カフェ・ユグドラシル

白雪の雫

文字の大きさ
上 下
430 / 465

閑話7.給食-1-

しおりを挟む






「コッペパン、紙パックの牛乳、甘いイチゴジャム、マーガリン、鯨の竜田揚げ、クリームシチュー、八宝菜、焼きそば、白身魚のフライ、カレー、サラダ、スープ、月に数回出てきたご飯、プリン、ゼリー、フルーツポンチ、冷凍みかん・・・」

 昔は嫌いな食べ物でも残さず、早く完食しなければいけないという空気が漂っていた給食時間は美奈子にとって辛いものだった。

 まぁ、自分の好きな料理が出て来た時は心が浮き立つレベルで楽しい時間だったが───。

「私の時代の給食はアルミの器だったの」

「ばあちゃんの時の給食ってそんな感じだったんだ。俺が学校に行っていた時に出た給食は唐揚げやグラタン、ミルフィーユカツにカツとじ、ムニエルにペペロンチーノ、パエリアに炊き込みご飯にドライカレー、春巻きに小籠包、デザートはゼリーだけではなくアイスやケーキが出ていたな~」

 パンもコッペパンの時もあればロールパンの時もあったし、カレーの時はナンが出ていた。器もアルミではなく陶器だったのだと、信也が美奈子に話す。

「信也君の時代の給食って私の時代と比べると豪華でバラエティーに富んでいるのね」

 カフェ・ユグドラシルのあるテーブルでは、美奈子と信也が世代を超えて給食について語り合っていた。

「さ、紗雪?お祖母様と信也君が話している給食って何だ?」

「料理であるという事は何となく分かるのだが・・・」

 レイモンドとレオルナードをあやしているランスロットの問いに、給食というのは生徒の為に学校側が用意してくれる昼食なのだが、生徒側は月に一度給食費を払わないといけないシステムであるのだと紗雪が答える。

「なぁ、紗雪さん。紗雪さんが日本に居た頃の給食ってどんなのが出てたんだ?」

「そうね・・・。大姑様と信也君が挙げていた料理と余り変わりないわ。でも私が学校に通っていた時代の給食に鯨の竜田揚げが出た事がなかったわね」

 嫌いな食材が入っている料理が出た時は泣きながらも最後まで頑張って食べていたのだと、自分の好きな料理が出て来た時は心が浮き立っていたのだと、紗雪もまた当時の事を思い出しながら懐かしさを含んだ声で静かに語り出す。

「お祖母様と紗雪の話を聞く限り、給食って苦行と苦痛の一種のような気がしてならないのだが・・・」

「嫌いなものが入っていたら子供にとって給食が苦行と苦痛でしかないのは確かよ。でも、大人になった今では栄養士さん達が生徒達に必要な栄養を摂取させる為にメニューを考えていたのだという事が分かるわ。それに・・・」

 野菜を作っている農家に魚を獲っている猟師、乳牛に食用の牛を育てている酪農家に鶏肉や卵を提供する為に鶏を育てている養鶏家、給食センターの人達等

 彼等の協力があってこそ給食を食べる事が出来たのに、嫌いな食材が入っていたというだけで給食が苦行と苦痛に感じて申し訳なかったとも紗雪が自分の抱えている思いを打ち明ける。

「いやいやいや!嫌いなものが入っていたらそう感じるのは当然だって!」

「そうね。そこは信也君の言う通りだと思う。でもね、カフェ・ユグドラシルで出している料理に使う食材って農家や酪農家と直接取引をしているわ。つまり生産者の顔が見えるからそのように考えるようになってしまったの」

「・・・・・・そういうもんなの?」

 信也にとって食材とはスーパーでビニール袋やパックに入って売っているというものだった。

 自分達が異世界でこうして二十一世紀の日本レベルの美味い料理を食べる事が出来るのは紗雪の知識とレイモンドの腕もあるが、生産者がいないとそれが出来ないのだ。

「ねぇ、紗雪さん。信也君と給食の事を話している内に久し振りに給食が食べたくなったの。作ってくれないかしら?」

「俺も給食が食べたい!」

「私も給食とやらに興味が出てきた。もしかしたら兵士達の食事の改善に繋がるのかも知れない・・・」

 戦時中は固く焼いたパン・干した魚・干し肉・チーズのように保存が出来るものが主になるのは仕方ないが、平時における兵士の宿舎で出す食事のヒントになるのではないか?と思ったグスタフとアルベリッヒが紗雪に尋ねる。

「兵士の宿舎で出す食事ですが・・・普段はどのような料理を出しているのですか?」

「パン、スープ、メインディッシュは肉か魚といったところだろうか」

 メインは煮込む、焼く、炙るという調理法で出すが基本はそうなのだとグスタフが紗雪に教える。

「グスタフお義兄様、アルベリッヒお義兄様。それって給食そのものだと思うのですが・・・」

「給食と宿舎で出す料理の違いは、栄養のバランスが取れているか取れていないか・・・だな」

「そうなの?」

「ああ。その辺りは冒険者と共通している」

 兵士は身体が資本だから何となく栄養のバランスが取れている料理を口にしているのだと思っていた紗雪に、腹を満たすのが前提となっているので提供する料理の種類に関しては二の次なのだと、話を聞いた限りの給食と比べて出た己の意見をレイモンドが話す。

 兵士達の食事の参考になるかどうか分からないが・・・と前置きした上で、紗雪はグスタフ達に給食の試食を頼む。











しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

処理中です...