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無色の俺と墓守の少女と無意味な選択

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 時刻は昼過ぎ。



 食堂には数人の村人がいた。



「遅いな……」



 俺はシエロとミセリアを待ちながら席に付いていた。



 二人が来る前に昼食を頼もうか、それとも探しに行ってみるか。



「アトラ、人工衛星から二人の姿は見えるか?」



『はい、シエロは広場に座っており、ミセリアは大通りをゆったりと歩いております』



「二人とも集合時間忘れてるのか?」



 やれやれと俺は頭を掻いて立ち上がる。



 あの墓にいた少女について、早いところ意見交換したかった。



 二人も何かしらの情報を手に入れているとは思うが、総合すれば何らかの答えも出るだろう。



 食堂を出て広場へと向かう。まずはシエロと合流しようと考えたからだ。



 だが、



「あれシエロいないよな?」



 辺りを見渡してもどこにもシエロの姿は見当たらない。服装は真っ白なので見失うことはないはずだ。



『人工衛星からの視点ではシエロは、今まさに目の前にいます』



「目の前って——誰もいないぞ」



 広場にはいつものように村人が往来しているだけだ。



「どうなってんだ……」



 ここで俺の脳内に一つの映像が思い浮かぶ。



 ガドウに助けられたとき、ガドウの一撃で破壊された墓地は少女が消えてから、元通りになっていた。



 少女がしゃがんでいた墓石を見ると『レイス=クラウド』の文字が彫られていた。



「分からん……何故、シエロはいない、墓地は元に戻った?」



 存在しないグロウス、墓石の名前のレイス、墓場の少女、アトラが見ているシエロ——どこかに鍵があるはずだ。今はまだふわふわと浮かんでどれとも結びつかないが、一つさえ分かってしまえば全てが繋がる気がした。



 まずはシエロとミセリアと合流すべきだ。



 胸騒ぎを覚え足早に歩きだしたとき、路地裏からにゃあと小さな声が聞こえた。声に振り向くと、そこには黒猫と、真っ黒な服の髪の少女がじっと俺を見つめていた。



「君は……」



「あなたが総司郎ね」



 少女はぼそっと呟く。



「私は無意味な選択を迫る」



 無意味な選択、何のことだ?



 少女が話しかけてきてからというもの、肌がざわざわする。毛穴の一つ一つが開いているような気持ち悪い感覚だった。俺の体の中にいるパスカルも同様なのか、落ち着いていないような気がする。



「いいの、黙ってて。これはもう何も選べない私にとっても、無意味な選択なんだから」



 少女が誰に話しかけたのか分からない。



 しかし見た目の幼さに反して大人びた喋り方だ。



 少女は指を一つ立てる。



「一つ、貴方は誰も助けられない。大切な人さえも。何故なら踏み込んだ時点で、もう終わっているから。でもこの中で彼女と生きていくことはできる。いずれ意識も全て飲まれていくけど」



 二本目の指を立てる。



「二つ、あなたは誰も助けられない。大切な人さえも。けれど永遠を終わらせるためにもがくこともできる。今なら。でもその選択を選んだ時点であなたは死ぬ。見張られているから」



 少女は黒い瞳で俺をずっと見つめる。瞳から感情を読み取ることはできないが、深く吸い込まれそうなほどの深淵を宿している。



「さあ、選んで。私がせめて、踏み入れた者に与えられるのはこの二つだけ」



「質問の意図が分からないな、何故君は俺の前に現れた」



「シエロが信じてる人だから。私の気まぐれ。無意識に意識を失って取り込まれるより、自分の意志で選んだ方が、まだ人間らしく死ねると思ったから」



「俺は死んでいない、死ぬ気もない」



「いいえ、あなたはもう死んでいるのと同意義。だからせめて死に方を選んで。彼らを説得できる時間は少ない」



「彼らか、アトラ、何か感じるか?」



『なにか、ですか。もしお答えするならば人工衛星では平和的な情景です。証拠としてマスターはシエロと並んで座っておりますが』



 そうか、アトラには本当の俺たちが見えていないんだ。



「アトラ、今すぐ来い! 手遅れになる前に!」



『承知しました。……場を明るくするウィットにとんだジョークは必要ですか?』



「目の前で聞きたいから早く来い」



『可能な限り急ぎます』



 やばいぞこれは、いつから罠にはまっていた。



 多分これは、いやこの村そのものが、グロウスの魔術によって特殊な状態にある。



「君がグロウスなのか——」



「分からない、私自身はもう、名前すらも思い出せない。急いで、もう」



 少女が苦しそうに胸を抑える。



 俺の肌に感じるピリピリも更に異常を増していく。



「異物を殺しにやってくる」



 路地の両脇にある家は大きく歪み、質量を無視して巨大な二本の槍へと変貌する。宙に浮いた槍はまるで電信柱の先っぽがとがったようなものだ。



 俺に標準を合わせ、



「——うおおお!」



 全速力で前に駆け出す。両足に力を込めるとパスカルの力も合わさって、想像よりも遥かに早いスタートダッシュがきれた。



 勢いに任せて少女を抱きかかえ、すぐさまその場を転がる。



 なんだ、毎回俺は少女を抱いて転がっているような気がする。どんな定めだこれは。



 槍は俺がいた地面へとキレイに刺さっており、少女が経っていた場所には代わりに巨大な甲冑を着た男が斬馬刀を地面に叩きつけていた。



「——小僧、何をしたか分かっているのか」



「分かってるさ」



 俺は少女をゆっくりと離して、彼女の前に立つ。
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