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71.イクラと鮭-5-
しおりを挟む日本では高級食材の一つであるイクラ。
日本に居た頃は回らない寿司屋で一貫数百円は出さないと食べる事が出来なかった、コンビニで売っている弁当より高価だったイクラ。
「お、美味しそう~。このツヤ、この輝き、まるで赤い宝石みたい。それにしてもイクラってパスタにも使うのね」
そんなイクラを散りばめている二種類のパスタ(量はそれぞれ半人前ずつで別々の皿に盛っている)を前に美奈子は、自分が日本に居た頃と比べて随分と時代が変わったわね~と瞳をキラキラと輝かせている。
「今回は熊の獣人と思しきお客様が鮭の卵を使った料理を希望したので作ってみました。お祖母様、食べてみて下さい」
「勿論よ!」
食事前の祈りを捧げた美奈子は、まず鮭とイクラのクリームパスタをフォークに絡ませてから口に運ぶ。
「ソースは円やかで口の中で溶けるようにクリーミー、それでいてどこか、これはコンソメが入っているのかしら・・・?塩漬けにしている鮭を使っている事で程よい塩気が口の中に感じるわ・・・」
クリームパスタにおけるイクラはメインというよりクリームソースに彩りを添えるようなものであるような気がすると思いながらも、次に美奈子はたっぷりのイクラが盛られているバター醬油のパスタを食べてみる。
「最初に食べたクリームパスタはイクラが脇役でイクラを食べた気にならなかったけど、このパスタはイクラが主役なのね」
バターと醤油のコクと旨味が絡まった適度な噛み応えのあるパスタ、イクラ独特のプチプチとした食感と旨味、程よい塩気が美奈子の口に広がっていく。
(あら?)
「この風味は・・・昆布?」
仄かに昆布の風味を感じた美奈子が首を傾げる。
「はい。鮭とイクラのクリームパスタには顆粒コンソメを、イクラのパスタには粉末昆布を加えています」
顆粒コンソメと粉末昆布。
どちらを使うかで風味が異なる事を面白いと思いながら美奈子は二種類のパスタを綺麗に平らげる。
「レイモンド、紗雪さん・・・。二つのパスタはどちらも違う趣を感じて美味しいわ。でもそのお客様はイクラを使った料理を食べさせて欲しいと望んだのでしょ?」
クリームパスタではなくバター醤油のパスタの方がいいのではないか?
或いはクリームパスタを出すにしてもイクラを多く使えばいいのではないか?と美奈子が意見を述べる。
「成る程・・・」
「という事はパスタだけではなく丼に関しても鮭を使わない方がいい?」
「それとこれとは話が別」
「「・・・・・・・・・・・・」」
鮭とイクラの親子丼は食べたいと宣う美奈子に、熊の獣人と思しき客にも両方を出した方がいいかな~?と思うレイモンドと紗雪であった。
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