383 / 454
閑話6・夏のバイト-12-
しおりを挟む今でこそ市町村合併で町となっているが、日本が豊臣何某という男によって統一されつつある頃は山河村と呼ばれていた。
当時の山河村を治めていたのは太助という村長で、妻であるお鶴との間に息子を一人儲けていた。
息子の名前は太一。
両親の愛情を受けて育った太一であったが六歳の時に病で命を落としてしまったのだ。
『太一・・・太一・・・』
我が子の死を嘆く村長夫妻の元に源栄と名乗る旅の法師が現れ、二人の耳元でこう囁く。
我が秘術であなた方の御子を生き返らせて差し上げましょう
「その方法というのが、蘇らせたい者と同じ年頃の者を生け贄に捧げるというものだったのです・・・」
現代であればそれで死んだ者が生き返る筈がない事くらい分かるのですが、太助とお鶴にしてみれば藁にも縋る思いだったのでしょうね
二人は太一を生き返らせる為に、村に居た太一と同じ年頃の子供を差し出した後、源栄は小屋に籠って死者蘇生の儀式を行いました
「そ、それで?太一という村長の息子さんはどうなったの?」
「・・・・・・太一は生き返りました。が、生き返ってからの彼は人の言葉を解さぬ、血と肉を好む化け物になりました」
「「「血と肉!?」」」
「それってゾンビそのものじゃない・・・」
「涼香さんの仰る通り、生き返った太一はゾンビそのものと言ってもいいでしょう。ですが、太助とお鶴にとっては可愛い一人息子・・・」
我が子の望みを叶える為に、二人はまず動物の血と死肉を用意するようになったのです
最初はそれで満足していた太一だったが、時が経つにつれ彼は死肉ではなく新鮮な肉を食べたいと両親に強請るようになったのだと宗清が話す。
「新鮮な肉?」
「それってつまり・・・生肉って奴?」
「はい」
芳恵と真由美の言葉を肯定するように宗清が頷く。
「太助とお鶴は太一の為に肉を・・・最初は鶏や兎、雉や猪といった動物の肉を用意していたのですが、それだけでは物足りなくなったのでしょうね」
遂に太一は人間の肉を欲するようになったのです
「「「!!!」」」
宗清の一言に真由美と涼香、芳恵が口元に手を当てて驚く。
「ま、まさか!太助とお鶴は太一の為に人間の肉を用意するようになった!?」
「はい。当時は忽然と人が消えたら神隠しとも言われていましたし、人攫いが攫った人間を、戦争で捕虜になった人間を他国に売り払うという行為が公然と行われていましたので、当初はそれ等の一環だと思われていました・・・」
しかしその現象が山河村でのみ頻繁に起こるものだから、不気味に感じた村の人達は家に閉じ籠るようになったのだという。
「太一の為であるとはいえ、太助とお鶴は己の罪深さを自覚していたのかも知れません。今以上の罪を重ねて生きて行くという事実に耐え切れなくなった二人は当時の住職に事に真相を話したのです」
己のエゴで我が子を人の肉を食らう魔物へと転生させた事実を聞いた住職は憤慨したが、今は太一を倒す事を優先させなければならないのだ。
「今からお二人を拘束します」
我が子可愛さで人間の肉を用意した太助とお鶴の事。
生きている人間にとってはありがたい、魔物と化してしまった存在には身を焼き尽くす炎のように纏わりつく御仏の教えで苦しんでいる太一を絶対に助けると判断した僧侶の一人が太助とお鶴を縄で縛ってから本堂に匿うと、住職は弟子達と共に読経した。
いや、初めての魔物にどう対処すれば良いのか分からない彼等は読経するしかなかったのだ。
おっとぅ・・・
おっかぁ・・・
本堂の外からは太一の姿をしている魔物から父母を求める声が微かに聞こえてくる。
太助とお鶴は我が子の元へ駆け寄ろうとするのだが拘束されている二人は動く事が出来ず、僧侶達の力強い読経によって太一の声はかき消されていた。
一日の始まりを、朝の訪れ告げるかのように一番鶏の声が山河村に響き渡る───。
0
お気に入りに追加
422
あなたにおすすめの小説
聖女のおまけです。
三月べに
恋愛
【令嬢はまったりをご所望。とクロスオーバーします。】
異世界に行きたい願いが叶った。それは夢にも思わない形で。
花奈(はな)は聖女として召喚された美少女の巻き添えになった。念願の願いが叶った花奈は、おまけでも気にしなかった。巻き添えの代償で真っ白な容姿になってしまったせいで周囲には気の毒で儚げな女性と認識されたが、花奈は元気溌剌だった!
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です
しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。
【完結】婚約者は偽者でした!傷物令嬢は自分で商売始めます
やまぐちこはる
恋愛
※タイトルの漢字の誤りに気づき、訂正しています。偽物→偽者
■□■
シーズン公爵家のカーラは王家の血を引く美しい令嬢だ。金の髪と明るい海のような青い瞳。
いわくつきの婚約者ノーラン・ローリスとは、四年もの間一度も会ったことがなかったが、不信に思った国王に城で面会させられる。
そのノーランには大きな秘密があった。
設定緩め・・、長めのお話です。
【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。
西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ?
なぜです、お父様?
彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。
「じゃあ、家を出ていきます」
踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
【完結】聖女の私を処刑できると思いました?ふふ、残念でした♪
鈴菜
恋愛
あらゆる傷と病を癒やし、呪いを祓う能力を持つリュミエラは聖女として崇められ、来年の春には第一王子と結婚する筈だった。
「偽聖女リュミエラ、お前を処刑する!」
だが、そんな未来は突然崩壊する。王子が真実の愛に目覚め、リュミエラは聖女の力を失い、代わりに妹が真の聖女として現れたのだ。
濡れ衣を着せられ、あれよあれよと処刑台に立たされたリュミエラは絶対絶命かに思われたが…
「残念でした♪処刑なんてされてあげません。」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる