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72.牛肉のミルク煮-1-
しおりを挟むエルフによるカフェ・ユグドラシルの買収騒動があったものの、神や吸血鬼といった種族を越えた常連さん達のおかげで解決してからは平穏な日々が過ぎていった。
「先輩、今日もお客さんが多かったですね~」
「何時もの事だ。それよりもキース、疲れているのではないのか?今から賄いを作るからメアリアとキャスリンに店仕舞いをするように伝えてくれ」
最後の客がカフェ・ユグドラシルから出て行く後ろ姿を見送った後、レイモンドは賄いを作り始める。
薄切りにした玉ねぎはバターを入れて温めたフライパンでしんなりするまで、一口大に切って塩胡椒で下味を付けた牛肉はオリーブオイルを注いで温めたフライパンで炒める。
焼き色が付くくらいまで炒めた牛肉を別の皿へと取り出したら、玉ねぎを炒めていたフライパンにバター、牛乳、生クリーム、顆粒ブイヨン、そして別の皿に取り出しておいた牛肉を加えて煮込んでいく。
(こんなものかな?)
牛乳にとろみが出てきたので最後の仕上げとして塩と胡椒で味を整える。
「旦那様・・・今日の賄いは何て言うか、その・・・普通ですね?」
何時もは紗雪の故郷である日本で食べられる、どことなくロードクロイツの家庭料理とは雰囲気が違う料理なのに、今日は見慣れている故郷の料理である事にメアリアが声を上げる。
「これは・・・結婚して間もない頃に俺が紗雪に初めて教えた料理なんだ」
「「「はい?」」」
レイモンドの答えに三人が間の抜けた声を上げて驚く。
「旦那様が教えたではなく、奥様が旦那様に教えたの間違いでは?」
「何で先輩は奥さんに牛肉のミルク煮込みを教えたんですか?」
今でこそレイモンドは見た目が魔王な国王陛下にそっくりなおじさんからお抱え料理人として雇いたいと言われる料理人だが、冒険者時代の彼は冒険者の例に漏れず、また高位貴族の息子という事もあり料理が下手だった。
結婚して間もない頃という事は、当時のレイモンドは料理が下手だったのではないか?と思ったキースが尋ねる。
「・・・・・・話しても良いが、三人にとっては俺の単なる惚気でしかないぞ?」
「じゃあ話さなくてもいいです」
「「私は聞きたいです」」
他人の惚気なんて聞きたくないと即答したキースとは反対に、メアリアとキャスリンが恋バナを聞きたいノリで答えを返す。
「キース、聞きたくないのであれば聞き流せばいいだけだ」
そう言ったレイモンドは過去を懐かしむかのように当時の事を語り出した。
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