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62.豆腐-11-
しおりを挟む※試食会から何年か経っており、二人の間には第二子のクローヴィスが誕生しています
後日談というかおまけ
「フワフワとしているのにお肉の旨味がある豆腐ハンバーグには柚子の爽やかさと酸味、鰹と昆布の風味と旨味を感じるポン酢が合いますわね」
「私はトマトソースで煮込んだ豆腐ハンバーグの方が好みだな」
「ポン酢!」
「トマトソース!」
「「・・・・・・・・・・・・」」
レイモンドが作る料理はどれも美味しい事に変わりはないのだから言い争うのは無駄だと、セバスティアンとジゼルは互いに微笑みながら新しくメニューに加わった豆腐を使った料理を食べていく。
美容と健康にいい豆腐料理はロスワイゼとアルベルディーナがアピールしてくれた事で徐々にではあるがキルシュブリューテ王国に広まっており、その噂を聞き付けた周辺の都市や近隣諸国の者達が豆腐目的でカフェ・ユグドラシルまで来るのだ。
「豆腐って異世界では健康と美容にいい食べ物なのよね?それを食べちゃったあたし達って今よりも綺麗になっちゃう?」
「あたし達って今でも綺麗なのに、これ以上綺麗になったら困っちゃうわ~♡」
三柱が豆腐ロールケーキを楽しみながら軽口を叩き合っているその時、一組の男女がカフェ・ユグドラシルにやって来た。
男の方は二十代前半くらいの黒髪に淡い緑色の瞳を持つ非常に可愛らしい顔立ちをしている青年で、見るからに穏やかで優しそうな雰囲気を纏っている。一言で言えば癒し系のイケメンだ。
女の方は男と同じくらいの年頃であろうか。
緩やかに波打つ黄金色の髪と若葉色の瞳を持つ女性は一言で言い表すなら、可憐で楚々としたという言葉が似合う美少女である。
「いらっしゃいませ。・・・カウンター側のお席に案内いたします」
新たな客が来た事に気が付いたキャスリンが二人を空いているテーブルに案内する。
「ご注文が決まりましたらお呼び下さい」
「いや、頼む料理は決まっている。お嬢さん、私には豆腐チーズケーキ、彼女には豆腐ティラミス。それから蜂蜜入りのホットミルクを二つ頼む」
「豆腐チーズケーキと豆腐ティラミスが一つずつ、蜂蜜入りのホットミルクが二つですね。ご注文承りました」
「「「パパ、ママ!?」」」
何で冥王と冥妃がここに居るの!?
両親が座る席までやって来た三柱が理由を尋ねる。
「それはもちろん、このお店の料理を食べたいからに決まっているじゃない」
当然の事を聞いてくるなんて変な子達ね~と、セルビナが優雅に笑い飛ばす。
「まさかパパとママが料理の為だけに来るなんて思わなかったわ・・・」
「数年前に食べたカボチャのシフォンケーキとカボチャプリン。素朴な甘さでありながら口の中で溶けるように柔らかい食感のデザートも美味しいから気に入っているけど、豆腐って美容と健康にいいのでしょ?気になって仕方がなかったの」
今でも綺麗な私なのに、これ以上綺麗になったら困っちゃうわ♡
「お待たせしました。豆腐チーズケーキと豆腐ティラミス、蜂蜜入りのホットミルクです」
楽しそうにはしゃいでいるセルビナと、そんな妻を微笑ましく見守るクリュノスが座るカウンターの席にキャスリンが、二柱が注文した料理を持ってきた。
「この白いクリームが豆腐なのですよね?でも、牛か山羊の乳で作ったクリームに似ていますわ」
「色々考えずに食べてみようか?」
「そうですわね」
キャスリンが料理とスプーンをテーブルに置いた後、手を合わせた二柱は自分達が注文した料理を食べ始める。
(あら?この白いクリーム・・・牛か山羊の乳で作ったクリームだと思っていたけどチーズだったのね。チーズと比べたら軽い口当たりなのは豆腐とやらを混ぜているからなのね)
豆腐を混ぜた事で甘くて軽い食感をしているチーズ、甘いのに仄かに塩を感じる香ばしい大豆の粉、黒糖の甘さが染みているケーキ
セイリオス達が異世界の料理に夢中になるのも当然だと満面の笑みを浮かべながら、セルビナは豆腐ティラミスを口に運ぶ。
(豆腐チーズケーキとやらはカボチャのシフォンケーキと比べたら食べ応えがある・・・)
滑らかな舌触りの生地、レモンの爽やかさ、砕いたビスケットのサクサクとした食感、ずっしりとしているというのに甘さ控えめである。
これだったら幾つでも食べる事が出来ると思いながら、クリュノスは豆腐チーズケーキを食べ進めていく。
「店長殿、美味であった」
「ありがとうございます」
クリュノスの言葉にレイモンドが頭を下げる。その姿と仕種は正に優雅で気品溢れる貴族のものであった。
「ところで店長殿、豆腐で作った甘味を持ち帰りたいのだが・・・」
「それでしたら・・・」
クリュノスに問われたレイモンドは、豆腐パウンドケーキと豆腐クッキーを勧めると二柱は躊躇う事なくそれ等を買った。
「店長殿、クリュノス様と私はこの店がとても気に入ったの。時間が出来たら食べに来るわね」
「はい。またのお越しをお待ちしております」
そう言ったレイモンドはカフェ・ユグドラシルを出て行く二柱の後ろ姿を見送ってから頭を下げる。
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