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しおりを挟むメアリー嬢はそれからも学園にて何度か転んだりする姿を披露したが……神がかってるほどに紙一重で回避するところを、逆に皆に感心されたりもしながら、無事に卒業もできた。卒業試験も紙一重だったので姉にまた叱られながらだったらしいが。
本当に神がかりに紙一重となり、ある意味王子を救ったと……。
そう。
ひとりの王子の勘違いからの聞き間違いと思い込みは、彼の正義感で自爆――終わりを迎え。
寧ろ学生時代に、まだ入学してわずかな期間で、自分をかえりみることができて良かったのではないだろうか。
彼もまたマリアに謝った。王族が頭を下げることは色々問題になってしまうが、話は聞いたと……女王陛下も大きなため息をつかれたから。
「今まで問題をおこさなかったから安心していたのに……勘違いしていたせいで、逆に問題をおこさなかったなんて……」
そんなこと、あるなんて。
ある意味、彼もまた紙一重。
本人が知らないうちに王位レースからすでに落第しているから、周りも優しかったのだと気がついて。もしもレースを早々に姉が制していなかったら、今頃従兄弟たちや他のレース参加者に何かしらされていたのかもしれないと――悟り。毒とか、ダイレクトな暗殺とか。
「いや、普通は気がつくよね……私って……」
と、彼自身もため息を。
少しばかり間の悪いこともあったのも判明した。
普通は誰かが「いや貴方は王太子ではありませんよ」と教えてくれそうなのだが。いや、きっと誰かしらは伝えていただろう。
それが彼の耳を素通りした彼の生来の――思い込みの強さ。
「マリア・ローゼン」を長く「マリアローズ」と勘違いしていた、彼の性分であるのだが。
だから――外れたのだけれども。
彼がレースから外れた頃に乳母が体調を崩して引退をしていたり。そして彼は王位から離れたため、そうした教育係や側近はつけられていなかったし、彼自身、普段は「王太子」と勘違いした振る舞いをしていなかったことも、また。
使用人たちはたまに偉そうにされても「あれ?」と思っていても、「まあ、王子様で王族なのはかわりないし」と受け入れてしまっていて、本当に問題にもなっていなかったのが、また。紙一重。
まぁ、普通は気がつくよね。勘違いと思い込みすごかったけど、増長したり威張ったりしないから、悪い子ではなかったのよね。よりによって正義感で爆発したけど、大事な行事とか潰したわけじゃなかったし、ある意味幸運だった――と、一部始終すべて立ち会ってしまった姉より。
――もしも行事を潰していたり、海外からの要人などに見られたり……女王陛下の目の前で、あんな道化を披露なぞしようものなら。
本当に、良かった。
これはメアリー嬢のおかげなのだろうかと……それは誰にも解らない。
そう、決して悪い子ではないのよね、と姉は呆れもしたが、家族愛も確とあった。メアリー嬢ではないが、貴方もちゃんと家族に相談しなさいよ、と。
王族としての重みはあるけど、家族の情はないわけではない。母も、自分も。
――しかし弟には、己たちは王族ということを――その覚悟がなかったことは。
もちろん反省はきちんとさせたが。それにより、ハロルドは様々なことを気付き、悟ることになった。
よもや、弟がそこまで勘違いしていることに、気がつかなかったことをフェリシア王女も反省なさり。自分の王太子としての勉強が忙しかったせいで……弟を競争相手にも見ていなかったというのは、可哀想だから彼女の胸のなかだけにしまわれた。それはそれとして、だ。
これもまた後々の世の教訓となされた。転んでもしっかり何か掴んで起きられて。
彼は後に公爵家に婿入りした――クリストバル公爵家ではなかったが――そして姉の治世に、彼なりに力となったのだった。
これは国外への婿出しには危なくて出来ないわ。手元――国元に置いておこうと、母と姉がひっそりと考えたのもあったのだけれど。
そうして彼は勘違いと聞き間違いをしないようにと、日々気をつけて。
妻となった方は、思い込み激しい旦那様を上手く手のひらでころころとできる方であったというのは――。
余談かもだが、その神がかり紙一重、メアリー嬢は学園を卒業後。領地の幼なじみと結婚した……できた。彼は平民ゆえに学園には通えなかったが、やらかしゆえに有名な、メアリー嬢を放ってはおけなかったらしく。
「っていうか、もう俺くらいしかお前の面倒みれないだろ……嫁に来いよっ」
そんな照れ隠しな求婚もメアリー嬢のハートを撃ち抜いて。
メアリー嬢はしっかりと婿を迎えてお家を継いだお姉さんの庇護のもと、幸せに嫁いでいった。
姉妹仲は決して悪くはなかったのだ。
そう、ドジっ娘の妹に苦労しながらも、えぐえぐ泣きながらも自分を慕い――本当に厄介ごとに巻き込まれたときは、自分に迷惑をかけまいとする妹を憎めようか。空回りするのだけは勘弁だけど。
不思議なことに、数年後に身籠もってからはタンスの角に小指をぶつけたり、たまに皿を落としたり――と、危険な紙一重はおさまったらしいが……それはきっと不思議ではなく。
彼女もまた、大事なものができたからであろう。
そしてフェリシア王女は母親譲りの美貌にて国家をまとめあげた。もちろん美貌だけでなく、その政治手腕と覚悟も、また揺るぎなく。
その外交手段のひとつに、この国発のエステなる美容技術や化粧品、開発されたコルセットもいらない下着類など――もあったという。
彼女が王位に就いた頃、外科治療――医療も飛躍的に発展したとある。
それはひとりの「女神の指」と讃えられ、この世界でも伝説になった女性の活躍とともに。
――――――
そしてまたひとり。遠き地で関わりあるものも。
マリアローズ――クリストバル公爵令嬢は。
マリアローズ嬢は、早くから外交的、政略的に、とある国の王弟殿下に嫁いでいた。
勘違いが産まれる、その前から留学して。
王弟殿下とは政略もあるが、恋愛でもあったという。
彼女は祖国との架け橋としてまた、活躍したとある。
嫁ぎ先の義理の家族となった王や王妃には、祖国との関わり――《ローゼン》の化粧品などを融通してもらいたいと、ずいぶんと大事に、可愛がられたとあり。関係は良好であったとか。
《ローゼン》の直輸入販売支店ができたのも祖国へと掛け合ってくれたマリアローズ嬢のおかげだとも。
「やっぱり早めにログアウトして正解だったのよねー」
――と。
彼女は謎のつぶやきを残したというが、それはまた、おまけのお話。
こうして、ざまぁされるはずだった令嬢も、酷い逆ざまぁされる王子さまも、いませんでした、とさ。
たまに運が悪いけれど、何故かそれが巡り巡って幸いになる人、いらっしゃいませんか? 塞翁が馬…みたいな。そんなメアリー嬢でございました。ヒロインでも転生者でもなく。姉妹格差なんてない。ただお姉さんは苦労性、お疲れ様です。
そして思い込み激しくて人の話あんまり聞いてくれない厄介なひとも…お気をつけて。
実はそう…マリアローズ嬢も転生者。だけど、まさか自分の代わりにほとんど同じ名前のひとが現れるだなんてと、話の強制力かしらと遠くの地でぞわりとして。彼女が早々に伝手をつかいまくりのトンズラルートを選んでくれたから、皆が平和に――なった、かもしれない。
平和も大事。そして、健康も大事。
これにて終幕。ありがとうございました。
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