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54.聖女との対決-おまけ-
しおりを挟む聖女を自称する茉莉花はエドワードとギルバードと共に離宮で梅毒の治療に専念している。
治療といってもエリクサーや万能薬を飲ませたり、栄養のある食事を摂らせたり、明るくて風通しが良く清潔な部屋で過ごさせるという事など一切していない。
現に三人は蜘蛛の巣が張っている、粗末なベッドしかない薄暗い部屋で過ごし、決まった時間になると侍女が運んでくる不味い料理を食べ、梅毒の治療薬として水銀を飲んだり身体に塗布する。そして寝る。
それが三人の・・・正確に言えばエドワードとギルバードの離宮での一日だ。
そう。
三人は静養という名の下に離宮に幽閉、隔離されているのだ。要するに彼等は国王夫妻と貴族達に捨てられたのである。
「何で王太子である自分がこんな事をしないといけないのだ!?」
「何故、伯爵家の跡取りである私が!下賤の者がする事を自分でする日が来るとは!!」
「スープに肉が入っていない!野菜の切れ端しか入っていないのはどういう事だ!?」
「味が薄すぎる!今すぐ香辛料を入れたスープを用意しろ!!」
「黒パンなど貧乏人が食べるパンではないか!!」
「今すぐ柔らかい白パンを持ってこぬか!!」
「私は身体を洗いたい!今すぐ湯浴みの用意をするのだ!」
「あんなベッドではゆっくりと休めぬ!王太子である私に相応しいベッドを用意せぬか!!」
邪神・サマエル討伐の時はラルクとカーラに身の周りの世話をさせていたので何も問題がなかった。
高貴な者の身の周りの事はメイドと侍女がするというのがエドワードとギルバードの中では常識なのだ。
侍女とメイドの真似事など高貴な者がやるべき事ではない!
次期国王、伯爵家の次期当主にして次期近衛騎士団長にある立場というプライドがあるからなのか、エドワードとギルバードは決して自分で身の周りの事はしなかった。
結果、頭は痒くて髪はボサボサ。服は臭く、ところどころ黄ばんでいる。
自分達が既に廃嫡されている事など知らないエドワードとギルバードは、紗雪によって無理やり目覚めさせられた霊感で見聞きできるようになってしまった事で過去の王位争いに敗れて無念の死を遂げた元王族の怨念の籠った声と姿に怯え、料理を運んでくる侍女を通して王宮或いは邸に居た頃と同じ待遇を要求する日々を送る破目になる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そして、全ての元凶である茉莉花はというと───。
「い、いやあっ!あたしの鼻が!!」
「篁さん!あたしに抱き着いている子供の幽霊を追っ払ってよ!!」
「篁さん!あたしの鼻が落ちてしまったの!今すぐエリクサーと万能薬を持って来て!!」
「これは聖女の命令なんだから!あたしの命令に逆らったらエドワードとギルバードがあんたを処刑台に送るんだから聞いておいた方が身の為よ!!」
「あんた!あたしの侍女なんだから今すぐ篁さんにここまで来るように言ってよ!!」
「イヒヒヒヒヒヒ・・・」
病の進行と、エドワードとギルバードと同様に無理やり目覚めてしまった霊感が原因で、離宮を彷徨っている幽霊が見えるようになってしまった茉莉花の精神は完全に錯乱してしまっており、虚ろな瞳でどこかを見つめ狂った笑い声を上げている彼女の口端からは幾筋もの涎を垂らしていた。
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