カフェ・ユグドラシル

白雪の雫

文字の大きさ
上 下
271 / 454

56.お子様ランチ-9-

しおりを挟む










 (あれから二十二年が過ぎたのか──・・・)

 母親のアデル、妹のトレーシー、そして妻子と共に流れゆく景色を馬車から眺めていたルークはカフェ・ユグドラシルの料理人である兄ちゃんことレイモンドとの約束を思い出していた。

 宿屋で休んだ次の日の朝

 アデルが操る荷車に乗ってバロニス村に戻っていたルークは誓ったのだ。





 カフェ・ユグドラシルの料理を食べられるくらいの金持ちになる





 それだけを目標にルークは家族と共に王都でも有名な毛織物工場でがむしゃらに働いた。

 二十二年後、ルーク一家は毛織物で財を成すほどの成功を収めたのだ。

 今日はその事を記念して、と言えばいいのか───どちらかと言えば今の自分がある切っ掛けになったレイモンドに礼を言いたい事と、子供の頃に貯めたお小遣いで【お子様ランチ】を食べる為にカフェ・ユグドラシルに向かっていた。

 「旦那様、着きましたよ」

 馬車を停めた馭者がカフェ・ユグドラシルに着いた事をルーク達に告げる。

 (あの時と同じだ・・・)

 馬車から降りて【Cafe Yggdrasill】の看板を見ている今のルークの心は八歳の頃へと還っていた。

 「兄さん・・・」

 「ルーク・・・」

 (兄ちゃん・・・遅くなりましたが、俺はあの時の約束を果たしに来ました)

 ルークはカフェ・ユグドラシルに足を踏み入れる。





 「いらっしゃいませ」

 ルーク一家を迎えたのは、貴族令嬢と言っても通用する雰囲気を持つ綺麗な顔立ちをしている銀髪の女給仕だった。

 「五名様ですね。テーブルに案内いたします」

 (彼女・・・黒髪の女性と似ているのに、何となくだけど兄ちゃんに似ているような気もする・・・。もしかして、給仕と兄ちゃんは親子?それとも年の離れた兄妹って奴かな?)

 自分達を案内している銀髪の女給仕と、別のテーブルに料理を運んでいる黒髪の女性は、銀髪の女給仕が年を三十歳になったらああいう風になるのだろうと予測できるくらい二人はそっくりなのに、身に纏う雰囲気はレイモンドに似ていた。

 それもそのはず。

 銀髪の女給仕はレイモンドと紗雪の娘であるレスティーナ。

 親子なのだからレスティーナが二人に似ていて当然である。

 「お客様、テーブルにあるこの冊子が当店で出せる料理が書いているメニューです」

 「ありがとう」

 (あら、色んな料理があるのね・・・)

 レスティーナからメニューを受け取って目を通したルークの妻であるジェニファーが選んだのは、キャベツとベーコンのクリームパスタだった。

 「ママさん、注文を頼む」

 料理を食べ切った皿と器をトレイに乗せてカウンターへと向かう紗雪にルークが声を掛ける。

 「お待たせいたしました。お客様、ご注文はお決まりでしょうか?」

 「キャベツとベーコンのクリームパスタを一つ。それから、お子様ランチを三つ・・・いや、四つ頼む」

 「ご注文承りました」

 注文を受けた紗雪はレイモンドと息子達が居る厨房へと向かう。










しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

聖女のおまけです。

三月べに
恋愛
【令嬢はまったりをご所望。とクロスオーバーします。】  異世界に行きたい願いが叶った。それは夢にも思わない形で。  花奈(はな)は聖女として召喚された美少女の巻き添えになった。念願の願いが叶った花奈は、おまけでも気にしなかった。巻き添えの代償で真っ白な容姿になってしまったせいで周囲には気の毒で儚げな女性と認識されたが、花奈は元気溌剌だった!

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

【完結】聖女の私を処刑できると思いました?ふふ、残念でした♪

鈴菜
恋愛
あらゆる傷と病を癒やし、呪いを祓う能力を持つリュミエラは聖女として崇められ、来年の春には第一王子と結婚する筈だった。 「偽聖女リュミエラ、お前を処刑する!」 だが、そんな未来は突然崩壊する。王子が真実の愛に目覚め、リュミエラは聖女の力を失い、代わりに妹が真の聖女として現れたのだ。 濡れ衣を着せられ、あれよあれよと処刑台に立たされたリュミエラは絶対絶命かに思われたが… 「残念でした♪処刑なんてされてあげません。」

【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。

西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ? なぜです、お父様? 彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。 「じゃあ、家を出ていきます」

【完結】婚約者は偽者でした!傷物令嬢は自分で商売始めます

やまぐちこはる
恋愛
※タイトルの漢字の誤りに気づき、訂正しています。偽物→偽者 ■□■ シーズン公爵家のカーラは王家の血を引く美しい令嬢だ。金の髪と明るい海のような青い瞳。 いわくつきの婚約者ノーラン・ローリスとは、四年もの間一度も会ったことがなかったが、不信に思った国王に城で面会させられる。 そのノーランには大きな秘密があった。 設定緩め・・、長めのお話です。

聖女に巻き込まれた、愛されなかった彼女の話

下菊みこと
恋愛
転生聖女に嵌められた現地主人公が幸せになるだけ。 主人公は誰にも愛されなかった。そんな彼女が幸せになるためには過去彼女を愛さなかった人々への制裁が必要なのである。 小説家になろう様でも投稿しています。

異世界召喚された巫女は異世界と引き換えに日本に帰還する

白雪の雫
ファンタジー
何となく思い付いた話なので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合展開です。 聖女として召喚された巫女にして退魔師なヒロインが、今回の召喚に関わった人間を除いた命を使って元の世界へと戻る話です。

処理中です...