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第18話 神=災害

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 私はロザリーさんに干した果物みたいなものを頂戴した。
 何が食べられるか解らないと正直に話したんだ。
「ならば、果物はどうだろう? 無理はしなくていいからな?」
 甘くて美味しぞと……あ、ロザリーさんの目には私は魔物とはいえ、子供なんだ。
 ……やっぱり優しいひとだな。
 でも、動きがきびきびしていて、何だか……そう、生前に知り合いだった元自衛隊員さんに似てる。使ってた野営用の寝具など、ゴブリンに襲われたから慌ててまとめていただけだというのを、今のうちにたたみ直すというのも、なんかピシッとしてる。毛布と角と角がぴったりぴっしり。
 冒険者さんだけど、どこか軍人さんめいてるんだよな。
 まぁ、訓練を受けたひとだな。
 冒険者てこういう雰囲気なんだろか?

「果物……いただきます」
 こんにちはと同じく、大事な言葉。頂戴いたします。
 杏かな? 味は桃系だと思うその干した果物は、干し果物特有の堅さはあるけどさくりと歯切れ良く……くちばし切れ良く噛み切れた。
 ペンギンは魚を頭から丸飲みだけど、私は何となく人間の感覚で咀嚼する。いや、咀嚼できたことにも実は驚いてんですけどね。
 うん、甘くて美味しい。
 差し出されてからひっそりと気になっていた、この世界の食べ物が自分の感覚と違っていたらどうしようという心配はなくなったかな。
 味覚合わなかったり不味すぎっていうやつも、飢え死につながる理由なるらしいし。食べられない、つらい。
「美味しいです」
 ロザリーさんにお礼はもちろん。
 短い両手で大事にもって、さくさくとくちばしでついばむ。
 人間ふたり、特にロザリーさんの視線が微笑ましい……さてはひっそりかわいいもの好きですかな? なんてね。



「それでドラゴンですが、神さま……」
 うーん、自分で言うのは何だかこそばゆい。
「もはや神、というのは?」
 私は何も知らなくて、と首を傾げる。そんな私の様子に、ふたりも不思議そう。
「あなたはドラゴンのことを知らないの?」
 鱗――加護をもらったのに、とエリナさんの疑問もごもっとも。
「えぇと、実は私は生まれてからまだわずかなんです」
 嘘じゃないし。
「巣から出たのも初めてです。だから、まだよくわからないことだらけで」
 本当にね。
 ドラゴンのことは知っているよ。家族だもの。だけど、ドラゴンがどういう存在なのかは知らない。
 兄姉たちは知っているのだろうか。
 家族間で自分のことはあえて話すようなことではないからなぁ……。

 ……あと、私が生まれ変わりにバグ起きた可能性高いからね。

「……なるほど。加護をもらった理由は?」
「それは、本当にもらったとしか」
 説明できないよ。兄上さまが巣立ちする前にくれたんだから。
「どうやって頂いたのですか?」
 エリナさんはそんなに鱗が気になるのかな?
「いや、本当にもらった理由は……巣にいるときにもらったとしか」
 私は鱗を撫でる。
「ドラゴンが加護を与えるなど、物語か伝説の中だと思っていた……」
 ロザリーさんのいうことにも気になり、尋ね返す。
「伝説なんですか?」
 そんなに少ない?
「ああ。ドラゴン自体が伝説クラスだ」
 ただし、低位種としてのワイバーンなどはいるとのこと。話していたら割り込まないかななんて、ちょっとわくわくしたけどそんなこともなく。
 そういえば一角猩々さんが言っていた。霊峰とか、獣王国に目撃情報があるのでしたっけ。あの時はそうなんだと思っていたけど、一角猩々さんの雰囲気、今思えば伝説にある、てことだったか……。
「伝説クラスな稀少種だから神さまなんですかぁ……」
 なるほどなー、と思っていたら、ロザリーさんもエリナさんも「まだ解ってないな」て目でこっち見てる。うん?
「確かにドラゴンが神であるというのは、伝説の中にもあるのだが」
「ふむふむ?」

 いわく――



 その咆哮は炎の渦。慈悲なき氷雪。報復の雷。枯れ果てる大地。
 地を覆う広き羽ばたきは嵐となり。
 爪の一薙ぎで空は裂け、尾の一振りで山崩れ、国滅ぶ。



 何その自然災害!?

「……なるほど、神」
 理解しました。
 私は狩りゲームのドラゴンと思っていた。自分をも。
 だけどこの世界のドラゴンは――神。

 脳内で、狩りのゲームに出ていて素材剥ぎ剥ぎされていたドラゴンから、ファンタジー世界の召喚されてフレア吐くクラスにかわりました。

 あれだなぁ。
 八百万の神がいる世界で育っている日本人だから理解早いのありましょう。
 ときに自然を神と崇め奉るのは、災害を恐れているからというのもあるよね。
 日本の神さま、まさにそれがありますし。日照りや水害も、なんだかんだ神さまの為業な時代もあったもんですわ。
 田舎の祭り思い出すなぁ。起源は雨乞いだったて婆さまに聞いたなぁ。小学生の頃、神社で神楽お囃子の笛を吹いた記憶です。今では甥っ子たちがまだやってるのかな。
 あら、神社に奉られた水神さまってまさにドラゴンでしたわ……親近感抱くべきかしら。

 しかし、存在するだけでそんな神あつかい……に、なるんだろうな。

 つまりドラゴンの神は――触らぬ神に、て方向だ。

 ドラゴン、つまり自然災害なほどに恐い存在。
 もはや、神。うん。

「かつてリルファンという国が、ドラゴンの怒りで滅んだという伝説が有名かな」
 この世界の児童文学的なやつらしい。
「私も読んだことがあります。ドラゴンの大切にしていた宝を盗んだ人間が、罰を受けるお伽話でしたね」
「いやいや、数年前にリルファンの遺跡らしきものが見つかって、歴史的にも真実らしいですぞ」
 遺跡かぁ。この世界にもそういうのあるんだ。
 土曜日のミステリーなハンターさんが出演する番組が好きだったから、そわそわするですよ。

 しかし、ドラゴンとはそんな恐い存在……私がですか?
 ……ふかふかまんまるな存在が?




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