カフェ・ユグドラシル

白雪の雫

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閑話6・夏のバイト-12-

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 今でこそ市町村合併で町となっているが、日本が豊臣何某という男によって統一されつつある頃は山河村と呼ばれていた。

 当時の山河村を治めていたのは太助という村長で、妻であるお鶴との間に息子を一人儲けていた。

 息子の名前は太一。

 両親の愛情を受けて育った太一であったが六歳の時に病で命を落としてしまったのだ。

 『太一・・・太一・・・』

 我が子の死を嘆く村長夫妻の元に源栄と名乗る旅の法師が現れ、二人の耳元でこう囁く。





 我が秘術であなた方の御子を生き返らせて差し上げましょう





 「その方法というのが、蘇らせたい者と同じ年頃の者を生け贄に捧げるというものだったのです・・・」

 現代であればそれで死んだ者が生き返る筈がない事くらい分かるのですが、太助とお鶴にしてみれば藁にも縋る思いだったのでしょうね

 二人は太一を生き返らせる為に、村に居た太一と同じ年頃の子供を差し出した後、源栄は小屋に籠って死者蘇生の儀式を行いました

 「そ、それで?太一という村長の息子さんはどうなったの?」

 「・・・・・・太一は生き返りました。が、生き返ってからの彼は人の言葉を解さぬ、血と肉を好む化け物になりました」

 「「「血と肉!?」」」

 「それってゾンビそのものじゃない・・・」

 「涼香さんの仰る通り、生き返った太一はゾンビそのものと言ってもいいでしょう。ですが、太助とお鶴にとっては可愛い一人息子・・・」

 我が子の望みを叶える為に、二人はまず動物の血と死肉を用意するようになったのです

 最初はそれで満足していた太一だったが、時が経つにつれ彼は死肉ではなく新鮮な肉を食べたいと両親に強請るようになったのだと宗清が話す。

 「新鮮な肉?」

 「それってつまり・・・生肉って奴?」

 「はい」

 芳恵と真由美の言葉を肯定するように宗清が頷く。

 「太助とお鶴は太一の為に肉を・・・最初は鶏や兎、雉や猪といった動物の肉を用意していたのですが、それだけでは物足りなくなったのでしょうね」

 遂に太一は人間の肉を欲するようになったのです

 「「「!!!」」」

 宗清の一言に真由美と涼香、芳恵が口元に手を当てて驚く。

 「ま、まさか!太助とお鶴は太一の為に人間の肉を用意するようになった!?」

 「はい。当時は忽然と人が消えたら神隠しとも言われていましたし、人攫いが攫った人間を、戦争で捕虜になった人間を他国に売り払うという行為が公然と行われていましたので、当初はそれ等の一環だと思われていました・・・」

 しかしその現象が山河村でのみ頻繁に起こるものだから、不気味に感じた村の人達は家に閉じ籠るようになったのだという。

 「太一の為であるとはいえ、太助とお鶴は己の罪深さを自覚していたのかも知れません。今以上の罪を重ねて生きて行くという事実に耐え切れなくなった二人は当時の住職に事に真相を話したのです」

 己のエゴで我が子を人の肉を食らう魔物へと転生させた事実を聞いた住職は憤慨したが、今は太一を倒す事を優先させなければならないのだ。

 「今からお二人を拘束します」

 我が子可愛さで人間の肉を用意した太助とお鶴の事。

 生きている人間にとってはありがたい、魔物と化してしまった存在には身を焼き尽くす炎のように纏わりつく御仏の教えで苦しんでいる太一を絶対に助けると判断した僧侶の一人が太助とお鶴を縄で縛ってから本堂に匿うと、住職は弟子達と共に読経した。

 いや、初めての魔物にどう対処すれば良いのか分からない彼等は読経するしかなかったのだ。

 おっとぅ・・・

 おっかぁ・・・

 本堂の外からは太一の姿をしている魔物から父母を求める声が微かに聞こえてくる。

 太助とお鶴は我が子の元へ駆け寄ろうとするのだが拘束されている二人は動く事が出来ず、僧侶達の力強い読経によって太一の声はかき消されていた。

 一日の始まりを、朝の訪れ告げるかのように一番鶏の声が山河村に響き渡る───。












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