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㊹ミルクセパレーター-12-
しおりを挟む「やっぱり日本人は湯船に浸かって疲れを癒すに限る」
シャワーで簡単に済ませるよりも湯船に浸かると心身共にさっぱりするものだとベルンハルトがそう感じるのは、彼の中に流れる日本人の血がそうさせるからなのだろう。
ラフな格好ではあるが眼鏡を外している事で素顔を晒し男の色香を隠しきれていない今のベルンハルトは恋人や婚約者が居ない男女から見れば目の毒でしかない。
「皆さん、お待たせしました」
工房長のように美形で尚且つ甲斐性があったら女の方からホイホイと寄ってきてハーレムを築けたのだろうな~と思っている弟子達が座るテーブルの前にレイモンドと紗雪が朝食を並べていく。
「レイモンド。この卵料理だが俺が知っている卵料理と違うような・・・?」
ベルンハルトが知っている卵料理は茹でたものかパンプディング、卵液に肉や野菜を混ぜているか、卵液をそのまま焼いたものである。しかし、レイモンドが作った卵料理の表面は少し焦げているがケーキのように膨らんでいるので見た目は洒落ていると思う。
「先に卵白を泡立ててから卵黄を混ぜたからです。紗雪の世界ではスフレオムレツと言うらしいですよ」
「異世界の卵料理か・・・」
「この料理は味付けをしていないので物足りないと感じる筈です。付け合わせのベーコンと一緒に食べて下さい」
侯爵子息として育ったベルンハルトは平民から見れば贅沢な食材を使った料理を食べてきたが、異世界の料理に関しては無知といっても良かった。
ここはレイモンドの言葉に従った方がいいと判断したベルンハルト達であるが、ベーコンと一緒に食べなかったらどんな味なのかに興味があるのも確か。
まずはそのまま食べてみる事にした。
(・・・・・・・・・・・・)
「味気ないというか、塩気が欲しいというか、コクがないというか・・・」
「ふわっとしていそうな見た目と、口の中でシュワっとしているのは珍しいけど・・・」
ベルンハルトの工房で働いている弟子達は実家を継げない貴族家の次男や三男、平民の息子なので質素な味付けの料理には慣れている。
だがレイモンドが作ったのは食文化が進んでいる異世界の料理だ。
アイスクリームの時のように目新しい料理を期待していた弟子達はガクッと力を落とす。
「スフレオムレツはベーコンと一緒に食べると言っていたから、淡泊な味付けにしているのだろうな」
塩気の強いベーコンと一緒に食べたら丁度いい味加減になると思ったベルンハルトは、レイモンドが言っていた食べ方でスフレオムレツを食べてみた。
「スフレオムレツだけでは味気ない。ベーコンだけでは塩気が強過ぎる。しかし、この二つを一緒に食べたら丁度いい塩梅になる」
だから卵だけを食べたら何の味も感じなかったのかと、ベルンハルトと弟子達は納得していた。
焼いたパンは香ばしく、野菜のスープは肉が入っていないのに肉の旨味とコクを感じる。
久し振りにまともな朝食を口にしたと、工房長と弟子達は喜んでいた。
「ベルンハルト兄上、食後のコーヒー・・・カフェオレを淹れますね」
「カフェオレ?レイモンド、それは異世界の飲み物なのか?」
「はい。牛乳を混ぜたコーヒーですね」
席から立ち上がったレイモンドはコーヒーミルにコーヒー豆を入れる。
(ハンドルを回したら中の刃が動いてコーヒー豆が挽ける。挽いたコーヒー豆は粉となって受け皿とでも言うべき引き出しに落ちる・・・・・・)
「コーヒーミルを応用すれば・・・樽や瓶に注いだ牛乳を振るのではなく、回転で攪拌させたら?」
レイモンドがコーヒーミルでコーヒー豆を挽いているところを見て何か閃いたのだろう。
「設計図を描いてくる!」
「ベルンハルト兄上!?」
「工房長!少しは休んで下さい!」
立ち上がったベルンハルトはレイモンドとエミーリアが呼び止めるのも聞かずに自分の部屋へと戻るのだった。
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