193 / 451
㊹ミルクセパレーター-13-
しおりを挟む「私としては落ち着いてから作ってくれると思っていたのだけど・・・」
今回の事は自分にも責任があるものだから、紗雪はまともに睡眠を取っていないベルンハルトの身を案じる。
「紗雪、昔からベルンハルト兄上は一つの事に夢中になると寝食を忘れるんだ」
その度に自分とグスタフが強制的に眠らせていたのだと、レイモンドがどこか遠い目をして過去を語る。
「ねぇ、レイモンド。ベルンハルト様ってレイモンドのお兄様だから二十四歳以上という事よね?奥様はいらっしゃらないの?」
キルシュブリューテ王国は晩婚化が進んでいると言っていたが、それでも日本と比べたら結婚する年齢が早い。
工房で働いている少女───といっても十八歳なので成人女性という表現が相応しいのかも知れない。彼女以外に女性の姿がない事に疑問を抱いた紗雪がレイモンドに尋ねる。
「・・・・・・詳しい事はいずれ話すが、今のベルンハルト兄上は独身だ」
(あんな阿婆擦れを義姉上と呼んでいた事が俺の人生の汚点だな)
(奥さんだった女性の実家である公爵家と情夫の実家である伯爵家を、ロードクロイツ家の力で社会的に抹殺したのね)
ベルンハルト本人だけではなく両親であるロードクロイツ侯爵夫妻が乗り気でなかったにも関わらず、歴史はあるが貧困に喘ぐ公爵夫妻に頭を下げられた事で仕方なく結婚を承諾してしまった事
理由は何であれ夫婦になったのだからベルンハルトは彼女に歩み寄ったのだが、妻になった女性はチャラ男な伯爵子息に夢中になっていた事
元奥さん自身にベルンハルトが公爵家に援助していた生活費に遊興費、前に住んでいた自宅兼工房の買取費用と引っ越し費用、今住んでいる自宅兼工房の購入費用、伯爵子息に貢いだ金を一括で返させる為に月十五パーセントの利息が付く金貸し業者に借金させた事
ベルンハルトに払う慰謝料の為に、情夫の実家である伯爵家と元妻の実家である公爵家の財産を取り上げた上で彼等の人生を台無しにしてやった事
(公爵家と伯爵家・・・浮気の代償が高くついたわね)
レイモンドの兄が独身である理由を霊視で知った紗雪だが、この件に関してはレイモンドが話すと言っていたので時が来るまで待てばいいとして、問題はベルンハルトをどうやって休ませるかである。
「ミートミンサーやフードプロセッサーとかを作って欲しいと言えば休んでくれるかしら?」
「・・・・・・道具もだが、アイスクリームのように再現した異世界の料理を食べて欲しいと言えば休んでくれるような気がする」
その辺りで攻めてみるかと呟いたレイモンドはベルンハルトが籠っている部屋へと足を踏み入れた。
ベルンハルトには色々な調理器具を作って欲しい
だが、ミルクセパレーターを作る為に徹夜をして寝不足になって身体を壊してしまったら本末転倒だと言ったレイモンドに対し、これは物作りとしての性なのだとベルンハルトは宣う。
「ベルンハルト兄上。連日連夜の徹夜で身体を壊した結果、俺と紗雪が作る異世界の料理を食べられなくなってもよろしいので?」
キルシュブリューテ王国やウィスティリア王国には傷を治すポーション、どんな病も治す万能薬というものが存在する。
但し、万能薬は非常に高価なので貧しい貴族と平民にしてみれば手の届かない代物であったりする。
魔道具の製作者として大金を稼いでいるベルンハルトでれば万能薬を買う事が出来るのだが、薬の過剰摂取は身体にとって毒になるのだ。
「・・・・・・・・・・・・分かった。異世界の道具を作れなくなるのは魔道具の製作者として、何より二人が作る異世界の料理が食べられなくなるのは人間として辛いものがある」
弟の言葉に心が動かされたベルンハルトは休む事にするのだった。
1
お気に入りに追加
413
あなたにおすすめの小説
異世界召喚に巻き込まれたエステティシャンはスキル【手】と【種】でスローライフを満喫します
白雪の雫
ファンタジー
以前に投稿した話をベースにしたもので主人公の名前と年齢が変わっています。
エステティックで働いている霧沢 奈緒美(24)は、擦れ違った数人の女子高生と共に何の前触れもなく異世界に召喚された。
そんな奈緒美に付与されたスキルは【手】と【種】
異世界人と言えば全属性の魔法が使えるとか、どんな傷をも治せるといったスキルが付与されるのが当然なので「使えねぇスキル」と国のトップ達から判断された奈緒美は宮殿から追い出されてしまう。
だが、この【手】と【種】というスキル、使いようによっては非常にチートなものだった。
設定はガバガバ+矛盾がある+ご都合主義+深く考えたら負けである事だけは先に言っておきます。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
親友に裏切られ聖女の立場を乗っ取られたけど、私はただの聖女じゃないらしい
咲貴
ファンタジー
孤児院で暮らすニーナは、聖女が触れると光る、という聖女判定の石を光らせてしまった。
新しい聖女を捜しに来ていた捜索隊に報告しようとするが、同じ孤児院で姉妹同然に育った、親友イルザに聖女の立場を乗っ取られてしまう。
「私こそが聖女なの。惨めな孤児院生活とはおさらばして、私はお城で良い生活を送るのよ」
イルザは悪びれず私に言い放った。
でも私、どうやらただの聖女じゃないらしいよ?
※こちらの作品は『小説家になろう』にも投稿しています
芋くさ聖女は捨てられた先で冷徹公爵に拾われました ~後になって私の力に気付いたってもう遅い! 私は新しい居場所を見つけました~
日之影ソラ
ファンタジー
アルカンティア王国の聖女として務めを果たしてたヘスティアは、突然国王から追放勧告を受けてしまう。ヘスティアの言葉は国王には届かず、王女が新しい聖女となってしまったことで用済みとされてしまった。
田舎生まれで地位や権力に関わらず平等に力を振るう彼女を快く思っておらず、民衆からの支持がこれ以上増える前に追い出してしまいたかったようだ。
成すすべなく追い出されることになったヘスティアは、荷物をまとめて大聖堂を出ようとする。そこへ現れたのは、冷徹で有名な公爵様だった。
「行くところがないならうちにこないか? 君の力が必要なんだ」
彼の一声に頷き、冷徹公爵の領地へ赴くことに。どんなことをされるのかと内心緊張していたが、実際に話してみると優しい人で……
一方王都では、真の聖女であるヘスティアがいなくなったことで、少しずつ歯車がズレ始めていた。
国王や王女は気づいていない。
自分たちが失った者の大きさと、手に入れてしまった力の正体に。
小説家になろうでも短編として投稿してます。
団長サマの幼馴染が聖女の座をよこせというので譲ってあげました
毒島醜女
ファンタジー
※某ちゃんねる風創作
『魔力掲示板』
特定の魔法陣を描けば老若男女、貧富の差関係なくアクセスできる掲示板。ビジネスの情報交換、政治の議論、それだけでなく世間話のようなフランクなものまで存在する。
平民レベルの微力な魔力でも打ち込めるものから、貴族クラスの魔力を有するものしか開けないものから多種多様である。勿論そういった身分に関わらずに交流できる掲示板もある。
今日もまた、掲示板は悲喜こもごもに賑わっていた――
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる