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第10話 影踏みですか?
しおりを挟む「あ、ハーピーさんは飛べるのでは?」
そうだ、ここは岩壁の間だ。頭上は開いている。
まずはここから逃げることだけ考えようとなった。獣王国と霊峰とやらに向かうにも、ここから脱出しないことには。
狩人たちがいつ気がつくかもわからないから、急いで方法を考えなくては。
そうした時に気がついた。ハーピーさんはもうこのまま逃げられるのでは、と。
するとハーピーさんは嫌だと言う。
「わたくし一人では逃げられませぬ」
キリッとした表情。
そしてその言葉。
先ほど私が言った言葉と同じこと。
「ハーピーさん……」
ああ、言われる側になると胸熱だぁ……。
じーんときていると、ハウンドウルフさんと一角猩々さんもうんうんとうなずいている。
だけどハーピーさんが続けた次の言葉に二人はぴくりと跳ねた。
「どうか御身の影に触れさせてくださいませ」
――影?
「影ですか?」
影踏みかな? いやこんな状況で?
まぁ、別にそれくらいいいけども……。
星明かりが岩壁の間にもおりてるから、私の足元にはうっすらと影がある。
そして今ごろ気がついたんだが、私の眼はかなり良いようだ。
この程度の明かりで、周りが良く見える。
これもドラゴン故か――ペンギンだけど。
ペンギンイヤーも良ければ、ペンギンアイも良く見えた。
ハーピーさんだけでなく、ハウンドウルフさんと一角猩々さんもそわそわしてる。
「えーと、影、ですか?」
それどころじゃないんじゃないかな、なんて意味で私はそわそわしちゃうけど。
「本来ならば我らなどが願えることではないですが、どうか我も……っ」
「いやいや、だから顔をあげてくださいな!?」
ハウンドウルフさんが再び伏せをしちゃうから、私は慌て頭を上げるよう彼に近づいた。
それはちょうど、彼の頭に私の影が落ちるような位置になり。
――とん。
自分と何かが繋がった気がした。例えるなら自分から細い糸が延びたような。そして同じく延びてきた糸がどこかで繋がったような……。
何だろうと思ったけど、ハーピーさんがピィと鳴いたからそちらに気を取られた。
「ずるうございます! わたくしが先に――」
「――あ」
それは一角猩々さん。
ハウンドウルフさんの隣にいたから、そのまま彼も何故か私の影に、また土下座の様にして頭を付けていたところだった。
――とん。
そして私はまた何かが繋がった感覚を。
「す、すみません」
影に先に触れてしまったと一角猩々さんがあわてて頭をあげてハーピーさんに謝った。私はなにがなんだかわからず、おろおろ。
「ピィイイ――」
ハーピーさんの哀しげな悲鳴が岩壁にこだまする。
――あ、ヤバそう。
『……おい、何か荷物の方が騒がしくないか?』
『そうか? 風の音じゃね?』
『いや、鳥みたいな……あ、ハーピーがいたな?』
『また無駄に逃げようとしてるだけだろ』
『だけどヘタに傷つくのもかわいそうだし……』
『だからって鍵はギルドに着くまで開けられねぇぞ』
『でも、様子見てくるよ』
「やっばーい!」
私の悲鳴の意味を理解したのはハウンドウルフさんも。彼は耳が良いらしい。さすがイヌ科!
でもちょっとのんびりしすぎたもんね! 反省!
ハウンドウルフさんは起き上がり小さく唸る。
「我が血路を開きます!」
「や、ちょっとまって!?」
血路!?
「も、申しわけ……」
ハーピーさんは口を翼で押さえてがくがくと震えている。一角猩々さんは何か考えているのか静か、だけど顔色が悪い。
人間の気配が近付いてくる。
どうしよう……どうしよう……。
「――ハーピー殿」
脅えるハーピーさんに、ハウンドウルフさんが問いかけた。
「そなた、お連れして飛べるか?」
と。
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