250 / 451
54.聖女との対決-おまけ-
しおりを挟む聖女を自称する茉莉花はエドワードとギルバードと共に離宮で梅毒の治療に専念している。
治療といってもエリクサーや万能薬を飲ませたり、栄養のある食事を摂らせたり、明るくて風通しが良く清潔な部屋で過ごさせるという事など一切していない。
現に三人は蜘蛛の巣が張っている、粗末なベッドしかない薄暗い部屋で過ごし、決まった時間になると侍女が運んでくる不味い料理を食べ、梅毒の治療薬として水銀を飲んだり身体に塗布する。そして寝る。
それが三人の・・・正確に言えばエドワードとギルバードの離宮での一日だ。
そう。
三人は静養という名の下に離宮に幽閉、隔離されているのだ。要するに彼等は国王夫妻と貴族達に捨てられたのである。
「何で王太子である自分がこんな事をしないといけないのだ!?」
「何故、伯爵家の跡取りである私が!下賤の者がする事を自分でする日が来るとは!!」
「スープに肉が入っていない!野菜の切れ端しか入っていないのはどういう事だ!?」
「味が薄すぎる!今すぐ香辛料を入れたスープを用意しろ!!」
「黒パンなど貧乏人が食べるパンではないか!!」
「今すぐ柔らかい白パンを持ってこぬか!!」
「私は身体を洗いたい!今すぐ湯浴みの用意をするのだ!」
「あんなベッドではゆっくりと休めぬ!王太子である私に相応しいベッドを用意せぬか!!」
邪神・サマエル討伐の時はラルクとカーラに身の周りの世話をさせていたので何も問題がなかった。
高貴な者の身の周りの事はメイドと侍女がするというのがエドワードとギルバードの中では常識なのだ。
侍女とメイドの真似事など高貴な者がやるべき事ではない!
次期国王、伯爵家の次期当主にして次期近衛騎士団長にある立場というプライドがあるからなのか、エドワードとギルバードは決して自分で身の周りの事はしなかった。
結果、頭は痒くて髪はボサボサ。服は臭く、ところどころ黄ばんでいる。
自分達が既に廃嫡されている事など知らないエドワードとギルバードは、紗雪によって無理やり目覚めさせられた霊感で見聞きできるようになってしまった事で過去の王位争いに敗れて無念の死を遂げた元王族の怨念の籠った声と姿に怯え、料理を運んでくる侍女を通して王宮或いは邸に居た頃と同じ待遇を要求する日々を送る破目になる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そして、全ての元凶である茉莉花はというと───。
「い、いやあっ!あたしの鼻が!!」
「篁さん!あたしに抱き着いている子供の幽霊を追っ払ってよ!!」
「篁さん!あたしの鼻が落ちてしまったの!今すぐエリクサーと万能薬を持って来て!!」
「これは聖女の命令なんだから!あたしの命令に逆らったらエドワードとギルバードがあんたを処刑台に送るんだから聞いておいた方が身の為よ!!」
「あんた!あたしの侍女なんだから今すぐ篁さんにここまで来るように言ってよ!!」
「イヒヒヒヒヒヒ・・・」
病の進行と、エドワードとギルバードと同様に無理やり目覚めてしまった霊感が原因で、離宮を彷徨っている幽霊が見えるようになってしまった茉莉花の精神は完全に錯乱してしまっており、虚ろな瞳でどこかを見つめ狂った笑い声を上げている彼女の口端からは幾筋もの涎を垂らしていた。
11
お気に入りに追加
411
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
聖女の姉が行方不明になりました
蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。
【完結】薔薇の花をあなたに贈ります
彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。
目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。
ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。
たが、それに違和感を抱くようになる。
ロベルト殿下視点がおもになります。
前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!!
11話完結です。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
私は聖女(ヒロイン)のおまけ
音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女
100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女
しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。
何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は
だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。
私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。
そのまま卒業と思いきや…?
「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑)
全10話+エピローグとなります。
【完結】聖女が性格良いと誰が決めたの?
仲村 嘉高
ファンタジー
子供の頃から、出来の良い姉と可愛い妹ばかりを優遇していた両親。
そしてそれを当たり前だと、主人公を蔑んでいた姉と妹。
「出来の悪い妹で恥ずかしい」
「姉だと知られたくないから、外では声を掛けないで」
そう言ってましたよね?
ある日、聖王国に神のお告げがあった。
この世界のどこかに聖女が誕生していたと。
「うちの娘のどちらかに違いない」
喜ぶ両親と姉妹。
しかし教会へ行くと、両親や姉妹の予想と違い、聖女だと選ばれたのは「出来損ない」の次女で……。
因果応報なお話(笑)
今回は、一人称です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる