211 / 454
㊽米粉のクッキーとラングドシャ-2-
しおりを挟むロードクロイツ邸へと戻るなり、二人はクリストフから依頼されていた米を使った菓子作りに取り掛かっていた。
パンは作った事がないので一先ず保留。菓子で成功したら作る予定だ。
ちなみに・・・今回はロードクロイツの名物や店の商品として売り出す為ではなく、純粋にクリストフの為である。
「まずは米粉でクッキーを作ってみるか」
レイモンドの一言で米粉を使ったクッキー作りが始まる。
冷蔵ボックスから取り出したバターを戻している間、紗雪はクッキーを作る為に必要な調理器具と食材───ボウルに麺棒、木ヘラと泡立て器、清潔な布巾、クリストフが持ってきた米粉と砂糖、人々を魅了せずにはいられない甘い香りのバニラエッセンス、卵を卵黄と卵白に分けたりと準備を始める。
ロードクロイツ家には高位貴族の人達が訪れる事があるので、料理人達は彼等に出すケーキやクッキー、タルトといったスイーツを作れる。
但し、それ等の菓子は小麦粉で作ったものだ。
米粉という異世界では当たり前に存在している粉で作るスイーツに興味を持った料理人達は、紗雪とレイモンドがどうやって作るのかを学ぶ意味で見る事にした。
暫くすると冷蔵ボックスから取り出したバターが柔らかくなっていた。
レイモンドが柔らかくなったバターと砂糖をボウルに入れると、それ等を泡立て器で混ぜた後、紗雪が分けておいた卵黄とバニラエッセンスを加えて更に混ぜ合わせていく。
そんな時、レイモンドはある事を思い付いた。
「紗雪、俺の代わりに生地を作ってくれないか?」
「え、ええ・・・?」
レイモンドからバターと卵黄を混ぜたものが入っているボウルを受け取った紗雪は、そこに米粉を加えて木へらで混ぜた後、生地を棒状に伸ばす。
その間、レイモンドは残っている卵白を泡立て器で泡立て、新たにクッキー生地を作っていく。
レイモンドが思いついたのは、卵白を使った米粉のクッキーを作る事だった。
(卵白でクッキー・・・?確かラングドシャというクッキーが作れたような・・・?もしかして、ラングドシャを作ろうとしているの!?)
自分が教えていないスイーツを作ろうとしているレイモンドに感心しながら、紗雪は清潔な布巾で包んだクッキー生地を冷蔵ボックスに入れて寝かせる。
レイモンドが卵白を使ったクッキー・・・ラングドシャの生地を作っている間に紗雪はクッキーを焼く為にオーブンを温めていた。
(んっ?何か思っていたものと違うような?)
米粉と卵黄で作った生地はちゃんと固まっているのに、米粉と卵白で作った生地は固まっていない感じと言えばいいのか、柔らかいクリーム状みたいなのだ。
「紗雪・・・済まない」
「レイモンド、どうしたの?」
「・・・・・・卵白を使ったクッキーだが、どうやら失敗したみたいだ」
初めて作る料理だから失敗して当然なのだが、食材を無駄にしてしまったという事実にレイモンドの顔は青くなっていた。
「だ、大丈夫よ、レイモンド!これでラングドシャというクッキーが作れるの!」
自分自身がラングドシャを作った事がなかったし、作り方を教えなかった自分が悪いのだと紗雪がレイモンドに謝る。
「ラングドシャ?」
製菓用の小麦粉、バター、砂糖、卵白で作った生地を薄く伸ばして焼いたクッキーで、表面がざらついており軽い口当たりをしているのだと教える。
「レイモンドのおかげで二種類のクッキーを作る事が出来るわ」
「・・・生地が薄いクッキーがどのようなものなのか想像出来ないが、楽しみだな」
そう言ったレイモンドは卵白で作った生地を休ませる。その間に紗雪はラングドシャを作る為のオーブンを温める事にした。
2
お気に入りに追加
422
あなたにおすすめの小説
聖女のおまけです。
三月べに
恋愛
【令嬢はまったりをご所望。とクロスオーバーします。】
異世界に行きたい願いが叶った。それは夢にも思わない形で。
花奈(はな)は聖女として召喚された美少女の巻き添えになった。念願の願いが叶った花奈は、おまけでも気にしなかった。巻き添えの代償で真っ白な容姿になってしまったせいで周囲には気の毒で儚げな女性と認識されたが、花奈は元気溌剌だった!
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です
しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。
【完結】婚約者は偽者でした!傷物令嬢は自分で商売始めます
やまぐちこはる
恋愛
※タイトルの漢字の誤りに気づき、訂正しています。偽物→偽者
■□■
シーズン公爵家のカーラは王家の血を引く美しい令嬢だ。金の髪と明るい海のような青い瞳。
いわくつきの婚約者ノーラン・ローリスとは、四年もの間一度も会ったことがなかったが、不信に思った国王に城で面会させられる。
そのノーランには大きな秘密があった。
設定緩め・・、長めのお話です。
【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。
西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ?
なぜです、お父様?
彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。
「じゃあ、家を出ていきます」
踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
【完結】聖女の私を処刑できると思いました?ふふ、残念でした♪
鈴菜
恋愛
あらゆる傷と病を癒やし、呪いを祓う能力を持つリュミエラは聖女として崇められ、来年の春には第一王子と結婚する筈だった。
「偽聖女リュミエラ、お前を処刑する!」
だが、そんな未来は突然崩壊する。王子が真実の愛に目覚め、リュミエラは聖女の力を失い、代わりに妹が真の聖女として現れたのだ。
濡れ衣を着せられ、あれよあれよと処刑台に立たされたリュミエラは絶対絶命かに思われたが…
「残念でした♪処刑なんてされてあげません。」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる