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閑話6・夏のバイト-10-
しおりを挟む「本堂では宗清住職と尊清副住職が御祈祷をしている最中ですのに勝手に堂を出ては困ります!」
庫裡に居た若い僧侶の一人が四人を咎めるのだが、芳恵に憑いていた三体は祓ったので今頃術者が呪詛返しを食らっているはずだと紗雪が伝える。
「た、確かめてきます!」
紗雪の話を聞いた僧侶が本堂に向かって走っていく。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
祈祷をしている最中に足を踏み入れるのは禁止されているので、僧侶は本堂の前で突っ立っているだけだった。
「宗清住職、尊清副住職。その・・・」
本堂から出てきた宗清と尊清に、朝まで堂に籠っていなければならないはずの四人が勝手に出て来た事を僧侶が伝える。
「やはりそうでしたか・・・」
「英俊、御祈祷は終わりましたよ・・・」
本来であれば一晩掛かるはずの御祈祷が早く終わった事に英俊は『凄い!』と住職と副住職を褒め称えるが、何故か二人は険しい表情を浮かべている。
「住職?副住職?」
「翡翠楼の女将さん・・・安子さんの気が触れてしまいました」
「さっきからずっと亡くなったお嬢さんの名前を呟いていたかと思えば、今は気が狂ったように笑っていますよ・・・」
「え?」
宗清と尊清が何を言っているのか分からない英俊は本堂を覗いてみた。
「女将さん!?」
英俊の瞳に飛び込んで来たのは、何時も朗らかで年齢より若々しい安子が狂気を含んだ表情でケタケタと笑っている姿だった。目は窪み頬が削げ落ちてしまっているものだから、その姿が余計に不気味で禍々しく感じられるのだ。
「こ、これは・・・?何で女将さんがあんな姿に?」
「呪詛返し・・・」
「呪詛返しって確か・・・読んで字のごとく、術者に呪術を返すのですよね?」
出家する前はそれなりに漫画やアニメといったサブカルチャーに親しんでいた英俊が尊清の問い掛けとも言える一言にそう答える。
「そうです。それがどのような形で返って来るのかは術者の力量次第です。最悪な場合、命を失う事だってあり得る・・・」
英俊の答えを肯定するように宗清と尊清が頷く。
「宗清住職、尊清副住職。女将さんが何をしようとしていたのか・・・話してくれませんか?」
「・・・・・・分かりました。実は真由美さんから話を聞いた時から貴女達には話そうと決めていました」
「その前に・・・」
紗雪さんを除くお三方はまず湯浴みを済ませて下さい
「「「あ゛っ・・・」」」
指で自分の鼻を摘まんでいる宗清の言葉で自分達が粗相をしてしまっていた事にようやく気が付いた三人は顔を赤くしながら浴場へと向かうのだった。
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