カフェ・ユグドラシル

白雪の雫

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閑話8.ミルクパン粥と卵とじうどん-7-

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 熱は上がったり下がったりを繰り返しているからなのか、体力が消耗しているので起き上がるのも苦労するくらいに身体が辛いのは確かだ。

 そんな紗雪が汗を掻く為に毛布を重ねて眠りに就いてからどれくらいの時間が経ったのだろうか。

 数時間かも知れないし、僅か数分なのかも知れない。

(早く、治さなきゃ・・・)

 夢と現を行き来している紗雪の耳に自分を呼ぶ夫と子供達の声が入って来る。

「紗雪?・・・昼よりも熱が高くなっているな。ダイニングに行くのが辛いのであれば夕食を持って来るが・・・」

「お、お願い・・・」

 昼間は微熱程度まで下がっていたのに夕方になったら高熱になっていたものだから起き上がるのが辛くて堪らない紗雪は、個室まで持って来て欲しいと頼む。

「まぁま・・・おねつでくるしい?」

「レオルくん・・・」

「まぁま、ぱぁぱとれおといっしょ、むり?」

「ああ。レオルくん、今日はパパと一緒に夕食を食べような」

「・・・・・・うん」

 レオルナードの中では家族揃ってご飯を食べるのが当然なのだが、母親が寝込んでいるので仕方ないと分かっているのか渋々という感じで父親の言葉に頷く。

「まぁま、これあげる。まぁま、おげんきなる?」

「レオルくん・・・?」

 レオルナードから画用紙を受け取った紗雪がそれを目にした途端、彼女の頬に幾筋もの涙が伝う。

「レオルくん・・・ありがとう・・・」

「まぁま・・・どこかいたいの?」

「どこも痛くないわ。人間って悲しくて辛い時だけではなく嬉しい時も・・・レオルくんの絵を貰って嬉しくなった今のママのように泣く事があるの」

 泣き出した母親の身を案じるレオルナードに紗雪が自分の思いを告げる。

「レオルくんのように紗雪に早く元気になって欲しいという思いを抱えているのは・・・紗雪という太陽が居ないだけで寂しいのは俺とクーくんも同じだから・・・」

「うん・・・」

 夫の一言に紗雪は再び涙を流す───。










◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆










 次の日の朝

「おはよう」

「まぁま!」

「紗雪・・・熱はもう下がったのか?」

「ええ。レイモンドとレオルくんが作ってくれたミルクパン粥と卵とじうどん、レオルくんの絵のおかげで熱が下がったわ!」

 クローヴィスをおんぶしてキッチンで朝食を作っていた手を止めた紗雪が拳を握りながら元気よく答える。

「良かった・・・」

(えっ?な、何か急に悪寒と熱が・・・)

 紗雪が元気になって安堵した途端、寒気に襲われたレイモンドが身体を震わせた。

「レイモンド!?」

「ぱぁぱ!?」

「う!?」

「まぁま?ぱぁぱ、ごびょうき?」

「そう、みたいね・・・」





 その日は寝込んでしまったレイモンドの看病をしたり、病人の胃に優しい料理を作ったり、レオルナードが父の回復を願って米を研いだり、家族の似顔絵を描いたのは言うまでもない。












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