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63.精進料理のフルコース。またの名を大豆無双-3-
しおりを挟む「出来た~」
喜色満面の笑みを浮かべた紗雪が手にしているのは、ネットショップで購入したフェルトで自作した赤ちゃん向けの絵本だった。
絵本と言っても赤ちゃんに読み聞かせするものでもなければ紙で作ったものでもない。動物の形に切り取った布を縫い付けているものだ。
「後はこの絵本を包んだら、光の祭典の日に渡すレオルくんのプレゼントの完成~」
家族三人で初めて祝う光の祭典の事を思いながら、紗雪は絵本をプレゼント用に飾りつけ包装していく。
光の祭典とは、日の出から日没の時間が一番短い冬至の日を切っ掛けに昼の時間が長くなる───太陽が生まれ変わって力を取り戻す事を祝う祭りだ。
「えへへ~」
「おはよう、レオルくん」
朝寝から目を覚ましたレオルナードに気が付いた紗雪が声を掛ける。
「オムツを替えてご飯を食べたら、レイモンドの・・・パパのお手伝いに行こうね」
「だぁう~」
朝のお眠りをした事でご機嫌なレオルナードのオムツを替えた後、紗雪はキッチンで離乳食を作り始めた。
「だぁ!」
「レオルくん、待っててね」
ダイニングとキッチンを仕切る柵を掴まり立ちしながら自分を眺めている我が子に紗雪は笑みを向ける。
紗雪がレオルナードの世話を終えて、客の注文を聞いている頃
(この店、相変わらず客でいっぱいだな~。二人にここに来た目的を話せればいいのだが・・・)
デイビッドはレイモンドと紗雪にショウジン料理の事を聞こうとカフェ・ユグドラシルまで赴いたのだが、昼食時だからなのかカフェスペースは料理を食べに来た客で埋まっていた。
まぁ、王都に建つ食堂と比べたらレベル違いなので当然と言えば当然なので、こればかりは仕方がない。
「いらっしゃいませ。・・・はい、少々お待ち下さい」
そんなデイビッドをテーブルに案内したレオルナードを背負っている女将の紗雪が、注文が決まったら呼んで欲しいとメニューが載っている冊子を渡して別のテーブルへと歩く。
紗雪から受け取ったメニューを開いたデイビッドは何を頼むかを考える。
(ほぅ・・・デザートだけでも随分と豊富な。しかも飾り付けが美しい)
店で食べる事が出来るのは持ち帰りも出来るケーキにタルト、パイにパンケーキ、クッキー等だ。
アイスクリームにかき氷といった冷たいスイーツは季節限定なので冬のメニューに載っていない。
(フルーツグラタン?・・・ブレッドボウルのデザート?)
冊子を見ていたデイビッドの瞳に飛び込んで来たのはフルーツグラタンのイラストだった。
肉や魚、或いはフルーツを乗せたパンを食べる事はあるし、スープが入っているブレッドボウルもあったりする。だが、ブレッドボウルをデザートにするという発想はキルシュブリューテ王国にはなかった。
パンプディングに似ているような気がしないでもないが、フルーツグラタンとパンを組み合わせたらどのような食感になるのか想像出来ない。しかし、何となくだが・・・美味そうだ。
「サユキ嬢・・・いや、女将」
「はい」
これなら甘いものが大好きなディートヘルムが夢中になるのも当然だと思いながらデイビッドは紗雪を呼ぶと、パンを器にした冬限定のフルーツグラタンとコーヒーを注文した。
「フルーツグラタンとコーヒーのご注文を承りました」
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