カフェ・ユグドラシル

白雪の雫

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70.エルフによるカフェ・ユグドラシル買収騒動-4-

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「クリストフ陛下は紗雪殿が人間でない事に気付いておられたのか?」

「ああ」

 これは気配と言えばいいのだろうか?

 或いはオーラとでも言えばいいのだろうか?

 人間が人間である事を示すかのように、魔族が魔族である事を示すかのように、エルフがエルフである事を示すかのように───生きとし生けるものは自分がその種族である事を示す気配を纏っている。

 例え魔法や薬等で完璧に変化していても、種族特有の気配だけは誤魔化す事は出来ないのだ。

「人間とエルフとの間に産まれたハーフエルフが人間とエルフの気配を纏っているように、サユキ嬢は人間と神に近い気配を持っているのじゃ・・・」

 二つの気配を持っているからこそ紗雪が純粋な人間ではなく混じり者である事に気が付いたのだと、クリストフがランスロットに教える。

「クリストフ陛下にはカフェ・ユグドラシルに来ているお客様の種族が分かるのでしょうか?」

「分かるぞ」

 こればかりは人間には察知出来ない本能のようなものだと、もしかしたら紗雪であれば自分よりも奥深く察する事が出来るだろうと前置きした上で、別のテーブルに居る二人の男性と一人の女性はどこからどう見ても人間としか思えないが、その本性は魔族である。

 別のテーブルで鮭の料理を口にしている男性の本性は人間ではなく、恐らくだが熊タイプの獣人。

 そしてカウンター側のテーブルに腰を下ろしてレイモンドと会話をしている三人のオネエは口にするのも憚れる畏れ多い存在なのだと、クリストフがエレオノーラに教える。

「給仕、頼みがある」

「はい。何でしょうか?」

 別のテーブルに料理を運び終え厨房へと戻ろうとするキャスリンを呼び止めたクリストフが、紗雪にカフェスペースのテーブルに来るように伝えて欲しいと頼む。

「わ、分かりました・・・」

 見た目は大魔王なダークエルフが紗雪の親友である事を知っているキャスリンは厨房に戻ると、この事をレイモンドに伝える。





 クリストフが『畏れ多い存在』だと言っていた三柱が居るカウンター側のテーブルでは───

「今日の数量限定であるロックバードのチーズソースステーキもいいけど、お子様ランチも捨て難いわね~」

「お兄ちゃま。お子様ランチは子供だけしか食べられない料理だから、あたし達のような大人が食べる事が出来ないわよ?」

「ファルネウス、今のあたしはお兄ちゃまではなくお姉ちゃまよ!」

「大人向けのお子様ランチがあればいいのにね~。ママさんに言えばメニューに加えてくれるかしら?」

「「「でも、今日はガツン!と言えばいいのかしら?ガッツリ!とでも言えばいいのかしら?食べ応えのある男らしい~♡的な料理を食べたい気分なのよね~」」」





 何だと!?

 オネエも男らしい料理を食べるのか!?





 冊子に目を通しながら何を食べようか悩んでいるセイリオス、アウグスタス、ファルネウスの会話が聞こえてしまった客達が一斉に心の中でツッコミを入れる。

「ねぇ、パパさん。男らしい~♡的な料理ってあるかしら?」

「そうですね。・・・賄いになるのですが、肉を乗せたガーリックバターライスは如何でしょうか?」

 カフェ・ユグドラシルで肉を乗せたガーリックバターライスは賄いで出す事はあってもメニューに載っていないので訪れた客達は決して口に出来ない料理だ。

 だってニンニクを使った料理って食欲をそそるし美味しいけど香りがきついから。

 唐揚げでも摩り下ろしたニンニクを使った物か使っていない物で分けているくらいだ。

 しかしメニューに載っていない料理を出して客の望みを叶える事もあれば、それが正式なメニューとして加える事があるのもカフェ・ユグドラシルのやり方だった。

(ニンニクって確か火を通す前に刻んだり摩り下ろしたりしたら臭いが出るのであって、臭いの元である芯を取り除いた上で火を通せば臭いが和らぐような・・・)

 根本的に臭いを取り除くのは無理かも知れないが、薄くスライスして火を通した事でニンニクの香りが移ったオイルで肉を焼けば、ニンニクの香りが移ったバターでライスを炒めたら旨味と深みが出るし食欲を刺激する。

 何より三柱が希望しているガッツリな男らしい料理になるのではないだろうか。

「「「ジャイアントブラックバイソンのステーキを乗せたガーリックバターライスをお願いするわ♡」」」

「ご注文、承りました」

 そう答えたレイモンドは三柱の為にジャイアントブラックバイソンのステーキを乗せたガーリックバターライスを作り始める。











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