カフェ・ユグドラシル

白雪の雫

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㊺チョコレートソース-1-

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 話は紗雪達がベルンハルトの自宅兼工房へと向かう前まで遡る。

 「生クリームを作る魔道具の話はそれくらいにして、妾の国では王族と貴族しか口に出来ぬショコラをお主達に馳走しようではないか」

 レイモンド殿、白・・・サユキ嬢、ショコラ作りを手伝ってくれぬか?

 紗雪にとっては見慣れているが作った事がない、レイモンドにとっては初めて口にするショコラに興味津々な二人はソフィーと共に厨房へと向かう。










◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆










 焼いたカカオという豆の皮を剥いて擂り潰して出来た粉に水を溶かした飲み物がショコラである。

 「このままだと苦いから砂糖や蜂蜜を加えて甘くした上で、香り付けとしてバニラを使っているな」

 レイモンドと紗雪に手伝って貰った・・・と言ってもキルシュブリューテ王国に行く前に擂り潰していたカカオ豆を収納腕輪に入れていたものであるが、それに白湯を注いだ茶色の液体をランスロット達は興味津々と見つめている。

 「飲んでみてくれぬか?」

 神よ、あなたの慈しみに感謝してこの糧をいただきます

 祈りを捧げた後、一同はショコラが注がれたカップを口に付ける。

 「初めて嗅ぐけどいい香り・・・」

 (あれ?意外と飲みやすい口当たりをしている?コーヒーミル?フードプロセッサー?のような魔道具で擂り潰したのかしら?)

 プルメリア島のショコラは、十六~十七世紀辺りのショコラドリンクのように擂粉木棒とかでカカオ豆を擂り潰して舌触りが砂のようにザラザラしているのだろうと思っていたのだが、考えてみればソフィーは魔法に長けているダークエルフでありプルメリア島を治めているクリストフの王妃だ。

 当然、魔法と魔道具に関しては知識と技術は人間より上なので、元の世界の中世から近代と比べたら進んでいてもおかしくない。

 但し、プルメリア島で飲まれているショコラドリンクは紗雪が知っている日本のものと比べると苦いけど。

 「ソフィー王妃様。お聞きしてもよろしいでしょうか?」

 自分が住んでいた世界のショコラは甘いだけではなく、ほろ苦さも感じる食べ物だ。

 昔は皇帝といった特別な立場にある者しか口に出来ない薬であったが、現在は牛乳や豆乳に混ぜて飲んだり、パンに塗ったり、デザートとして食したりしている。

 要するに嗜好品としての面が強い。

 プルメリア島においてショコラは王族や貴族しか飲めないものだと聞いているが、それは嗜好品としてなのだろうか?

 気になった紗雪はソフィーに尋ねる事にした。

 「そうじゃな~。白ち「「ソフィー王妃?「!・・・サユキ嬢が住んでいた世界とは違ってショコラは嗜好品ではなく、薬や滋養強壮といった意味合いが強いな!」

 紗雪の事を白鳥処女の末裔と呼びそうになってしまった事でレイモンドとアルバートに睨まれてしまったソフィーは慌てて言い直す。

 「サユキ嬢。キルシュブリューテ王国に戻る際、チョコレートソースを作ると言っておったな?」

 妾はチョコレートソースとやらを使ったデザートを口にしてみたいのじゃ!

 「今からソースを作るとなれば完成するのが・・・」

 「今宵か明日の朝になると言うのじゃな?」

 「いえ。三日はかかるかと」

 ソフィーの言葉を紗雪が否定する。

 「三日!?チョコレートソースを作るのに三日もかかるのか!?」

 「はい」

 水が綺麗になるまでカカオ豆を洗うだけではなく、焙煎した豆の皮を剥いた後は擂り潰して粉にしないといけない。

 粉にした後はコンチングという粉にしたショコラを練る作業を七十二時間・・・三日くらいやらないと口に入れた時に滑らかな舌触りにならないのだと紗雪がソフィーに話す。

 ここまでの作業が手間暇かかる事を知っているソフィーは、自分が持っている粉を使って作ればいいと紗雪に提案した。

 「よろしいのですか?」

 「もちろんじゃ。その代わり・・・」

 「分かっております」

 チョコレートソースを使ったデザートを食べさせる事を約束した紗雪は、早速チョコレートソース作りに取り掛かる。










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