「これは私ですが、そちらは私ではありません」

イチイ アキラ

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 そしてそんなマリア・ローゼンの現在は。

 《ローゼン》の傍ら、年相応に貴族の子どもとして王立学園にも通っていたわけだが。
 これは女王陛下からも通う方が良いと言われていて。たとえ既に手に職を持っていたとしても、学歴というものも中々大事なものだから、と。親御さんを安心させてあげなさい――ただでさえもう既に波瀾万丈なマリアであったから。

 そこに今日……新たに。
 マリアに歴史が増えた……闇歴史的な。

 結局はハロルド王子の思い込みによる聞き間違いに、人違いである。マリアの美しい容貌が彼の好みど真ん中だったのも、ひっそりと思い込みを深くしたか。
 第一、試験結果に名字もないのをおかしいと思わなかったのだろうか。

 確かにマリアローズ嬢のご愛称はマリアであるし、それはまた良くある名前でもあり……ローゼン家に産まれた娘にもつけられた名前である。

 ちなみに、この学園に、同世代にもう三人ほどマリアさんはいたりして。

 本当に良くある名前なのだ。名前にも流行はあるというし、まさにマリアが産まれたころ「娘が産まれたらマリアにしよう」という人々が多かったのだろう。
 クリストバル公爵家は家格高く大きな家だ。その反対にローゼン男爵家はマリアが産まれた当時も王宮に花を収めるという大役はしていても、たかが男爵家の花卉農家程度。
 その家にマリアという娘が産まれていて、フルネームになると自分たちの娘と末尾違いな名前になるだなんて、まったくもってそんな偶然知ることもなく。
 ハロルド王子も、有力者貴族の娘の名前は覚えていても、やはりたかが男爵家の娘の名前などは知ることも、興味もなく。

 同い年だがマリアの方が三ヶ月ほど生まれは先であり、届出も。逆であればさすがにローゼン家の方が違う名前としていたであろう。本当に――さすがにこんな勘違い、聞き間違いは予想外だったけれど。


 しかしクリストバル公爵家、あちらはただの「マリア」であり、「マリアローズ」はマリアローズであると、別段お気にもなさっていなかった。これが大貴族の器。


 近年ローゼン家の目覚ましい発展はもちろん知っているが、その立役者が「マリア・ローゼン」であると聞いても。
 マリア・ローゼンが何かしら犯罪を犯せば話は別だが。今は女王の覚えめでたいばかりである。


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