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70.エルフによるカフェ・ユグドラシル買収騒動-9-
しおりを挟む自分はグリーンリーフ王国の王女だから、平民と違って赤子の頃は乳母の乳を飲んでいたのだと、レイモンドが庇ってくれた事で我を取り戻したオリヴィアが胸を張って答える。
「エルフは神に近い存在だから動物の血肉は口にしない高貴な種族なのですよね?それなのに何故、子供を産んだ女性の血液で出来ている母乳を飲んでおられるのでしょうか?」
卒乳したら土に還った虫や動物の肉を養分で育った果実に木の実、山菜や野菜を口にするようになる。
神に近い存在を称するのであれば、母乳や果実ではなく水だけを飲めばよいのではないだろうか?
「そ、それは・・・そんなの詭弁じゃ!果実や野菜は動物の血肉で出来ていないではないか!!!」
「ですが、果実や野菜といった植物は土に還った虫や動物の肉を養分にして実るのです。それを口にするという事はエルフもまた野蛮な輩と見下している我等と同じ穴の狢なのだと私は言いたいのですよ。神に近い存在であると称するのであれば水だけを糧にすればよろしいのでは?」
「パパさんの言う通りよ!」
「ねぇ、そこの女エルフ。パパさんの話をちゃんと聞いていたかしら?エルフは森の恵みを享受しているから他種族を見下しているけど、神だって肉や魚だけではなく卵や乳を平気で口にするわ」
それにね・・・果実や山菜だって土に還った動物の肉がないと実らないの、よ?
水だけを飲めばいいと宣ったレイモンドに詭弁だと言い返すオリヴィアに対して恨み骨髄なセイリオスが引き攣った笑みを浮かべながら彼女の頬を拳で軽く触れる。
セイリオスにとっては軽く触れた程度でしかないのだが、神と比べて遥かに脆い肉体であるエルフにとっては───というか他種族にとっても非常に重い一撃である。
その衝撃でオリヴィアに強い衝撃が走り、その拍子で奥歯が抜けてしまり、彼女の口端からは幾筋もの血が伝い落ちる。
「エルフって本当に失敗作だわ~」
「食べ物の恨み、思い知りなさ~い!!!」
長兄に倣いアウグスタスとファルネウスも食べる事が出来なかったジャイアントブラックバイソンのステーキを乗せたガーリックバターライスの恨みを晴らしてやると言わんばかりオリヴィアに軽いジャブを入れる。
「神に近い存在を自称するなら、パパさんが言ったように水だけで生きていける身体になった上で生きながらにして冥界を行き来出来なきゃ意味がないわよぉ」
冥界というのは死者が住む世界で、死者に苦痛を与えるとしか思えないだろうが、実際は天国───国によっては極楽や浄土という呼び方をするのだろうが死者にとっての楽園も冥界に含まれていたりする。
あの世や常世、冥土や冥府、黄泉の国という言い方をするのかも知れないが、例え膨大な魔力や霊力を持っていたとしても肉体という器を纏っている生者は決して足を踏み入れる事が出来ない世界なのだ。
肉体という器がある限り生者が足を踏み入れる事が出来ないという事は、逆を言えば肉体がなければ冥界に行けるという事でもある。肉体という檻から抜け出した死者の魂魄の行く場所───それが冥界なのだが、そんな冥界に生きたまま行く事が出来るのは、神を除けば天界の住人だけである。
「ねぇ・・・今からあたしがあんた達を冥界に送り込むわ」
「生きて冥界から戻ってこれたら、あたし達もエルフが神に近い種族だって認めてあ・げ・る♡」
特別サービスで虫の息状態なオリヴィアを治癒した後、セイリオスは彼女と彼女に従っている兵士達を冥界へと送ってしまった。
「あの・・・セイリオスさん、アウグスタスさん、ファルネウスさんの言葉を聞く限り、あのエルフ達を冥界に送ったみたいですが、それってつまり──・・・」
「そう!パパさんの想像通り、あのエルフ達は死ぬ事も出来ず永遠に生きながらにして冥界を彷徨うの♡」
「ちなみにあの女エルフの故郷・・・何て言ったかしらね?ついでにそこに住んでいるエルフも全員オークに変えておいたわよ♡」
「いっけな~い!あたし達の食料として討伐された後も、何とか王国のエルフ全てがオークとして転生するようにパパとお姉ちゃま達に伝えておかなくちゃいけないわ~!」
(こ、恐ぇーーーっ!)
「あの・・・セイリオスさん、アウグスタスさん、ファルネウスさん?今からジャイアントブラックバイソンのステーキを乗せたガーリックバターライスを作り直します」
「「「まぁ♡」」」
カフェ・ユグドラシルを救ってくれたので今回は奢りだと、生者を冥界に送ってしまったという事実に顔を蒼褪めながらもレイモンドが伝えると、一気に機嫌が良くなった三柱はテーブルに就いてジャイアントブラックバイソンのステーキを乗せたガーリックバターライスが出来上がるのを待つ。
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