カフェ・ユグドラシル

白雪の雫

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㊹ミルクセパレーター-13-

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 「私としては落ち着いてから作ってくれると思っていたのだけど・・・」

 今回の事は自分にも責任があるものだから、紗雪はまともに睡眠を取っていないベルンハルトの身を案じる。

 「紗雪、昔からベルンハルト兄上は一つの事に夢中になると寝食を忘れるんだ」

 その度に自分とグスタフが強制的に眠らせていたのだと、レイモンドがどこか遠い目をして過去を語る。

 「ねぇ、レイモンド。ベルンハルト様ってレイモンドのお兄様だから二十四歳以上という事よね?奥様はいらっしゃらないの?」

 キルシュブリューテ王国は晩婚化が進んでいると言っていたが、それでも日本と比べたら結婚する年齢が早い。
工房で働いている少女───といっても十八歳なので成人女性という表現が相応しいのかも知れない。彼女以外に女性の姿がない事に疑問を抱いた紗雪がレイモンドに尋ねる。

 「・・・・・・詳しい事はいずれ話すが、今のベルンハルト兄上は独身だ」

 (あんな阿婆擦れを義姉上と呼んでいた事が俺の人生の汚点だな)

 (奥さんだった女性の実家である公爵家と情夫の実家である伯爵家を、ロードクロイツ家の力で社会的に抹殺したのね)





 ベルンハルト本人だけではなく両親であるロードクロイツ侯爵夫妻が乗り気でなかったにも関わらず、歴史はあるが貧困に喘ぐ公爵夫妻に頭を下げられた事で仕方なく結婚を承諾してしまった事

 理由は何であれ夫婦になったのだからベルンハルトは彼女に歩み寄ったのだが、妻になった女性はチャラ男な伯爵子息に夢中になっていた事

 元奥さん自身にベルンハルトが公爵家に援助していた生活費に遊興費、前に住んでいた自宅兼工房の買取費用と引っ越し費用、今住んでいる自宅兼工房の購入費用、伯爵子息に貢いだ金を一括で返させる為に月十五パーセントの利息が付く金貸し業者に借金させた事

 ベルンハルトに払う慰謝料の為に、情夫の実家である伯爵家と元妻の実家である公爵家の財産を取り上げた上で彼等の人生を台無しにしてやった事





 (公爵家と伯爵家・・・浮気の代償が高くついたわね)

 レイモンドの兄が独身である理由を霊視で知った紗雪だが、この件に関してはレイモンドが話すと言っていたので時が来るまで待てばいいとして、問題はベルンハルトをどうやって休ませるかである。

 「ミートミンサーやフードプロセッサーとかを作って欲しいと言えば休んでくれるかしら?」

 「・・・・・・道具もだが、アイスクリームのように再現した異世界の料理を食べて欲しいと言えば休んでくれるような気がする」

 その辺りで攻めてみるかと呟いたレイモンドはベルンハルトが籠っている部屋へと足を踏み入れた。





 ベルンハルトには色々な調理器具を作って欲しい

 だが、ミルクセパレーターを作る為に徹夜をして寝不足になって身体を壊してしまったら本末転倒だと言ったレイモンドに対し、これは物作りとしての性なのだとベルンハルトは宣う。

 「ベルンハルト兄上。連日連夜の徹夜で身体を壊した結果、俺と紗雪が作る異世界の料理を食べられなくなってもよろしいので?」

 キルシュブリューテ王国やウィスティリア王国には傷を治すポーション、どんな病も治す万能薬というものが存在する。

 但し、万能薬は非常に高価なので貧しい貴族と平民にしてみれば手の届かない代物であったりする。

 魔道具の製作者として大金を稼いでいるベルンハルトでれば万能薬を買う事が出来るのだが、薬の過剰摂取は身体にとって毒になるのだ。

 「・・・・・・・・・・・・分かった。異世界の道具を作れなくなるのは魔道具の製作者として、何より二人が作る異世界の料理が食べられなくなるのは人間として辛いものがある」

 弟の言葉に心が動かされたベルンハルトは休む事にするのだった。











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