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無色の俺と鈍赤甲冑と墓守の少女

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「「あっ」」



 早朝五時。流石にミセリアは起きていないだろうと思い、早朝に剣を宿の主人に渡そうとしたとき、階段を下りてくるミセリアと目が合った。



「お、おう、おはよう」



「お、おはようございます」



 これは俺でも気まずい。昨日の夜はお互いに自分の事情を話したものだが、朝のテンションで昨日の事を思い出すと、夜のテンションでかっこいい感じに喋っててとても恥ずかしい。



 それはミセリアも同じだったらしく、目線をふわふわさせながら俺の隣に立った。



 ミセリアも剣を受け取るべきか悩みつつ、とりあえず歩いてきただけだろう。この間の悪さが《幸運切りのミセリア》と呼ばれている所以なのかもしれない。



「あー、どうしよっか」



「そ、そうですね」



「とりあえず、持ってくか?」



「い、いえ、その、聖剣見習いとして、二言はなく、その、行商が終わってからでもいいかな、と」



「まあでも、持っててもいいぞ、いつ会うかなかなか分からんし」



「う——その言い方はあまり良くありませんよ。いつ会うかというか、私と総司郎の中はそのようなものなのですか」



 ミセリアは少し頬を膨らませて俺を見上げる。シエロに私は可愛い系ではないといった割に、中年の俺から見ても十分に魅力的な美人の因子を持っている。



 年頃になれば引く手あまたになるであろう。



「私たちは二日しか夜を共にしていませんが、それでも互いを信じた仲だと私は思っていました。ですがいつ会うか分からないなどと——その言葉は悲しいです」



「い、いやそういう意味じゃないんだ、ミセリア」



 おろおろする俺と悲しそうにするミセリア、そしてそれを盗み見る宿屋の主人。どう考えても勘違いしている。中年の親父が年頃の女に手を出して、純粋な女子が泣き崩れるシーンだと思っていやがる。



「何が違うのです。私を信じてほしい——私が必ず、一番良い方法を見つける。総司郎もシエロも私が幸せにする」



「……シエロがどうしたの?」



 ミセリアが言いきったとき、階段の踊り場には俺が部屋にいなかったから探しに来たパジャマ姿のシエロの姿があった。



 小さな白い肩を片方出して、ひざ下までのワンピース。いつものストレートな髪は少しだけ寝癖がついて髪が外側にはねている。



「シエロ、私が総司郎とシエロが安心して暮らせるよう頑張る。だから安心してほしい。私を信じてほしい」



 シエロに向かってミセリアは大きく手を広げた。



 その姿は何処をどう見ても、子連れバツイチ中年男性に押し掛けてきた、暴走気味の女子高生女房にしか見えない。



 事実、宿屋の主人はもう完全にそう思っている。



「親父、違うからな。部屋一緒にするなよ」



 と言ってやりたかったが、心の中にぐっと押しとどめた。言ったらマジっぽいからな。



 それからすぐにシエロを着替えさせ、ミセリアの剣は俺が預かる事で話はまとまった。



「総司郎。昨日のガドウ様との共闘は諦めたわけではありません。ですが総司郎とシエロは納得せず、独自に行動するでしょう。であれば私ができる限りサポートします。そのうえでガドウ様の力が必要ならば私は打診する」



 ミセリアなりに答えを出したのか、目を合わせずに俺へと説明してくれた。まだ恥ずかしそうだが、それでも彼女から歩み寄ってくれたことがありがたかった。本当であれば年上の俺が彼女に歩み寄るべきなのに。



「ありがとう、ミセリア」



「い、いえ、礼を言われるほどの事は。ですが、本当に危ないことはしないでください」



「善処するよ」



「大人の善処するほど、信じられないものはありませんね」



 ふふとミセリアは小さく笑った。



「さてどうだシエロ、朝になってもグロウスの声は聞こえないのか?」



「うーん……グロウスの声は聞こえないんだよ。でもなんか、普通の音ではないと思う」



「何が普通の音じゃないんだ?」



 目を瞑って耳を澄ましているシエロ。俺たちの周囲に特におかしなものはない。早朝から水くみに出る男性、洗濯を干す女性、畑仕事を始める老夫婦、樽の上でぼーっとこちらを見ている猫。



 建物も農村って感じの木の建物か土壁が殆どだ。生活用水で使用している井戸や小さめの湖、こじんまりとした牧場など目に見えておかしなところは存在しない。



「でも何かいつもと違う気がするの——グロウスの声が聞こえないのもあるけど、壁があるような——水の中みたいな」



「水の中? くぐもっている感じか」



「うん、多分そうなの」



 グロウスの声を聞こえないように誰かが細工しているのだろうか、でも誰がそんなことを。グロウスは本来、人に危害を加えないと、初めて会ったとき黄金甲冑は言っていた。



 マリアベルのラプチャーはマリアベルを襲うことはなかった。つまりグロウスは何らかの自由意思を有しており、だからこそグロウスを守ろうとしている人間もいるということなのか?



「協力者がいるのかもしれないな、グロウスを守る」



「でもグロウスの声を隠すのは、魔術でも使わない限り無理だと思うの」



「魔術を使う奴がいるのかもな、この村に。俺たちも聞き込みをしてみようぜ」



 俺たちが話し込んでいる間にガドウが連れてきた剣士たちが、朝日に焼かれながらおぼつかない足取りで村人たちに聞き取り調査を行っていた。



 相当飲まされたのだろう。ブラック企業で働いていた俺からすると、上司命令は絶対なので彼らに心の中でエールを送ってしまう。



「分かった、では昼ご飯の時に情報交換をしよう」



 そういってミセリアはすぐにこの場を後にした。行動力の権化だ。
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