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『無色の俺と実直な均衡者』
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「そうじろう、シエロたちはどうやって探すの?」
店を出て宿屋に向かう途中、シエロが俺と並びながら歩く。
「シエロがグロウスの声が聞こえないんじゃ、俺たちも聞きこむしかないか」
聞きこむにしても今はもう夜一九時過ぎ、現代のように街は生命力に溢れてはいない。異世界でもっと大きな町なら明るいのかもしれないが、田舎は食堂以外は既に真っ暗だ。
「聞きこむ相手がいないから明日だろうな……」
「分かったよ、そうじろう」
ふんす、とシエロは気合を見せる。いつになくやる気のようだ。
「やる気じゃないか」
「なんか今日は、がんばろうかなって」
「良い心がけじゃん」
きっかけは分からないがシエロがやる気だと、俺もなんかやる気が湧いてくる。
「少し良いですか総司郎」
「どうした、ミセリア?」
俺とシエロの後ろを歩いていたミセリアがふいに呼び止めた。
「二人は行商人見習いではないのですか? 話を聞いているとまるで、グロウウを狩ろうとしているように聞こえる」
「あー、狩ろうとはしているな」
「いけません!」
ミセリアは大きな声で強く言葉に出した。あまりの強さにシエロはビクッと俺の後ろに隠れる。
「——勢い余ってしまい、すみません。ですが総司郎、グロウスは聖剣にも手が余る場合があります。それを貴方のような人たちが、関わる必要はない」
「それはそうなんだが、俺たちにも事情があるんだ」
「もし商売の為にグロウスの遺体を手に入れようというのなら、私は全力で止める。ここまで私に良くしてくれた恩人を、危険にさらすような真似を絶対にするわけにはいかない」
一般的にグロウスは聖剣一人でやっと狩れるほどと言われている。過去にマリアベルの父親——ラプチャーと対峙したが、彼は明らかに手を抜いていた。多分、自我で己の行動を抑制していたのだろう。
もし理性がないグロウスと対峙したとき、俺とシエロは勝てるのだろうか。
『マスター、今回は私もミセリアに賛成です。現在のアトラスでは対異世界生物に対抗できる力はありません』
「アトラまで——」
『異世界でのマスターの明確な目的はございませんが、無茶な行動は慎むべきかと。現在は効率よく運用できる動力確保が最優先かと』
分かってはいる事だが、アトラのいっていることは正しい。だが聖剣にグロウスを殺されれば、そのグロウスは再びこの世界で苦しみ続ける。生まれ変わってもグロウスのままだ。
「そうじろう……シエロは、」
シエロの目的もグロウスの鎮魂も、俺には関係のないことだから聖剣に任せればいいのだろう。
けど俺は引きたくなかった。
目の前で、もう一人で頑張るやつを見るわけにはいかない。俺には誰も手を差し伸べてくれなかった。
だから俺が手を差し伸べてやりたい。
「ありがとうミセリア、心配してくれるんだな」
俺は隠れるシエロの手を強く握る。
「俺はシエロと共にある」
「総司郎、訳を聞いてもいいですか」
「ああ」
俺たちは宿屋に向かい、ミセリアにグロウス化する理由、シエロ以外がグロウスを殺した場合を説明した。聖剣見習いは魔術やグロウス研究には疎い、ミセリアは黙って聞いていたが、話を聞き終わってから深く息を吐いた。
「それは真実なのか」
仮にも聖剣見習いなのでシエロが極彩色の魔女だということは隠している。ちょっとした特殊な体質で、グロウスを鎮魂でききるとかなりぼやかしているので、説得力はないかもしれない。それに俺たちは親子行商人見習いにしか見えないのだから。
「信じるどうかは自由だ」
「仮にですが、もしその話が真実なら、ガドウ様と共闘すべきです。ガドウ様にグロウスを追い詰めてもらい、シエロの鎮魂歌で止めを刺す」
「それは無理だ。聖剣は国の利益のためにグロウスの遺体をかき集めているんだろ? 鎮魂がが目的じゃない」
「いえ、十三聖剣は国に所属している前に世界の調停者。均衡を保つために各国に平等に所属しています。訳を聞けばガドウ様とて手を貸してくれるはずです」
果たしてそうだろうか。見た目と言動からしか察せないが、ガドウという男をそれほど信用できない。それにシエロの事を知られるのは危険な気がした。
「ミセリア、すまない。こう言っては何だが、俺達は、この魔術革命の時代において異端だ。グロウスを消していくことはいずれ魔術をけすことになる。それでも俺たちは——俺はシエロの助けになりたい」
俺は立ち上がってシエロを連れて、無言のセリシアの部屋からでていこうとした。
「総司郎、他人を信じてほしい——聖剣使いはきっと想いに応える」
語り掛けるミセリアを背に、
「——剣は明日の朝までに宿に預けておく」
そう返すのが精いっぱいだった。
『無色の俺と実直な均衡者』
店を出て宿屋に向かう途中、シエロが俺と並びながら歩く。
「シエロがグロウスの声が聞こえないんじゃ、俺たちも聞きこむしかないか」
聞きこむにしても今はもう夜一九時過ぎ、現代のように街は生命力に溢れてはいない。異世界でもっと大きな町なら明るいのかもしれないが、田舎は食堂以外は既に真っ暗だ。
「聞きこむ相手がいないから明日だろうな……」
「分かったよ、そうじろう」
ふんす、とシエロは気合を見せる。いつになくやる気のようだ。
「やる気じゃないか」
「なんか今日は、がんばろうかなって」
「良い心がけじゃん」
きっかけは分からないがシエロがやる気だと、俺もなんかやる気が湧いてくる。
「少し良いですか総司郎」
「どうした、ミセリア?」
俺とシエロの後ろを歩いていたミセリアがふいに呼び止めた。
「二人は行商人見習いではないのですか? 話を聞いているとまるで、グロウウを狩ろうとしているように聞こえる」
「あー、狩ろうとはしているな」
「いけません!」
ミセリアは大きな声で強く言葉に出した。あまりの強さにシエロはビクッと俺の後ろに隠れる。
「——勢い余ってしまい、すみません。ですが総司郎、グロウスは聖剣にも手が余る場合があります。それを貴方のような人たちが、関わる必要はない」
「それはそうなんだが、俺たちにも事情があるんだ」
「もし商売の為にグロウスの遺体を手に入れようというのなら、私は全力で止める。ここまで私に良くしてくれた恩人を、危険にさらすような真似を絶対にするわけにはいかない」
一般的にグロウスは聖剣一人でやっと狩れるほどと言われている。過去にマリアベルの父親——ラプチャーと対峙したが、彼は明らかに手を抜いていた。多分、自我で己の行動を抑制していたのだろう。
もし理性がないグロウスと対峙したとき、俺とシエロは勝てるのだろうか。
『マスター、今回は私もミセリアに賛成です。現在のアトラスでは対異世界生物に対抗できる力はありません』
「アトラまで——」
『異世界でのマスターの明確な目的はございませんが、無茶な行動は慎むべきかと。現在は効率よく運用できる動力確保が最優先かと』
分かってはいる事だが、アトラのいっていることは正しい。だが聖剣にグロウスを殺されれば、そのグロウスは再びこの世界で苦しみ続ける。生まれ変わってもグロウスのままだ。
「そうじろう……シエロは、」
シエロの目的もグロウスの鎮魂も、俺には関係のないことだから聖剣に任せればいいのだろう。
けど俺は引きたくなかった。
目の前で、もう一人で頑張るやつを見るわけにはいかない。俺には誰も手を差し伸べてくれなかった。
だから俺が手を差し伸べてやりたい。
「ありがとうミセリア、心配してくれるんだな」
俺は隠れるシエロの手を強く握る。
「俺はシエロと共にある」
「総司郎、訳を聞いてもいいですか」
「ああ」
俺たちは宿屋に向かい、ミセリアにグロウス化する理由、シエロ以外がグロウスを殺した場合を説明した。聖剣見習いは魔術やグロウス研究には疎い、ミセリアは黙って聞いていたが、話を聞き終わってから深く息を吐いた。
「それは真実なのか」
仮にも聖剣見習いなのでシエロが極彩色の魔女だということは隠している。ちょっとした特殊な体質で、グロウスを鎮魂でききるとかなりぼやかしているので、説得力はないかもしれない。それに俺たちは親子行商人見習いにしか見えないのだから。
「信じるどうかは自由だ」
「仮にですが、もしその話が真実なら、ガドウ様と共闘すべきです。ガドウ様にグロウスを追い詰めてもらい、シエロの鎮魂歌で止めを刺す」
「それは無理だ。聖剣は国の利益のためにグロウスの遺体をかき集めているんだろ? 鎮魂がが目的じゃない」
「いえ、十三聖剣は国に所属している前に世界の調停者。均衡を保つために各国に平等に所属しています。訳を聞けばガドウ様とて手を貸してくれるはずです」
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「ミセリア、すまない。こう言っては何だが、俺達は、この魔術革命の時代において異端だ。グロウスを消していくことはいずれ魔術をけすことになる。それでも俺たちは——俺はシエロの助けになりたい」
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「総司郎、他人を信じてほしい——聖剣使いはきっと想いに応える」
語り掛けるミセリアを背に、
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