上 下
20 / 70

『無色の俺と実直な均衡者』

しおりを挟む
「そうじろう、シエロたちはどうやって探すの?」

 店を出て宿屋に向かう途中、シエロが俺と並びながら歩く。

「シエロがグロウスの声が聞こえないんじゃ、俺たちも聞きこむしかないか」

 聞きこむにしても今はもう夜一九時過ぎ、現代のように街は生命力に溢れてはいない。異世界でもっと大きな町なら明るいのかもしれないが、田舎は食堂以外は既に真っ暗だ。

「聞きこむ相手がいないから明日だろうな……」

「分かったよ、そうじろう」

 ふんす、とシエロは気合を見せる。いつになくやる気のようだ。

「やる気じゃないか」

「なんか今日は、がんばろうかなって」

「良い心がけじゃん」

 きっかけは分からないがシエロがやる気だと、俺もなんかやる気が湧いてくる。

「少し良いですか総司郎」

「どうした、ミセリア?」

 俺とシエロの後ろを歩いていたミセリアがふいに呼び止めた。

「二人は行商人見習いではないのですか? 話を聞いているとまるで、グロウウを狩ろうとしているように聞こえる」

「あー、狩ろうとはしているな」

「いけません!」

 ミセリアは大きな声で強く言葉に出した。あまりの強さにシエロはビクッと俺の後ろに隠れる。

「——勢い余ってしまい、すみません。ですが総司郎、グロウスは聖剣にも手が余る場合があります。それを貴方のような人たちが、関わる必要はない」

「それはそうなんだが、俺たちにも事情があるんだ」

「もし商売の為にグロウスの遺体を手に入れようというのなら、私は全力で止める。ここまで私に良くしてくれた恩人を、危険にさらすような真似を絶対にするわけにはいかない」

 一般的にグロウスは聖剣一人でやっと狩れるほどと言われている。過去にマリアベルの父親——ラプチャーと対峙したが、彼は明らかに手を抜いていた。多分、自我で己の行動を抑制していたのだろう。

 もし理性がないグロウスと対峙したとき、俺とシエロは勝てるのだろうか。

『マスター、今回は私もミセリアに賛成です。現在のアトラスでは対異世界生物に対抗できる力はありません』

「アトラまで——」

『異世界でのマスターの明確な目的はございませんが、無茶な行動は慎むべきかと。現在は効率よく運用できる動力確保が最優先かと』

 分かってはいる事だが、アトラのいっていることは正しい。だが聖剣にグロウスを殺されれば、そのグロウスは再びこの世界で苦しみ続ける。生まれ変わってもグロウスのままだ。

「そうじろう……シエロは、」

 シエロの目的もグロウスの鎮魂も、俺には関係のないことだから聖剣に任せればいいのだろう。

 けど俺は引きたくなかった。

 目の前で、もう一人で頑張るやつを見るわけにはいかない。俺には誰も手を差し伸べてくれなかった。

 だから俺が手を差し伸べてやりたい。

「ありがとうミセリア、心配してくれるんだな」

 俺は隠れるシエロの手を強く握る。

「俺はシエロと共にある」

「総司郎、訳を聞いてもいいですか」

「ああ」

 俺たちは宿屋に向かい、ミセリアにグロウス化する理由、シエロ以外がグロウスを殺した場合を説明した。聖剣見習いは魔術やグロウス研究には疎い、ミセリアは黙って聞いていたが、話を聞き終わってから深く息を吐いた。

「それは真実なのか」

 仮にも聖剣見習いなのでシエロが極彩色の魔女だということは隠している。ちょっとした特殊な体質で、グロウスを鎮魂でききるとかなりぼやかしているので、説得力はないかもしれない。それに俺たちは親子行商人見習いにしか見えないのだから。

「信じるどうかは自由だ」

「仮にですが、もしその話が真実なら、ガドウ様と共闘すべきです。ガドウ様にグロウスを追い詰めてもらい、シエロの鎮魂歌で止めを刺す」

「それは無理だ。聖剣は国の利益のためにグロウスの遺体をかき集めているんだろ? 鎮魂がが目的じゃない」

「いえ、十三聖剣は国に所属している前に世界の調停者。均衡を保つために各国に平等に所属しています。訳を聞けばガドウ様とて手を貸してくれるはずです」

 果たしてそうだろうか。見た目と言動からしか察せないが、ガドウという男をそれほど信用できない。それにシエロの事を知られるのは危険な気がした。

「ミセリア、すまない。こう言っては何だが、俺達は、この魔術革命の時代において異端だ。グロウスを消していくことはいずれ魔術をけすことになる。それでも俺たちは——俺はシエロの助けになりたい」

 俺は立ち上がってシエロを連れて、無言のセリシアの部屋からでていこうとした。

「総司郎、他人を信じてほしい——聖剣使いはきっと想いに応える」

 語り掛けるミセリアを背に、

「——剣は明日の朝までに宿に預けておく」

 そう返すのが精いっぱいだった。



 『無色の俺と実直な均衡者』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

処理中です...