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67.牛タンと弟子-3-
しおりを挟む注文した料理の代金をメアリアに払った後、キースはレイモンドと話をしたい事を彼女に伝えた。
ランチタイムのピークを過ぎていたが、カフェ・ユグドラシルでは夕食に向けての仕込みをしなければならない。
閉店後であれば話を聞くと、メアリアを通じてレイモンドからの言葉を聞いたキースはカフェ・ユグドラシルが閉店になるまで待っていた。
「待たせて済まなかったな、キース」
「いえ・・・忙しいのに俺と話す時間を作ってくれて嬉しいです」
本当は結構な時間待っていたのだが、その事を先輩であるレイモンドにいう訳にはいかないキースは、その気になればギルドの幹部にも、騎士の隊長か団長にもなれるくらいの実力があるのに料理人になった理由を尋ねる。
「妻の世界の料理を広げたい、妻にキルシュブリューテ王国を第二の故郷と思って欲しい。それだけの理由で俺は料理人になった」
「は?そんな下らない理由で!?」
陛下に自分の料理を食べて貰う為とか、食文化の発展に力を尽くしたいとか、何か高尚な理由があると思っていたのに、料理人になったのが女だったという事実にキースは呆れ果てたというか馬鹿にしたような声を上げる。
「お前にとってはそうかも知れないが、己の人生に迷い満たされない心を抱えていた俺にとって妻は誰よりも大切な存在であり、俺が料理人を目指す切っ掛けとなった最大の理由なんだ」
(こ、怖ぇーーーっ!!!)
口調は穏やかだが殺気だけで人の命を奪えそうなオーラをレイモンドから感じたキースは今にも気を失いそうになっていた。
「キース。お前には分からないだろうが、俺が料理人になった切っ掛けは妻だ。今は、俺が作った料理を食べた人達が喜んでいる顔を見るのは楽しくて・・・特に妻と子供の笑顔が何よりも嬉しいんだ」
「そ、そういうもの、なんですか?」
同じ料理人でも、妻子の為ではなく国王の為に料理を作る王宮料理人の方が名誉であり喜ばしい事ではないだろうか?
レイモンドの言葉の意味をキースは理解出来ないでいる。
だが、話を聞いたキースは決意し、レイモンドに告げた。
「俺も料理人になるので先輩の弟子にして下さい!」
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