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しおりを挟むブティックショップで働きつつ時には魔王様の依頼で赤い瘴気を浄化したり、重症な怪我を負った妖魔を治療したりしているうちに私がヴァナヘルム王国に来てからどれくらいの時間が経ったのかしら?
初めてヴァナヘルム王国に入国した時は春の訪れを肌で感じる事が出来る頃で、今は山々が紅葉している時期だから半年くらいになると思う。
「フェルゴヴェールさん。私の世界では想像上の生物でしかない魔物とアーズガルドでは普通に存在している魔物って姿形は似ているけど性質が違うところがあるの。自分の中にある乖離を縮めたいから図鑑を借りたいのだけど・・・」
「ならば離れにある書庫を使うがよい」
そう伝えたらフェルゴヴェールさんから書庫に入る許可を貰ったわ。
ようやく・・・ようやく送還術に関する手掛かりがあるかも知れない場所に足を踏み入れる事が出来る!
心の中でガッツポーズを取った私はフェルゴヴェールさんと一緒に書庫に行ったの。
「ひ、広い・・・」
フェルゴヴェールさんは書庫と言っていたけど、実際は小さな洋館といった感じかな?
書庫は広くて歴史的建造物としても価値があるだけではなく歴史的な重みと雰囲気を感じて・・・私のような一般庶民が使ってもいいのかしら?と一瞬考えてしまったわ。
それはともかく・・・フェルゴヴェールさんの許可を貰っている私は魔物関係の図鑑に目を通したの。
異世界に召喚された人間は文字の読み書きは出来るというテンプレのおかげで文字の読み書きに不自由がなかったのだけど、これもオタクの性なのでしょうね・・・。
つい魔物だけではなく服飾や料理といった分野に関する図鑑にも手を出してしまったの。
図鑑に目を通すのは楽しくて読みふけっていたら眠気に襲われてしまったのか、自分でも気付かぬうちに・・・・・・眠ってしまっていた。
その時に夢を見ていたの。
潤一と付き合っていた時の夢を・・・・・・。
私が潤一と初めて出会ったのはアニメのオフ会だった。
アニメのオフ会と言っているけど実際は漫画やゲーム好きも集まるイベントで、そこで出会った腐女子達と『私達のお母さん世代は華奢な美少年が受けというのが普通だった』『お母さん世代では攻めだった男が自分よりもマッチョな男の手練手管によってメス堕ちさせられるのも、〇斗の拳に出てきそうなゴリマッチョ受けも趣があっていいわね~♡』っていう感じでBLについて語っている私達に潤一を含む三人の男性が声を掛けて来たの。
馬が合ったのか、某会社で広報を担当している潤一と付き合う事になって、やっと初デートの約束をしたのに異世界召喚されたという事実──・・・。
「潤、一・・・」
目を覚ました時、自分が泣いていた事に気が付いて慌てて涙を拭った後、窓に目を向けると空が茜色に染まっていたの。
「黄昏時・・・」
ヴァナヘルム王国を茜色に染める夕焼けを眺めていると自分でも何かが込み上げてきたのかも知れない。
両親と腐女子仲間、職場の同僚と潤一の事を思い出してしまったのかも知れない。
純粋に夕暮れ時の美しさに感動してしまったのかも知れない。
気が付けば涙を流していたの──・・・。
※実は夏希が眠っていた間にフェルゴヴェールが迎えに来ていたのだけど、その時に潤一の事を知ってしまったと同時に泣いていた夏希の涙を拭いました。
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