カフェ・ユグドラシル

白雪の雫

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58.チーズトースト-1-

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 はぁーーーっ!!!

 模造刀を手にしている黒髪黒目の少年が、何とかという少女漫画に出てきそうな凛々しい女騎士に向けて突進してきた。

 「甘い!」

 幼い頃から騎士になるべく己を鍛錬し戦闘経験がある女騎士にしてみれば、平和な世界で育った少年の剣術など児戯に等しいのだろう。

 彼女が繰り出した剣技の衝撃だけで少年を吹き飛ばしてしまった。

 ・・・かぁ~っ!

 「また負けた!これで二十敗かよ!!」

 「正確に言えば二十戦中二十連敗だ」

 訓練場の石畳の床に倒れて悔しがる少年をからかうかのように女騎士が楽しそうな笑みを浮かべてツッコミを入れる。

 女騎士はシェリルといい軍人の家系であるコバルトグリーン伯爵家の令嬢にして次期当主。対して少年は森本 信也という男子高校生である。いや、男子高校生だったというべきか───。

 信也は聖女召喚のように誰かによってキルシュブリューテ王国に召喚された訳ではない。気が付けばキルシュブリューテ王国にトリップしていたという迷い人である。

 異世界人は保護するというのが近隣諸国の法で定められているので、『何か変わった格好をしている黒髪黒目の少年が市場をうろついている』という報告を受けたキルシュブリューテ王国側は信也を保護する事にした。

 但し、きちんと身体検査をした上でだ。

 もし信也が性病を患っていれば間違いなく彼は有無を言わさず、どこかの一室に監禁されて水銀による治療コース一直線であった。

 他国では自分達にはない知識を持つ異世界人を無条件で保護しているが、キルシュブリューテ王国が身体検査をするようになったのには訳がある。

 邪神・サマエルを倒したと言われているウィスティリア王国の聖女が梅毒に罹っていたからだ。

 先代ロードクロイツ侯爵からこの事を聞いていた事もあるが、事の重大さを理解したディートヘルムは自国を護る為、性病を除く病に罹っている異世界人は監禁して治療、それから保護。健康体であれば保護という方針にしたのである。

 身体検査の結果、健康体だと分かった信也はコバルトグリーン伯爵によって保護される事になった。

 両親が共働きのサラリーマンの家の息子で、何の前触れもなく見知らぬ世界に放り出された信也にとって伯爵家の後ろ盾があるというのは非常に有難い事だ。

 有難い事なのだが───。











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