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第8話 竜のオーラのおかげさま。

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 本当なら膝蹴りなども入れるかの技だけど、今の私に膝蹴りは無理。
 そんなことを考えていたからか着地に失敗した。私もまだまだだ――ふ、ってかっこつけたいけど、それどころではない。
 私はぽてんと転がりながら一角猩々さんの入った檻、その鍵を確認する。
「よ、良かった」
 鍵は無事に開けることができたみたいだ。
 檻のつっかえになっていた部分は見事に外れて、檻には隙間ができている。

 でも、さっきのガラスが割れたようなのはなんだったのかしら。

 ――気になるそれは次のハウンドウルフさんの檻を開けるときにわかった。
「……おお」
 檻が開いたことに一角猩々さんは驚きながら、そしてびくびくしながらも外に出てきた。
「だ、大丈夫ですか、雛の方」
「は、はい」
 そして真っ先に転がってへそ天していた私を起こしてくれた。
 良かったなぁ。荷台に近づくまで、自分も襲われたらってちょっと考えてた私もいたからね。
 一角猩々さんは優しく私を起き上がらせてくれた。

「おさすがです。鍵の封さえ破壊されるとは」

 と、言いながら。

 ……。
「……ぺ?」
 鍵の封を……?

 ――そう、モンスターを捕える檻が、ただの檻のはずがなかったのだ。私が檻の隙間から出れるはずも、本当はなかったのだ。

 次はハウンドウルフさんの檻の鍵。
 またアッパーカットをぶちかますしかないかと見上げたら、一角猩々さんが申し出てくれた。
 持ち上げようか、と。
 例によってまた丁寧な申し出だったけど。
 あ、でもそれなら……。
「一角猩々さんが開けてくだされば……?」
 すると、とんでもないと首を横に降られた。私は首を傾げてお返事。
「ご覧ください」
 私に通じて無いのだと、気がついたのはハーピーさんだった。私と一角猩々さんのやりとりに身をもって説明してくれた。
 ハーピーさんは、檻の中からその羽の先を鍵に近づける。
 すると――。

 ――バチッ!

 嫌な感じの緑色の火花が。
「うわっ!?」
 びっくりして羽毛が逆立っちゃった。
 ハーピーさんの羽の先も焦げてしまっている。
 よく見ればハーピーさん、いや――ハウンドウルフさんや一角猩々さんも傷だらけだ。
 捕えられたときについた傷がほとんどたけど、檻から抜け出そうとしておった傷もあるらしい。
 私がはじめに気がついたパサパサという羽ばたきの音は、そんな傷ついた羽をどうにかできないか毛繕いしていた音だったそう。
 火花は鍵に触れただけでなく、檻の隙間から出ようとしても起きるらしい。なので、私がすっぽんと飛び出したのを見ていたハウンドウルフさんたちは、その時の私と同じく目をまるくしていたそうな。
「じゃ、じゃあ私は、さっきの……?」
 パキンって、ガラスが割れるような音。
「封を真っ二つにされるとは、素晴らしい手刀です!」
 まさしく、アッパーカットで封を割ったようだ。

 それから私はまだ半信半疑でも、一度、そうとは知らなかったけどできたことだし、と。一角猩々さんにまんまるな己が身体を持ち上げてもらって、ハウンドウルフさんの檻の鍵に羽先を差し込んではねあげた。
 ……びくびくしながらになったのはしかたないよぅ。
 だけどまた、パキンと割れる音がして緑の色が砕け散った。それは緑色の小さな魔方陣だったと、割れる瞬間にわかった。
 檻にはそうした魔法の仕組みがあったのだ。
「ぺぇー……」
 魔法の防犯システムだぁ……。
 ドラゴンがいる世界だし、魔法だってあるよね。
 檻は鍵をかけると中のモンスターを逃がさないよう、電撃的な衝撃が発動するようになっているようだ。
 それを、どうして私には効かないのだろう。
 私の入っていた檻も、どうやら同じものなよう。だけど私は中から出れた。しかも――

「ペン!」

 ――私は鍵の封を壊せる。

 最後にハーピーさんの入っていた檻の鍵も開けた。また一角猩々さんに持ち上げて鍵の高さにしてもらいながら。今度はびくびくしないで、勢いよく。
 パキンと、また魔法陣が割れる。
 防犯システムなら、警報とか鳴らないのかしらと心配になったけど、狩人たちの方には騒ぎになっていない。
「これは……」
 ハーピーさんが檻から出てくるのを一角猩々さんと、荷台が狭くなるから先に降りたハウンドウルフさんとまちながら、私は考える。
 ハーピーさんもそっと檻から出てきた。
 岩壁の隙間の天井の、星明かりにハーピーさんの白い羽がきらきらしている。だけど羽先があちこち焦げているのがなんとも痛々しい。

 そしてやはり考えて至ったのは――胸に輝く竜の鱗。

 兄上さまの気配の残りのお力なんじゃないかしら?
 これの他はぽわぽわでふわふわな我がボディーですからね。ちょっと哀し。
「兄上さま、ありがたやありがたや……今頃どこの空を飛んでいらっしゃるかしら……」
 さすがドラゴン。物語にある最高クラスモンスター。
 鱗ひとつで人間どもの魔法なんて無きに等しく。

 だってほら、それしかない。
 他に私が持っているものはないし。
 だからハウンドウルフさん、一角猩々さん、ハーピーさんが膝をついているのも……――。
「……ぺ?」



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