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第9話 おごれるものは久しからずといいますから。
しおりを挟む考えことをしているあいだに、一角猩々さんも荷台から降り、ハーピーさんも静かに羽ばたいて降りていた。
では私も、と降りようとしたとき。
「……ぺ?」
三人が妙に神妙にして、膝をついているのに気がついた。
そしてハウンドウルフさんはきっちりと伏せの姿勢。つられたように二人もまるで土下座のように頭を下げてしまう。
「ぺ? あの?」
そんなにかしこまれると、なんだかな。しょせん私は兄上さまの残りオーラでどうにかしているだけな、ぽわぽわ子ペンギンなわけだし。
荷台から、ぴょんと飛び降りた。無事に着地できてほっとしつつ。水族館でみたペンギンの動きを自分もできて、しているのだろか……。
「お顔を上げてくださいなー?」
「し、しかし……」
「でもほら、お話しづらいですし?」
ハウンドウルフさんは伏せのまま首を横に。だけどそれはしんどくないかしらと、せめて、お座り、になってもらう。一角猩々さんとハーピーさんもそろそろと頭をあげてくれた。
兄上さまの残りオーラはあとどれくらい持続するのかしら。それがわからないから、調子に乗るつもりはないのです。
歴史でも繰り返されたよくあることだったし。おごれるものは久しからず。
嗚呼、平家物語……もう一度、厳島神社を拝みに行きたかった……。
そんな以前の好きジャンルを想いつつ、私は現実現状に目を向けた。
三人が顔を上げてくれたから話しやすくなったし。
「ここから、どう逃げましょう?」
狩人たちの食事は酒盛りになっているようだ。のんきだなと思うけど、今はありがたい。
「ここがどこかわかる方はいますか?」
まずはそこで。
恥ずかしながら私は寝ている間に移動していた。何で起きなかったのかと自分が情けない。
「ここがどこかと、はっきりとはわかりかねますが、おそらく我が住んでおりました森より西にある岩場かと」
ハウンドウルフさんが言う。ハウンドウルフさんは捕らえられたときに麻痺させられて、その意識朦朧としたままここに運ばれてきたらしい。
自分も麻痺をさせられたと、一角猩々さんとハーピーさんも。
なるほど、そうした狩りの仕方がこの世界ではあるみたいだな。
私が眠りこけていたのも何かしら使われたのかしら。だったらいいな、なんて……はは……。
ただ、一角猩々さんとハーピーさんはもっと遠い、違う地域に住んでいたらしい。
そしてわかったのは三人を捕らえた狩人たちは、今は酒盛り中の彼らではないという。
途中で狩人たちは彼らを預けられたような形らしい。
なるほど、先ほどギルドに運ぶとか聞こえていたから、こうしてまとめて運ぶ依頼や任務とかがあるのかもしれない。
「あの、ところで、このあたりにドラゴンの巣ってありませんか?」
誰か私のお家を知らないでしょうか?
そう尋ねると、三人は揃って首を横に振った。
「おそれながら、我らには尊き方のお住まいの場所は……」
「私は竜のオーラは初めてでございます」
「なんと尊き……」
ハーピーさんに至っては羽と羽を合わせて……合掌ですか、それ?
「そんな、神様や仏様じゃあるまいし」
むしろそろそろ引きはじめた私がいるですよ。子ペンギンを崇めないで。いや生前の私は可愛さに崇めかけてぬいぐるみ買っていたけども!
「またまたそんなご謙遜を」
三人は私が兄上さまの残りオーラ残量を気にしているともしらないから。
「ですが、竜でしたら……」
一角猩々さんは何かツテがあるという。
「我が一族の長から聞いたことがあります。かつて獣王国や霊峰カデルツァーンに竜が降りられたことがあると」
「獣王国?」
霊峰も気になるけど。
「は、ここよりも東にある獣人を主にした国であります」
獣人かぁ。ドラゴンやモンスターがいるなら獣人がいてもおかしくないか。
私は小説や漫画にあった猫耳や、もふもふとした尻尾をはやしたひとを思い浮かべた。
うん、ファンタジー。
「じゃぁ、そこに行ったら他のドラゴンさんに会えるでしょうか?」
「……いえ、それはわかりません。ですが、何かしら情報はわかるかと」
私の問いかけに三人はまた首を戸惑いがちに横に振った。
「他のドラゴンさんなら私の家をしらないかなぁ……」
そう、他のドラゴン――。
――私は知らなかったのだ。
ファンタジーに触れすぎて。
ドラゴンがゲームに、物語に、出すぎていたから。
ドラゴンとは――どれほど畏れられた存在か。
――そんな存在がぽこぽこいてたまるか、だったなんて。
それを知るのはまだまだ先のこと。
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