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閑話7.給食-1-
しおりを挟む「コッペパン、紙パックの牛乳、甘いイチゴジャム、マーガリン、鯨の竜田揚げ、クリームシチュー、八宝菜、焼きそば、白身魚のフライ、カレー、サラダ、スープ、月に数回出てきたご飯、プリン、ゼリー、フルーツポンチ、冷凍みかん・・・」
昔は嫌いな食べ物でも残さず、早く完食しなければいけないという空気が漂っていた給食時間は美奈子にとって辛いものだった。
まぁ、自分の好きな料理が出て来た時は心が浮き立つレベルで楽しい時間だったが───。
「私の時代の給食はアルミの器だったの」
「ばあちゃんの時の給食ってそんな感じだったんだ。俺が学校に行っていた時に出た給食は唐揚げやグラタン、ミルフィーユカツにカツとじ、ムニエルにペペロンチーノ、パエリアに炊き込みご飯にドライカレー、春巻きに小籠包、デザートはゼリーだけではなくアイスやケーキが出ていたな~」
パンもコッペパンの時もあればロールパンの時もあったし、カレーの時はナンが出ていた。器もアルミではなく陶器だったのだと、信也が美奈子に話す。
「信也君の時代の給食って私の時代と比べると豪華でバラエティーに富んでいるのね」
カフェ・ユグドラシルのあるテーブルでは、美奈子と信也が世代を超えて給食について語り合っていた。
「さ、紗雪?お祖母様と信也君が話している給食って何だ?」
「料理であるという事は何となく分かるのだが・・・」
レイモンドとレオルナードをあやしているランスロットの問いに、給食というのは生徒の為に学校側が用意してくれる昼食なのだが、生徒側は月に一度給食費を払わないといけないシステムであるのだと紗雪が答える。
「なぁ、紗雪さん。紗雪さんが日本に居た頃の給食ってどんなのが出てたんだ?」
「そうね・・・。大姑様と信也君が挙げていた料理と余り変わりないわ。でも私が学校に通っていた時代の給食に鯨の竜田揚げが出た事がなかったわね」
嫌いな食材が入っている料理が出た時は泣きながらも最後まで頑張って食べていたのだと、自分の好きな料理が出て来た時は心が浮き立っていたのだと、紗雪もまた当時の事を思い出しながら懐かしさを含んだ声で静かに語り出す。
「お祖母様と紗雪の話を聞く限り、給食って苦行と苦痛の一種のような気がしてならないのだが・・・」
「嫌いなものが入っていたら子供にとって給食が苦行と苦痛でしかないのは確かよ。でも、大人になった今では栄養士さん達が生徒達に必要な栄養を摂取させる為にメニューを考えていたのだという事が分かるわ。それに・・・」
野菜を作っている農家に魚を獲っている猟師、乳牛に食用の牛を育てている酪農家に鶏肉や卵を提供する為に鶏を育てている養鶏家、給食センターの人達等
彼等の協力があってこそ給食を食べる事が出来たのに、嫌いな食材が入っていたというだけで給食が苦行と苦痛に感じて申し訳なかったとも紗雪が自分の抱えている思いを打ち明ける。
「いやいやいや!嫌いなものが入っていたらそう感じるのは当然だって!」
「そうね。そこは信也君の言う通りだと思う。でもね、カフェ・ユグドラシルで出している料理に使う食材って農家や酪農家と直接取引をしているわ。つまり生産者の顔が見えるからそのように考えるようになってしまったの」
「・・・・・・そういうもんなの?」
信也にとって食材とはスーパーでビニール袋やパックに入って売っているというものだった。
自分達が異世界でこうして二十一世紀の日本レベルの美味い料理を食べる事が出来るのは紗雪の知識とレイモンドの腕もあるが、生産者がいないとそれが出来ないのだ。
「ねぇ、紗雪さん。信也君と給食の事を話している内に久し振りに給食が食べたくなったの。作ってくれないかしら?」
「俺も給食が食べたい!」
「私も給食とやらに興味が出てきた。もしかしたら兵士達の食事の改善に繋がるのかも知れない・・・」
戦時中は固く焼いたパン・干した魚・干し肉・チーズのように保存が出来るものが主になるのは仕方ないが、平時における兵士の宿舎で出す食事のヒントになるのではないか?と思ったグスタフとアルベリッヒが紗雪に尋ねる。
「兵士の宿舎で出す食事ですが・・・普段はどのような料理を出しているのですか?」
「パン、スープ、メインディッシュは肉か魚といったところだろうか」
メインは煮込む、焼く、炙るという調理法で出すが基本はそうなのだとグスタフが紗雪に教える。
「グスタフお義兄様、アルベリッヒお義兄様。それって給食そのものだと思うのですが・・・」
「給食と宿舎で出す料理の違いは、栄養のバランスが取れているか取れていないか・・・だな」
「そうなの?」
「ああ。その辺りは冒険者と共通している」
兵士は身体が資本だから何となく栄養のバランスが取れている料理を口にしているのだと思っていた紗雪に、腹を満たすのが前提となっているので提供する料理の種類に関しては二の次なのだと、話を聞いた限りの給食と比べて出た己の意見をレイモンドが話す。
兵士達の食事の参考になるかどうか分からないが・・・と前置きした上で、紗雪はグスタフ達に給食の試食を頼む。
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