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56.お子様ランチ-9-
しおりを挟む(あれから二十二年が過ぎたのか──・・・)
母親のアデル、妹のトレーシー、そして妻子と共に流れゆく景色を馬車から眺めていたルークはカフェ・ユグドラシルの料理人である兄ちゃんことレイモンドとの約束を思い出していた。
宿屋で休んだ次の日の朝
アデルが操る荷車に乗ってバロニス村に戻っていたルークは誓ったのだ。
カフェ・ユグドラシルの料理を食べられるくらいの金持ちになる
それだけを目標にルークは家族と共に王都でも有名な毛織物工場でがむしゃらに働いた。
二十二年後、ルーク一家は毛織物で財を成すほどの成功を収めたのだ。
今日はその事を記念して、と言えばいいのか───どちらかと言えば今の自分がある切っ掛けになったレイモンドに礼を言いたい事と、子供の頃に貯めたお小遣いで【お子様ランチ】を食べる為にカフェ・ユグドラシルに向かっていた。
「旦那様、着きましたよ」
馬車を停めた馭者がカフェ・ユグドラシルに着いた事をルーク達に告げる。
(あの時と同じだ・・・)
馬車から降りて【Cafe Yggdrasill】の看板を見ている今のルークの心は八歳の頃へと還っていた。
「兄さん・・・」
「ルーク・・・」
(兄ちゃん・・・遅くなりましたが、俺はあの時の約束を果たしに来ました)
ルークはカフェ・ユグドラシルに足を踏み入れる。
「いらっしゃいませ」
ルーク一家を迎えたのは、貴族令嬢と言っても通用する雰囲気を持つ綺麗な顔立ちをしている銀髪の女給仕だった。
「五名様ですね。テーブルに案内いたします」
(彼女・・・黒髪の女性と似ているのに、何となくだけど兄ちゃんに似ているような気もする・・・。もしかして、給仕と兄ちゃんは親子?それとも年の離れた兄妹って奴かな?)
自分達を案内している銀髪の女給仕と、別のテーブルに料理を運んでいる黒髪の女性は、銀髪の女給仕が年を三十歳になったらああいう風になるのだろうと予測できるくらい二人はそっくりなのに、身に纏う雰囲気はレイモンドに似ていた。
それもそのはず。
銀髪の女給仕はレイモンドと紗雪の娘であるレスティーナ。
親子なのだからレスティーナが二人に似ていて当然である。
「お客様、テーブルにあるこの冊子が当店で出せる料理が書いているメニューです」
「ありがとう」
(あら、色んな料理があるのね・・・)
レスティーナからメニューを受け取って目を通したルークの妻であるジェニファーが選んだのは、キャベツとベーコンのクリームパスタだった。
「ママさん、注文を頼む」
料理を食べ切った皿と器をトレイに乗せてカウンターへと向かう紗雪にルークが声を掛ける。
「お待たせいたしました。お客様、ご注文はお決まりでしょうか?」
「キャベツとベーコンのクリームパスタを一つ。それから、お子様ランチを三つ・・・いや、四つ頼む」
「ご注文承りました」
注文を受けた紗雪はレイモンドと息子達が居る厨房へと向かう。
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