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57.オークキングの肉とカボチャ-10-
しおりを挟む「これは・・・随分と豪勢なスープじゃな」
人参、ジャガイモ、カボチャだけではなくオークキングの肉が入っている味噌汁にクリストフが思わず声を上げる。
「トンジルって肉と野菜が入っているからかしら?何となくシチューに似ているような気がするわね」
「味噌で煮込んだオークキングの肉がどのような味になっているのか・・・実に楽しみだ」
食事前の祈りを捧げた五人は豚汁ならぬオークキングの肉が入った味噌汁を口に運ぶ。
「肉と脂は柔らかくて甘い。オークキングの脂身の脂がスープに溶け込む事でコクが出ているのじゃな」
「ジャガイモとカボチャはホクホクとしているし、人参も柔らかい」
「優しい風味、心が安らぐ感覚・・・これこそが味噌汁だ」
「オークの肉が普通に食べられる肉だとすれば、オークキングの肉は高級ブランド肉ってレイモンドが言っていたけど・・・本当だったのね」
レイモンドが作る料理って本当に美味しいわ
(俺にとって紗雪の『美味しい』という言葉が一番の誉め言葉だな)
カフェ・ユグドラシルに食べに来た客達から『店長が作る料理は美味い』という言葉を何度も聞いているが、妻の言葉が何より嬉しいとレイモンドは思う。
口に広がるのは豚肉の上位互換とでも言うべきオークキングの肉と脂の柔らかさと甘さ。
野菜の滋味。
仄かに感じるゴマ油の風味。
噛めば噛むほど感じるご飯の甘味と焦げた部分の香ばしさ。
オークとオークキングの肉の違いをはっきりと感じながら、五人は味噌汁とご飯を美しい所作で綺麗に食べていく。
「ん~っ・・・」
「ママはお皿を洗うからレオルくんはレイモンド・・・パパのお膝の上に座っていましょうね」
五人が夕食を摂っている間、赤ちゃん用の椅子に座って遊んでいたレオルナードを抱っこした紗雪は息子をレイモンドの膝の上に座らせると食器が乗っているトレイを持ってキッチンへと向かう。
暫くして
「お待たせしました。デザートのカボチャプリンです」
食器を洗い終えた紗雪が食後のデザートであるカボチャプリンを持って居間へとやって来た。
「カスタードプリンと違ってカボチャの鮮やかな黄色が美しいわ」
「サユキ嬢。カボチャプリンが二つあるのじゃが、何か違いがあるのか?」
「ええ。実は・・・」
どちらもカボチャプリンだが、生クリームが入っているか入っていないかの違いがある事を教える。
二人の料理の腕は確かだという事を知っている三人はスプーンで掬ったカボチャプリンを口に運んだ。
カボチャの優しくて素朴な甘さ、滑らかで舌の上で蕩けるような食感、バニラの甘い香りが口に広がる。
生クリームが入っていないカボチャプリンはさっぱりとした、生クリームが入っているカボチャプリンは濃厚でコクがあるという違いがあるものの、どちらも美味しい事に変わりはないので三人は食べ進めていく。
「儂は生クリームが入っているカボチャプリンの方が好みじゃな」
「私は生クリームが入っていない方が好ましい」
「私はどちらも好きだわ」
ん~っ
ん~っ
「レオルちゃん?」
紗雪が作ったカボチャプリンを堪能していたところに、レイモンドの膝の上に座って遊んでいたレオルナードが自分も食べたいと声を上げる。
「レオルナードはミルクを飲んだばかりでしょ?これ以上食べ過ぎたらポンポンが痛くなっちゃうよ」
「ぇえ!?」
優しい手つきで腹に触れながら語り掛ける母親の言葉を理解したのか、レオルナードは火が点いたように泣き出してしまう。
「レオルナード!?」
「今カボチャプリンを食べたらレオルくんはポンポンを壊してご飯が食べられなくなっちゃうかも知れないよ?だから明日食べましょうね」
「レオルくん!」
自分もカボチャプリンを食べたいと、泣きながら訴えているレオルナードをレイモンドと紗雪が必死になって宥める姿があった。
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