カフェ・ユグドラシル

白雪の雫

文字の大きさ
上 下
383 / 465

閑話6・夏のバイト-12-

しおりを挟む










 今でこそ市町村合併で町となっているが、日本が豊臣何某という男によって統一されつつある頃は山河村と呼ばれていた。

 当時の山河村を治めていたのは太助という村長で、妻であるお鶴との間に息子を一人儲けていた。

 息子の名前は太一。

 両親の愛情を受けて育った太一であったが六歳の時に病で命を落としてしまったのだ。

 『太一・・・太一・・・』

 我が子の死を嘆く村長夫妻の元に源栄と名乗る旅の法師が現れ、二人の耳元でこう囁く。





 我が秘術であなた方の御子を生き返らせて差し上げましょう





 「その方法というのが、蘇らせたい者と同じ年頃の者を生け贄に捧げるというものだったのです・・・」

 現代であればそれで死んだ者が生き返る筈がない事くらい分かるのですが、太助とお鶴にしてみれば藁にも縋る思いだったのでしょうね

 二人は太一を生き返らせる為に、村に居た太一と同じ年頃の子供を差し出した後、源栄は小屋に籠って死者蘇生の儀式を行いました

 「そ、それで?太一という村長の息子さんはどうなったの?」

 「・・・・・・太一は生き返りました。が、生き返ってからの彼は人の言葉を解さぬ、血と肉を好む化け物になりました」

 「「「血と肉!?」」」

 「それってゾンビそのものじゃない・・・」

 「涼香さんの仰る通り、生き返った太一はゾンビそのものと言ってもいいでしょう。ですが、太助とお鶴にとっては可愛い一人息子・・・」

 我が子の望みを叶える為に、二人はまず動物の血と死肉を用意するようになったのです

 最初はそれで満足していた太一だったが、時が経つにつれ彼は死肉ではなく新鮮な肉を食べたいと両親に強請るようになったのだと宗清が話す。

 「新鮮な肉?」

 「それってつまり・・・生肉って奴?」

 「はい」

 芳恵と真由美の言葉を肯定するように宗清が頷く。

 「太助とお鶴は太一の為に肉を・・・最初は鶏や兎、雉や猪といった動物の肉を用意していたのですが、それだけでは物足りなくなったのでしょうね」

 遂に太一は人間の肉を欲するようになったのです

 「「「!!!」」」

 宗清の一言に真由美と涼香、芳恵が口元に手を当てて驚く。

 「ま、まさか!太助とお鶴は太一の為に人間の肉を用意するようになった!?」

 「はい。当時は忽然と人が消えたら神隠しとも言われていましたし、人攫いが攫った人間を、戦争で捕虜になった人間を他国に売り払うという行為が公然と行われていましたので、当初はそれ等の一環だと思われていました・・・」

 しかしその現象が山河村でのみ頻繁に起こるものだから、不気味に感じた村の人達は家に閉じ籠るようになったのだという。

 「太一の為であるとはいえ、太助とお鶴は己の罪深さを自覚していたのかも知れません。今以上の罪を重ねて生きて行くという事実に耐え切れなくなった二人は当時の住職に事に真相を話したのです」

 己のエゴで我が子を人の肉を食らう魔物へと転生させた事実を聞いた住職は憤慨したが、今は太一を倒す事を優先させなければならないのだ。

 「今からお二人を拘束します」

 我が子可愛さで人間の肉を用意した太助とお鶴の事。

 生きている人間にとってはありがたい、魔物と化してしまった存在には身を焼き尽くす炎のように纏わりつく御仏の教えで苦しんでいる太一を絶対に助けると判断した僧侶の一人が太助とお鶴を縄で縛ってから本堂に匿うと、住職は弟子達と共に読経した。

 いや、初めての魔物にどう対処すれば良いのか分からない彼等は読経するしかなかったのだ。

 おっとぅ・・・

 おっかぁ・・・

 本堂の外からは太一の姿をしている魔物から父母を求める声が微かに聞こえてくる。

 太助とお鶴は我が子の元へ駆け寄ろうとするのだが拘束されている二人は動く事が出来ず、僧侶達の力強い読経によって太一の声はかき消されていた。

 一日の始まりを、朝の訪れ告げるかのように一番鶏の声が山河村に響き渡る───。












しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

聖女らしくないと言われ続けたので、国を出ようと思います

菜花
ファンタジー
 ある日、スラムに近い孤児院で育ったメリッサは自分が聖女だと知らされる。喜んで王宮に行ったものの、平民出身の聖女は珍しく、また聖女の力が顕現するのも異常に遅れ、メリッサは偽者だという疑惑が蔓延する。しばらくして聖女の力が顕現して周囲も認めてくれたが……。メリッサの心にはわだかまりが残ることになった。カクヨムにも投稿中。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

てめぇの所為だよ

章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。

処理中です...