カフェ・ユグドラシル

白雪の雫

文字の大きさ
上 下
175 / 451

㊸甘くて冷たい豆乳粥-9-

しおりを挟む










 「あのバニラにこのような使い道があったとは・・・」

 バニラは儀式に使うかショコラに入れる香料だと思い込んでいたダークエルフの長、彼の妻、そして息子のセドリックは驚きを隠せないでいる。

 「冷たい粥とバナナって相性が良いのだな。是非、他の果物でも試してみたいものじゃ」

 我が家の定番の朝食として豆乳粥を出すのもありではないのか?

 「ただの粥がバニラを入れる事で甘い香りまでもが楽しめる。何とも贅沢なデザートになるのじゃな」

 「成る程。白鳥処女の末裔がバニラを求める理由に納得がいったわ」

 異世界は文明と文化が進んでいると聞いた事があるが正にその通りだと、ダークエルフの長達は紗雪を褒め称える。

 「恐れながら一言申し上げます」

 今回の豆乳粥を思い付いただけではなく作ったのはレイモンドである。

 だから、褒めの言葉を賜るのは自分ではなくレイモンドなのだと紗雪がダークエルフの長達に進言した。

 「粥と言えば塩で味付けした温かい食べ物だという思い込みがあった私には作れない代物です」

 「バニラはショコラに入れる香料という思い込みが儂等にあるように、此度の甘くて冷たい粥はそなたでは作れなかったという事か・・・」

 「はい」

 「レイモンド殿、見事であった」

 「恐れながら、ダークエルフの長よ」

 頭を下げて礼を口にしたダークエルフの長に、紗雪が料理を作る楽しさと喜びを教えてくれたからこそ出来たのであって、今までの自分であればプルメリア島では普通に食べられている豆乳粥にバニラを入れて冷やそうなんて思いつかなかったのだと、レイモンドが落ち着いた口調で語った。

 「異世界人であるが故の思い込みがある白鳥処女の末裔では思いつかず、知識はあっても思い込みがないレイモンド殿だからこそ出来た・・・」

 しかし、それも紗雪から教わった料理があってこそだ。

 そう考えると、この粥は奥が深いとダークエルフの長が呟く。

 「クリストフ、妾はキルシュブリューテ王国にバニラを売ってもいいし取引をしたいと思うておる。お前様はどうするつもりでいるのじゃ?」

 (((え゛っ?大魔王の名前ってクリストフだったのか!?)))





 (普通・・・)

 (何て普通の名前なんだ!!)

 (エターナルフォースブリザードのように、中二病的な名前じゃなかったのね)





 踊り子のような衣装を着ている妖艶な佳人ことダークエルフの長の妃のおかげで、名前を知った三人は心を一つにしてそう思った。

 「そうじゃな・・・。儂もお主達の国であればバニラを輸出しても良いと思うておる。その代わりチーズにバター・・・要は乳製品をプルメリア島に輸入して欲しいのじゃ」

 常夏のプルメリア島は稲作と大豆や小豆といった豆、マンゴーやパパイヤといった熱帯地域でしか採れない果物の栽培に向いているが、酪農に向いていないので乳製品が発達しているとはお世辞にも言えない。

 「儂が若い頃に出会った炙ったチーズを載せたパン・・・素材を生かした素朴な美味さは忘れられん」

 自分の我が儘もあるが、プルメリア島の食文化の発展の為であればキルシュブリューテ王国まで赴いて国王と直接交渉してもいいとまで言い出してしまった。

 「お前様が行けば、大魔王がキルシュブリューテ王国を征服しに来たのだと誤解を招くではないか!妾が国王と話をするからお前様はプルメリア島を護る事に専念するのじゃ!!」

 (((キルシュブリューテ王国うちの国王陛下は魔王様だからな~)))

 ディートヘルムとクリストフが顔を合わせたら、第三者から見れば間違いなく世界征服を企んでいると思ってしまうだろうし、会議の間は魔界と化してしまうだろう。

 それを防ぐ意味では彼女がディートヘルムと話を交わした方がいいのかも知れない。

 「ソフィーよ。口ではそう言っておるが、二人が作る異世界の料理を食べたいと言うのがそなたの本音じゃろうが!!」

 「当然♡妾だってレイモンド殿と白鳥処女の末裔が作った異世界の料理を食べたいんだもん♡」

 「食べたいんもん♡って!!千歳越えのババアがそんな風な言い方をしても可愛くとも何とも「お前様・・・何か仰いまして?「何も仰っておりませ~ん」

 (((大魔王が謝っているーーーっ!!?)))

 ラスボスは奥さんだ・・・

 クリストフを尻に敷いているソフィーを見た三人は心の底からそう思うのであった。










しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に巻き込まれたエステティシャンはスキル【手】と【種】でスローライフを満喫します

白雪の雫
ファンタジー
以前に投稿した話をベースにしたもので主人公の名前と年齢が変わっています。 エステティックで働いている霧沢 奈緒美(24)は、擦れ違った数人の女子高生と共に何の前触れもなく異世界に召喚された。 そんな奈緒美に付与されたスキルは【手】と【種】 異世界人と言えば全属性の魔法が使えるとか、どんな傷をも治せるといったスキルが付与されるのが当然なので「使えねぇスキル」と国のトップ達から判断された奈緒美は宮殿から追い出されてしまう。 だが、この【手】と【種】というスキル、使いようによっては非常にチートなものだった。 設定はガバガバ+矛盾がある+ご都合主義+深く考えたら負けである事だけは先に言っておきます。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

親友に裏切られ聖女の立場を乗っ取られたけど、私はただの聖女じゃないらしい

咲貴
ファンタジー
孤児院で暮らすニーナは、聖女が触れると光る、という聖女判定の石を光らせてしまった。 新しい聖女を捜しに来ていた捜索隊に報告しようとするが、同じ孤児院で姉妹同然に育った、親友イルザに聖女の立場を乗っ取られてしまう。 「私こそが聖女なの。惨めな孤児院生活とはおさらばして、私はお城で良い生活を送るのよ」 イルザは悪びれず私に言い放った。 でも私、どうやらただの聖女じゃないらしいよ? ※こちらの作品は『小説家になろう』にも投稿しています

芋くさ聖女は捨てられた先で冷徹公爵に拾われました ~後になって私の力に気付いたってもう遅い! 私は新しい居場所を見つけました~

日之影ソラ
ファンタジー
アルカンティア王国の聖女として務めを果たしてたヘスティアは、突然国王から追放勧告を受けてしまう。ヘスティアの言葉は国王には届かず、王女が新しい聖女となってしまったことで用済みとされてしまった。 田舎生まれで地位や権力に関わらず平等に力を振るう彼女を快く思っておらず、民衆からの支持がこれ以上増える前に追い出してしまいたかったようだ。 成すすべなく追い出されることになったヘスティアは、荷物をまとめて大聖堂を出ようとする。そこへ現れたのは、冷徹で有名な公爵様だった。 「行くところがないならうちにこないか? 君の力が必要なんだ」 彼の一声に頷き、冷徹公爵の領地へ赴くことに。どんなことをされるのかと内心緊張していたが、実際に話してみると優しい人で…… 一方王都では、真の聖女であるヘスティアがいなくなったことで、少しずつ歯車がズレ始めていた。 国王や王女は気づいていない。 自分たちが失った者の大きさと、手に入れてしまった力の正体に。 小説家になろうでも短編として投稿してます。

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

団長サマの幼馴染が聖女の座をよこせというので譲ってあげました

毒島醜女
ファンタジー
※某ちゃんねる風創作 『魔力掲示板』 特定の魔法陣を描けば老若男女、貧富の差関係なくアクセスできる掲示板。ビジネスの情報交換、政治の議論、それだけでなく世間話のようなフランクなものまで存在する。 平民レベルの微力な魔力でも打ち込めるものから、貴族クラスの魔力を有するものしか開けないものから多種多様である。勿論そういった身分に関わらずに交流できる掲示板もある。 今日もまた、掲示板は悲喜こもごもに賑わっていた――

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

巻き込まれたんだけど、お呼びでない?

ももがぶ
ファンタジー
メタボ気味というには手遅れな、その体型で今日も営業に精を出し歩き回って一日が終わり、公園のベンチに座りコンビニで購入したストロング缶をあおりながら、仕事の愚痴を吐く。 それが日課になっていたが、今日はなにか様子が違う。 公園に入ってきた男二人、女一人の近くの高校の制服を着た男女の三人組。 なにかを言い合いながら、こっちへと近付いてくる。 おいおい、巻き添えなんかごめんだぞと思っていたが、彼らの足元に魔法陣の様な紋様が光りだす。 へ〜綺麗だなとか思っていたら、座っていたベンチまで光に包まれる。 なにかやばいとベンチの上に立つと、いつの間にかさっきの女子高校生も横に立っていた。 彼らが光に包まれると同時にこの場から姿を消す。 「マジか……」 そう思っていたら、自分達の体も光りだす。 「怖い……」 そう言って女子高校生に抱き付かれるが俺だって怖いんだよ。

処理中です...