カフェ・ユグドラシル

白雪の雫

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55.トマトのパンナコッタ-11-

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 「いらっしゃいませ」

 「お待ちしておりました。セバスティアンさん、ヴェルネージュさん」

 「んだんだ!」

 メアリアに案内されてカフェ・ユグドラシルまでやって来た吸血鬼と狼男を、レイモンドとレオルナードをおんぶしている紗雪が出迎える。

 「女将、トマトで作ったデザートの前にランチを頼む。そうだな・・・今日は鶏のむね肉が入ったパエリアを食べたい」

 「俺はベーコンのパエリアで」

 「鶏むね肉のパエリアとベーコンのパエリアをそれぞれ一皿ずつ。ご注文承りました」

 注文を受けた紗雪はレイモンドが居る厨房へと向かう。





 待つ事暫く

 「お待たせいたしました。鶏むね肉のパエリアとベーコンのパエリアです」

 レイモンドが作ったパエリアを二人の前に置いていく。

 「カフェ・ユグドラシルのシェフが作った料理は、どれも美味いんだよな」

 肉の旨味を吸った、少し芯を感じて焦げている部分が香ばしく食べ応えのある米料理。

 セバスティアンとヴェルネージュは、サフランで米が黄色くなっているパエリアを綺麗に平らげていく。

 「セバスティアンさん、ヴェルネージュさん。皿をお下げしてもよろしいでしょうか?」

 「ああ、頼む」

 「このお皿を下げましたらトマトで作ったデザートをお持ちしますので少々お待ち下さい」

 「殿下、トマトで作ったデザートってどんなものだと思います?」

 「この店のシェフの事だから、砂糖か蜂蜜を塗したトマトをそのまま出さないと思うが・・・」

 営業スマイルを浮かべてそう言った紗雪がトレイにパエリアの皿を乗せて厨房へと向かっていく姿を見送りながらセバスティアンとヴェルネージュは、デザートについて語り合っていた。

 「おまたせいたしました。トマトゼリーと、トマトのパンナコッタです」

 紗雪がセバスティアンとヴェルネージュの前に置いたのは、ワイングラスを思わせる器だった。

 一つは透明なスライム(?)の中に見える小さく刻まれた鮮やかなトマトの赤。

 一つはミルク色のスライム(?)の上にかかった鮮やかで赤いトマトのジャム。

 彼等にとって本日のメインとでも言うべきトマトを使ったデザートだ。

 「これは・・・どちらも美しいデザートだな」

 「陛下と王妃様も気に入るかも知れないですね」

 自分達が信仰する神に食事前の祈りを捧げた二人は、レイモンドが作ったトマトゼリーを食べ始める。

 「このスライム・・・いや、ゼリーでしたっけ?これだけだと何となく味気ないように感じますけど」

 「小さく切ったトマトと一緒に食べるとレモンの爽やかな酸味と蜂蜜の甘さを感じるな」

 甘酸っぱいトマトのゼリーは、今日のように暑い日のデザートにぴったりだと思いながら二人は食べ進めていく。

 「もう一つは・・・牛の乳か?いや、山羊の乳?癖がないから牛の乳だな。乳で作ったゼリーにトマトのソースをかけているのか?」

 先程食べたゼリーはトマトがメインだったが、次に食べるデザートはトマトが添え物という感じだ。

 「殿下、まずは食べてみましょう」

 ヴェルネージュの言葉に従い、セバスティアンはトマトのパンナコッタをスプーンで掬うと口に運んだ。

 「これは・・・トマトのソースではなくジャムなのだな」

 「乳で作ったゼリー・・・牛の乳で作ったパンナコッタとやらはバニラの香りがして甘くて濃厚ですね。これだけでも十分に美味しいですよ」

 濃厚な乳の味と食感が滑らかなパンナコッタだけでも美味しいのに、ジャムと一緒に食べるとトマトの甘酸っぱさとパンナコッタの甘さが一つになり口の中でハーモニーを奏でる。

 「殿下。トマトを使ったデザート、どちらも美味しかったですね」

 「ああ」

 二つのデザートを食べ切ったセバスティアンとヴェルネージュの顔には満面の笑みが浮かんでいた。

 「女将、忙しいところ恐縮だがシェフを呼んでくれないか?」

 他のテーブルに料理を運んでいた紗雪にセバスティアンが声を掛ける。

 「はい。少々お待ち下さい」

 料理を注文した客が座るテーブルに置いた紗雪はレイモンドを呼びに厨房へと向かった。

 「お客様、お呼びでしょうか?」

 「忙しい時に呼び出して済まない。私はただシェフにトマトのデザートを作ってくれた礼と、デザートが美味であった事を言いたかったのだ」

 「お褒めにあずかり光栄に存じます」

 他国の、それも吸血鬼の王子に褒められたレイモンドは頭を下げる。

 「シェフ、女将。私はパスタとパエリアもだが、特にトマトのパンナコッタが気に入った。時間が出来たらこの店に来るから・・・その時はまたトマトのパンナコッタを作って貰えないだろうか?」

 今回は自分の希望でトマトを使ったデザートを作っただけだ。

 正式なメニューではない料理を作って貰えるかどうか分からないのでセバスティアンはレイモンドと紗雪に頼み込む。

 「女給達の反応が良かったらアイスクリームのように夏季限定のメニューとして追加しますよ。紗雪、それでいいか?」

 「ええ。当店の・・・レイモンドが作った料理を気に入ってくれたのですもの」

 「シェフ、女将。感謝する!」

 パエリアの代金とは別に今回の謝礼を払ったセバスティアンとヴェルネージュは店を出て行くのだった。












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