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54.聖女との対決-8-
しおりを挟むこの阿婆擦れ、何を抜かしてやがんだ?
茉莉花の演技を見抜いたレイモンド達とウィスティリア王国の国王夫妻と貴族達は心を一つにしてそう思った。
「それでは・・・エドワード王太子殿下、ギルバード殿。聖女様の腰の辺りを見て頂ければ私の言葉が真実であるという事を分かって頂けるかと思いますわ」
異世界人でありながら魔法が一切使えない無能の癖に、元婚約者だった女達と同じ雰囲気を持つ女の言葉に従うのは癪だが、紗雪が言っている事が真実かどうかを知りたいという思いも確か。
あの可愛い茉莉花の初めての男は自分達なのだ
茉莉花は誰にでも足を開く阿婆擦れではない
意を決したエドワードとギルバードが茉莉花の腰に目を向ける。
「「ぎゃっ!!」」
茉莉花の腰に抱き着いている水子と目が合ってしまったエドワードとギルバードが濁声な悲鳴を上げて抱き合った。
「エ、エドワード?ギルバード?どうしたの?」
自分を見るなりいきなり悲鳴を上げたエドワードとギルバードを茉莉花は不思議そうに見つめる。
「マ、マリカ・・・貴女には、自分の腰に赤子の霊が居るのが見えないのですか?!」
「えっ?」
ギルバードの言葉が気になった茉莉花は自分の腰に目を向ける。
すると───
「ぎゃっ!!」
自分の腰に抱き着きながら泣いている赤子の存在に気が付いた茉莉花が濁声の悲鳴を上げながら紗雪に抱き着こうとするのだが、巫女にして退魔師はさりげなく避ける。
「た、篁さん!あんたは退魔師よね!?だったら、これを祓ってよ!今すぐに!!」
「聖女様?邪神討伐の折、私は荷物持ちしか出来なかった・・・それこそエドワード王太子殿下とギルバード殿が仰るように、魔法が一切使えない無能な異世界人。そんな私が・・・殿方と楽しめないから邪魔という理由だけで聖女様が堕ろした赤子を祓えると?」
聖女様も随分と口が上手くなったものだと、紗雪が貴族令嬢に相応しい優雅さを漂わせながら声を上げて笑った。
その声は聞く者にとって心地よく透き通った声なのに、今の茉莉花達にとって何か得体の知れない怖さを感じさせるものだった。
「聖女様。殿方と遊ぶ為に堕ろした赤子を成仏させたいのであれば、母君である聖女様が心から赤子の為に祈ればよろしいのです」
「そ、そんな!聖女であるあたしが命令してるんだから、今すぐこの化け物を取っ払ってよ!!」
「例え貴女が救国の英雄であっても所詮は平民、しかも何の後ろ盾もない。その聖女様が貴族令嬢である私に対してそのような口を叩くなど、本来であれば罰せられてもおかしくないのですよ?」
紗雪の言う通り、平民が貴族に命令するなど有り得ない事だ。
「尤も・・・聖女様と、聖女様と既に交合しているエドワード王太子殿下とギルバード殿は人間の言葉を解しない猿ですので、此度の事に関して私は一切咎めませんわ」
ウィスティリア王国の貴族達から───正確に言えば茉莉花付きの侍女だった令嬢とその親から小さな笑い声が、無知な平民に慈悲の心を見せるのも貴族の務めだと、紗雪の言葉に追従するかのように、聖女と、あのような女に夢中になっているエドワードとギルバードを蔑む声が上がる。
「もう二度と、貴女達とは顔を合わせる事はないでしょう・・・」
茉莉花達に向けてそう言った紗雪は玉座に腰を下ろしている国王夫妻にカーテシーをすると踵を返す。
「このような場所に居ては気分が悪くなるだけです。紗雪嬢、帰るといたしましょう・・・」
「はい、レイモンド様・・・」
自分に向けて差し出されたレイモンドの手を取った紗雪は振り返る事なく謁見の間を出て行く。
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