。俺が助けるからにはグロウスも姉さんも助け、魔術すら消し去ってやるさ」



 酒をぐっと煽り、一気に腹の中に押し込める。腹の奥がじわりと熱くなった気がした。



「謙遜でもなく口だけでもない。聖剣が反応するのも頷ける。小僧、第三聖剣になる気はないか?」



「ない。聖剣には良い思い出がないんでね」



 黄金甲冑といいガドウといい勧誘が好きな奴らだな——ん、第三聖剣?



「第三聖剣はガドウじゃないのか」



「聖剣はやめてやったわ。ぬははは」



「ぬはははって……」



 笑ってる場合かよ。



「俺の斬馬刀も小僧の槍に折れ、鎧も小僧の刀に断ち切られた」



 どこか懐かしそうに傷だらけの腕を見ながらガドウは語る。これまで聖剣として多くの戦場を駆け抜けてきたのだろう。



「今の聖剣にいては、聖剣を持った時の気持ちは思い出せん。だから辞めたまでだ」



「そうだったのか……」



「離れてこそ分かる。聖剣という肩書がなくとも、俺は聖剣使いだということがな」



 ニヤリと笑う顔は以前よりも晴れやかな気がする。



「さて本題だが、今世界中は新たな魔術という力に沸いておる。だが、それをよく思わぬ者たちもいると思わんか?」



 クロエとシエロも談話がひと段落したのか、ガドウの声に耳を傾ける。



「人それどれ理由はある。武を極める者、グロウスを憎むもの、同じように魔術を憎むもの、科学を愛するもの、争いを好まぬもの——実に多様だ。ここが何なのか、もう分かるであろう」



 隠れ家のような地下室。研究室のような部屋。生活感のある食器や観葉植物。



「ようこそマギアハウンドへ。極彩色の罪人とその騎士よ、勧誘させていただこう」
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