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第6話 極彩色の魔女と山吹色の旅人
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街道から北へ十五キロ。小型人工衛星を飛ばしたアトラによれば、街道をまっすぐ進むとそれなりに大きな街が見えるとのことだった。
街道は踏み固められていてそれなりに歩きやすい。
結構すれ違う行商人や馬車を見る限り、この世界の文化レベルは科学が発展する手前のようだ。いや科学じゃなくて魔法が発展する可能性がある世界か。
血みどろだったシエロの服は、途中すっころんで川に突っ込んだおかげで結構白くなった。そのおかげで少し機嫌が悪いが、草花を見ているとすぐに明るい調子に戻っていた。
俺はスーツのジャケットを肩にかけ、額から流れる汗を拭う。三十超えた運動不足の社会人に、十五キロのウォーキングはきつい。
アトラスを着用してもいいのだが、常に戦闘状態みたいな気分になるのであまり着たくなかった。服は重要だ。出来る事なら今すぐジャージのような楽な服に着替えたい。洋服によってリラックスすると、気分を切り替えられる。このメリハリが中年には必要なのだ。
「ねえねえ、そうじろう」
さっきまで先頭を歩いていたシエロがくるっと振り向いて、俺に並んで袖を引く。
「どうした、街はまだ先だぞ」
『残り十キロです』
耳の後ろにくっついているアトラスの一部から、アトラの声が骨伝導で直接体内に響いた。
「もう少し、気の利いた言い方してくれ。やる気がそがれる」
『マスター、足の筋肉、仕上がってますよ、仕上がってます』
「仕上がってねえよ。どこで覚えた、その棒読み」
『元マスターは、これで何度も走ってくれましたが、ナイスバルク』
「マッチョなオッサンでも入ってたのかよ」
何なんだこのAIは。会話するほど自然になっていきやがる。
「ねえねえってば、そうじろう」
「ああ、わるい、どうした」
無駄な会話を切り上げると、ほほを膨らませたシエロが俺を見上げる。
「いつも一人で話して気持ち悪いよ。シエロは大人だから黙ってたけど、そうじろうはシエロの旅の従者なんだから、ちゃんと教えてあげるんだよ。人前で恥ずかしい行いは従者として恥なんだよ。一緒にいる方の身にもなれって姉さまが言ってた」
「そら、うれしいね。ありがとう」
幼女に心配されるとは。アトラと会話するときは小声にしないとダメだな。
「でね、シエロ、まちって何なのかなーと思てったの」
「まさか街知らねーのかよ」
こくんとシエロは頷く。
「街ってのは人が一杯いて、物とか売ってて……旨い飯が食えるとこだな」
「うまいめし!?」
シエロはその場でぴょんと飛び跳ねる。その拍子に腰まである長い白髪や白ローブも感情を表すようにふわっと沸き立つ。
「早くいこう、そうじろう!」
「早くいけるものなら早くいきたいとこだが、走りたくはねえなあ……と思ったが渡りに船とはこのことか」
俺はにやりと笑う。
「アトラ、片腕だけ飛んでこれるか?」
『今、森で熊を捌いて食しておりましたが、それでよければ』
「途中で川の中に突っ込んで来い」
やっぱ生ものを食べるんだ。空のスーツのまま、自動で捕らえて捕食してるのなら、三流ホラーになりそうな話だ。あのスライム状態で溶かしてるなら一流グロテスクだが。
ちなみに俺の中にいるパスカルを利用して稼働してしまうと、パスカルそのものが燃料として消費されてしまい、再びグロウスとして彷徨ってしまう可能性がある。そのため、俺の中の燃料は緊急時以外保存しておくこととなった。
「いいかシエロ、あそこに車輪がははまって困ってそうな馬車とおっさんがいるだろう?」
俺が右腕を天高く振り上げると、二の腕辺りまで黒い装甲が装着される。ところどころ血糊ついてるんだが、もっとしっかり洗ってくれません?
「うん、たいへんそうだよ」
「それを俺が助けて、街まで乗せてってもらおうって寸法だ」
「そうじろう、下心ありありなんだよ……」
「大人ってのは偽善だろうが何だろうが、お互い得すりゃそれでいいのさ」
自信満々に歩き、おっさんに向かって手を上げようとし、「おーい、そこの、」まで叫んだ時、馬車のホロの中から一人の少女が下りてきた。
金髪セミロングの少女で、フード付きのカーキ色のロングコートを羽織っている。現代世界の俺から見るとまるで刑事のようだ。彼女は胸ポケットからピンク色のフレーム眼鏡を取り出してかける。
「現代人のような格好だな」
顔が自然と笑ってしまう。同郷を見たような感じか。
女はさらに胸ポケットから、赤色の石を取り出して地面に足で埋める。すると数十秒後にボンッと小さな音が鳴り、車輪がはまっていた穴の形を変えた。
おっさんが馬の尻を軽くたたいてやると、馬は嬉しそうに馬車を引いて荷台はしっかりとハマリから抜け出した。
「あれは爆薬でも使ったのか?」
それにしては火を使った動作なんて見えなかったなと思う。少女は何事もなかったように馬車に足をかけて戻る。コートの隙間からすらりとした足が見えて艶めかしい。
おっさんも馬車に戻ろうとしたとき、ふと俺と目が合った。
「ん、君ら、もしかして助けてくれようとしたろ、せっかくだ乗ってけ!」
「なんだおっちゃん、見ててくれたのかよ! ありがとう! 行くぞシエロ!」
急いで走り出した俺の後ろで、シエロが呟いた。
聞き間違えじゃないなら「まじゅつし……?」といったと思う。
★★★
馬車の中でシエロはずっと俺に寄り添っていた。
少し怯えるように、でも興味あるように正面に座る少女をじっと見つめている。少女は中学生くらいに見えるから十四くらいだろう。綺麗な顔立ちのスレンダー美人だが、年相応のそこはかとない可愛さも表情に見て取れる。
眼鏡はもう外していている。羽織っているのはロングコートだったが、近くで見ると中に着ているのは、出来の良い洋服とスカートだったので、やはりこちらの住人だ。
少女も少女でじっとシエロを見つめている。
二人がじっと睨みあったまま馬車は街を目指す。
俺は重苦しい空気に耐え切れず、馬車のおっさんに話を振った。
「この先にある町はどんなところですか? 初めてなもんで」
「おお、家族で旅人かい? 奥さんもいなくて大変だねえ」
「はあ、まあ」
よく考えたらシエロが八歳くらいだとして、俺は三五。顔の造形の違いはあれど、親子と考えるのが普通だ。むしろそう考えてもらわないとやばい。色々な意味で。
「ちがうよ、そうじろうはシエロの従者なの。自分から好きでついてきた従者なんだよ! まだ世の中のことを知らない、独り言ばかりの恥ずかしいお供なんだよ」
「ほお、それは……それは、」
「おっさんが困ってるだろ、妙な言い方すんな!」
「羨ましいプレイですなあ」
「娘に従者プレイとか最悪だろ、おっさんも歪んでるな!」
娘でもねーがな!
「この先はアルデバラン。ここ最近魔術開発で大きくなった街」
おっさんと俺の会話が不毛だったのか、黙っていた金髪女子が口を開いてくれた。ありがとう金髪少女。君のおかげで俺は正しい中年として街を闊歩できそうだ!
「なんでも珍しい魔術素材が手に入るっていうから、うわさを聞き付けた関係者で街はにぎわってるって聞いた」
「よく知ってるな」
おっさんが会話に入ってこられても困るので、俺は少女に向き直る。
「君も魔術素材を探しに?」
「そんなとこ」
じっと再度シエロを睨みつける。シエロも俺のワイシャツの袖に掴まりながら、再び少女と目線を合わせた。
「貴方、名は?」
少女は目線を変えずに俺に問う。なんだこの威圧感。異様にこえーよ。
「ぎがん、義贋総司郎だ」
「ギガンソウジロウ——? ふうん」
意味ありげに顎に手を当てる。初めて飲んだワインを下で転がすような仕草だ。
「うちはフィ——じゃなくて穿光のマリアベル」
「随分大層なお名前だな」
通り名って自分で名乗ると間抜けなんだ。
あまり深く突っ込むと恥ずかしい人かもしれないので、そっとしておこう。
「そ、それで、あの、その、」
さっきまでの気迫は何処へ行ったのか、穿光のマリアベルは自分の指を絡ませ、頬を赤らめながらながらもじもじと囁く。
「あ、あの、ね、そのし、しろくて、とってもかわいい、この、そのこ、の、な、名前を、し、しりたいなーって??」
「シエロはシエロだよ」
「シエロちゃん!」
穿光のマリアベルはバネ仕掛けのようにシエロへと飛び掛かる。
「シエロちゃん、あー、すごいかわいい! なんでこんなにかわいいのー! いくら見てても飽きない、声も可愛いし、においもかわいいー!」
「あは、はわわわ、助けてそうじろう! このひと、シエロのお姉さんみたいなんだよ!」
頬ずりしている穿光のマリアベルを見て納得した。
ただシエロが気に入ったから穴が開くほど見てたのか。
「まあ、いいんじゃね、仲良いのは」
「シエロちゃーん! はなしたくなーい、あったかいー!」
おっさんが俺たちをガン見しながら走っているが、その先は町の外壁だ。ぶつかるんじゃねーぞ。なんでおっさんまで頬が赤いんだよ。
その後、無事に街には入れたが、穿光のマリアベルはずっとシエロを抱いていた。正確には両手で人形のように抱きかかえていた。シエロもいい加減泣きそうだったので、声をかけようとしたとき、穿光のマリアベルが今世紀最大の思い付きとばかりに俺に提案した。
「良かったらうちと食事しない、奢る!」
「ええ! はやくシエロは解放してほしいんだよ!」
「アルデバランの肉料理は最高なんだ、シエロちゃん!」
肉の二文字にシエロの魔女帽子に見えない獣耳がピンと立ち上がる。
「し、しかたないなあ、それなら行ってやらないこともないんだよ」
「俺は元からそのつもりさ」
この世界の硬貨もないから困っていたところだ。街について飯も寝どこもないとは思っていたが、とりあえず飯にはありつけそうだ。
「かわいい娘(偽)は、生贄になってるがな」
「うちの膝の上で食べよーね、食べさせてあげるから!」
「いやなんだよー! そうじろーーー!」
じたばたと手足をばたつかせるシエロに合掌しながら、俺は穿光のマリアベルに続いた。
異世界で初めての街は丁度夜の帳を落とし始めている。
第六話 極彩色の魔女と山吹色の旅人
街道は踏み固められていてそれなりに歩きやすい。
結構すれ違う行商人や馬車を見る限り、この世界の文化レベルは科学が発展する手前のようだ。いや科学じゃなくて魔法が発展する可能性がある世界か。
血みどろだったシエロの服は、途中すっころんで川に突っ込んだおかげで結構白くなった。そのおかげで少し機嫌が悪いが、草花を見ているとすぐに明るい調子に戻っていた。
俺はスーツのジャケットを肩にかけ、額から流れる汗を拭う。三十超えた運動不足の社会人に、十五キロのウォーキングはきつい。
アトラスを着用してもいいのだが、常に戦闘状態みたいな気分になるのであまり着たくなかった。服は重要だ。出来る事なら今すぐジャージのような楽な服に着替えたい。洋服によってリラックスすると、気分を切り替えられる。このメリハリが中年には必要なのだ。
「ねえねえ、そうじろう」
さっきまで先頭を歩いていたシエロがくるっと振り向いて、俺に並んで袖を引く。
「どうした、街はまだ先だぞ」
『残り十キロです』
耳の後ろにくっついているアトラスの一部から、アトラの声が骨伝導で直接体内に響いた。
「もう少し、気の利いた言い方してくれ。やる気がそがれる」
『マスター、足の筋肉、仕上がってますよ、仕上がってます』
「仕上がってねえよ。どこで覚えた、その棒読み」
『元マスターは、これで何度も走ってくれましたが、ナイスバルク』
「マッチョなオッサンでも入ってたのかよ」
何なんだこのAIは。会話するほど自然になっていきやがる。
「ねえねえってば、そうじろう」
「ああ、わるい、どうした」
無駄な会話を切り上げると、ほほを膨らませたシエロが俺を見上げる。
「いつも一人で話して気持ち悪いよ。シエロは大人だから黙ってたけど、そうじろうはシエロの旅の従者なんだから、ちゃんと教えてあげるんだよ。人前で恥ずかしい行いは従者として恥なんだよ。一緒にいる方の身にもなれって姉さまが言ってた」
「そら、うれしいね。ありがとう」
幼女に心配されるとは。アトラと会話するときは小声にしないとダメだな。
「でね、シエロ、まちって何なのかなーと思てったの」
「まさか街知らねーのかよ」
こくんとシエロは頷く。
「街ってのは人が一杯いて、物とか売ってて……旨い飯が食えるとこだな」
「うまいめし!?」
シエロはその場でぴょんと飛び跳ねる。その拍子に腰まである長い白髪や白ローブも感情を表すようにふわっと沸き立つ。
「早くいこう、そうじろう!」
「早くいけるものなら早くいきたいとこだが、走りたくはねえなあ……と思ったが渡りに船とはこのことか」
俺はにやりと笑う。
「アトラ、片腕だけ飛んでこれるか?」
『今、森で熊を捌いて食しておりましたが、それでよければ』
「途中で川の中に突っ込んで来い」
やっぱ生ものを食べるんだ。空のスーツのまま、自動で捕らえて捕食してるのなら、三流ホラーになりそうな話だ。あのスライム状態で溶かしてるなら一流グロテスクだが。
ちなみに俺の中にいるパスカルを利用して稼働してしまうと、パスカルそのものが燃料として消費されてしまい、再びグロウスとして彷徨ってしまう可能性がある。そのため、俺の中の燃料は緊急時以外保存しておくこととなった。
「いいかシエロ、あそこに車輪がははまって困ってそうな馬車とおっさんがいるだろう?」
俺が右腕を天高く振り上げると、二の腕辺りまで黒い装甲が装着される。ところどころ血糊ついてるんだが、もっとしっかり洗ってくれません?
「うん、たいへんそうだよ」
「それを俺が助けて、街まで乗せてってもらおうって寸法だ」
「そうじろう、下心ありありなんだよ……」
「大人ってのは偽善だろうが何だろうが、お互い得すりゃそれでいいのさ」
自信満々に歩き、おっさんに向かって手を上げようとし、「おーい、そこの、」まで叫んだ時、馬車のホロの中から一人の少女が下りてきた。
金髪セミロングの少女で、フード付きのカーキ色のロングコートを羽織っている。現代世界の俺から見るとまるで刑事のようだ。彼女は胸ポケットからピンク色のフレーム眼鏡を取り出してかける。
「現代人のような格好だな」
顔が自然と笑ってしまう。同郷を見たような感じか。
女はさらに胸ポケットから、赤色の石を取り出して地面に足で埋める。すると数十秒後にボンッと小さな音が鳴り、車輪がはまっていた穴の形を変えた。
おっさんが馬の尻を軽くたたいてやると、馬は嬉しそうに馬車を引いて荷台はしっかりとハマリから抜け出した。
「あれは爆薬でも使ったのか?」
それにしては火を使った動作なんて見えなかったなと思う。少女は何事もなかったように馬車に足をかけて戻る。コートの隙間からすらりとした足が見えて艶めかしい。
おっさんも馬車に戻ろうとしたとき、ふと俺と目が合った。
「ん、君ら、もしかして助けてくれようとしたろ、せっかくだ乗ってけ!」
「なんだおっちゃん、見ててくれたのかよ! ありがとう! 行くぞシエロ!」
急いで走り出した俺の後ろで、シエロが呟いた。
聞き間違えじゃないなら「まじゅつし……?」といったと思う。
★★★
馬車の中でシエロはずっと俺に寄り添っていた。
少し怯えるように、でも興味あるように正面に座る少女をじっと見つめている。少女は中学生くらいに見えるから十四くらいだろう。綺麗な顔立ちのスレンダー美人だが、年相応のそこはかとない可愛さも表情に見て取れる。
眼鏡はもう外していている。羽織っているのはロングコートだったが、近くで見ると中に着ているのは、出来の良い洋服とスカートだったので、やはりこちらの住人だ。
少女も少女でじっとシエロを見つめている。
二人がじっと睨みあったまま馬車は街を目指す。
俺は重苦しい空気に耐え切れず、馬車のおっさんに話を振った。
「この先にある町はどんなところですか? 初めてなもんで」
「おお、家族で旅人かい? 奥さんもいなくて大変だねえ」
「はあ、まあ」
よく考えたらシエロが八歳くらいだとして、俺は三五。顔の造形の違いはあれど、親子と考えるのが普通だ。むしろそう考えてもらわないとやばい。色々な意味で。
「ちがうよ、そうじろうはシエロの従者なの。自分から好きでついてきた従者なんだよ! まだ世の中のことを知らない、独り言ばかりの恥ずかしいお供なんだよ」
「ほお、それは……それは、」
「おっさんが困ってるだろ、妙な言い方すんな!」
「羨ましいプレイですなあ」
「娘に従者プレイとか最悪だろ、おっさんも歪んでるな!」
娘でもねーがな!
「この先はアルデバラン。ここ最近魔術開発で大きくなった街」
おっさんと俺の会話が不毛だったのか、黙っていた金髪女子が口を開いてくれた。ありがとう金髪少女。君のおかげで俺は正しい中年として街を闊歩できそうだ!
「なんでも珍しい魔術素材が手に入るっていうから、うわさを聞き付けた関係者で街はにぎわってるって聞いた」
「よく知ってるな」
おっさんが会話に入ってこられても困るので、俺は少女に向き直る。
「君も魔術素材を探しに?」
「そんなとこ」
じっと再度シエロを睨みつける。シエロも俺のワイシャツの袖に掴まりながら、再び少女と目線を合わせた。
「貴方、名は?」
少女は目線を変えずに俺に問う。なんだこの威圧感。異様にこえーよ。
「ぎがん、義贋総司郎だ」
「ギガンソウジロウ——? ふうん」
意味ありげに顎に手を当てる。初めて飲んだワインを下で転がすような仕草だ。
「うちはフィ——じゃなくて穿光のマリアベル」
「随分大層なお名前だな」
通り名って自分で名乗ると間抜けなんだ。
あまり深く突っ込むと恥ずかしい人かもしれないので、そっとしておこう。
「そ、それで、あの、その、」
さっきまでの気迫は何処へ行ったのか、穿光のマリアベルは自分の指を絡ませ、頬を赤らめながらながらもじもじと囁く。
「あ、あの、ね、そのし、しろくて、とってもかわいい、この、そのこ、の、な、名前を、し、しりたいなーって??」
「シエロはシエロだよ」
「シエロちゃん!」
穿光のマリアベルはバネ仕掛けのようにシエロへと飛び掛かる。
「シエロちゃん、あー、すごいかわいい! なんでこんなにかわいいのー! いくら見てても飽きない、声も可愛いし、においもかわいいー!」
「あは、はわわわ、助けてそうじろう! このひと、シエロのお姉さんみたいなんだよ!」
頬ずりしている穿光のマリアベルを見て納得した。
ただシエロが気に入ったから穴が開くほど見てたのか。
「まあ、いいんじゃね、仲良いのは」
「シエロちゃーん! はなしたくなーい、あったかいー!」
おっさんが俺たちをガン見しながら走っているが、その先は町の外壁だ。ぶつかるんじゃねーぞ。なんでおっさんまで頬が赤いんだよ。
その後、無事に街には入れたが、穿光のマリアベルはずっとシエロを抱いていた。正確には両手で人形のように抱きかかえていた。シエロもいい加減泣きそうだったので、声をかけようとしたとき、穿光のマリアベルが今世紀最大の思い付きとばかりに俺に提案した。
「良かったらうちと食事しない、奢る!」
「ええ! はやくシエロは解放してほしいんだよ!」
「アルデバランの肉料理は最高なんだ、シエロちゃん!」
肉の二文字にシエロの魔女帽子に見えない獣耳がピンと立ち上がる。
「し、しかたないなあ、それなら行ってやらないこともないんだよ」
「俺は元からそのつもりさ」
この世界の硬貨もないから困っていたところだ。街について飯も寝どこもないとは思っていたが、とりあえず飯にはありつけそうだ。
「かわいい娘(偽)は、生贄になってるがな」
「うちの膝の上で食べよーね、食べさせてあげるから!」
「いやなんだよー! そうじろーーー!」
じたばたと手足をばたつかせるシエロに合掌しながら、俺は穿光のマリアベルに続いた。
異世界で初めての街は丁度夜の帳を落とし始めている。
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