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㊸甘くて冷たい豆乳粥-9-
しおりを挟む「あのバニラにこのような使い道があったとは・・・」
バニラは儀式に使うかショコラに入れる香料だと思い込んでいたダークエルフの長、彼の妻、そして息子のセドリックは驚きを隠せないでいる。
「冷たい粥とバナナって相性が良いのだな。是非、他の果物でも試してみたいものじゃ」
我が家の定番の朝食として豆乳粥を出すのもありではないのか?
「ただの粥がバニラを入れる事で甘い香りまでもが楽しめる。何とも贅沢なデザートになるのじゃな」
「成る程。白鳥処女の末裔がバニラを求める理由に納得がいったわ」
異世界は文明と文化が進んでいると聞いた事があるが正にその通りだと、ダークエルフの長達は紗雪を褒め称える。
「恐れながら一言申し上げます」
今回の豆乳粥を思い付いただけではなく作ったのはレイモンドである。
だから、褒めの言葉を賜るのは自分ではなくレイモンドなのだと紗雪がダークエルフの長達に進言した。
「粥と言えば塩で味付けした温かい食べ物だという思い込みがあった私には作れない代物です」
「バニラはショコラに入れる香料という思い込みが儂等にあるように、此度の甘くて冷たい粥はそなたでは作れなかったという事か・・・」
「はい」
「レイモンド殿、見事であった」
「恐れながら、ダークエルフの長よ」
頭を下げて礼を口にしたダークエルフの長に、紗雪が料理を作る楽しさと喜びを教えてくれたからこそ出来たのであって、今までの自分であればプルメリア島では普通に食べられている豆乳粥にバニラを入れて冷やそうなんて思いつかなかったのだと、レイモンドが落ち着いた口調で語った。
「異世界人であるが故の思い込みがある白鳥処女の末裔では思いつかず、知識はあっても思い込みがないレイモンド殿だからこそ出来た・・・」
しかし、それも紗雪から教わった料理があってこそだ。
そう考えると、この粥は奥が深いとダークエルフの長が呟く。
「クリストフ、妾はキルシュブリューテ王国にバニラを売ってもいいし取引をしたいと思うておる。お前様はどうするつもりでいるのじゃ?」
(((え゛っ?大魔王の名前ってクリストフだったのか!?)))
(普通・・・)
(何て普通の名前なんだ!!)
(エターナルフォースブリザードのように、中二病的な名前じゃなかったのね)
踊り子のような衣装を着ている妖艶な佳人ことダークエルフの長の妃のおかげで、名前を知った三人は心を一つにしてそう思った。
「そうじゃな・・・。儂もお主達の国であればバニラを輸出しても良いと思うておる。その代わりチーズにバター・・・要は乳製品をプルメリア島に輸入して欲しいのじゃ」
常夏のプルメリア島は稲作と大豆や小豆といった豆、マンゴーやパパイヤといった熱帯地域でしか採れない果物の栽培に向いているが、酪農に向いていないので乳製品が発達しているとはお世辞にも言えない。
「儂が若い頃に出会った炙ったチーズを載せたパン・・・素材を生かした素朴な美味さは忘れられん」
自分の我が儘もあるが、プルメリア島の食文化の発展の為であればキルシュブリューテ王国まで赴いて国王と直接交渉してもいいとまで言い出してしまった。
「お前様が行けば、大魔王がキルシュブリューテ王国を征服しに来たのだと誤解を招くではないか!妾が国王と話をするからお前様はプルメリア島を護る事に専念するのじゃ!!」
(((キルシュブリューテ王国の国王陛下は魔王様だからな~)))
ディートヘルムとクリストフが顔を合わせたら、第三者から見れば間違いなく世界征服を企んでいると思ってしまうだろうし、会議の間は魔界と化してしまうだろう。
それを防ぐ意味では彼女がディートヘルムと話を交わした方がいいのかも知れない。
「ソフィーよ。口ではそう言っておるが、二人が作る異世界の料理を食べたいと言うのがそなたの本音じゃろうが!!」
「当然♡妾だってレイモンド殿と白鳥処女の末裔が作った異世界の料理を食べたいんだもん♡」
「食べたいんもん♡って!!千歳越えのババアがそんな風な言い方をしても可愛くとも何とも「お前様・・・何か仰いまして?「何も仰っておりませ~ん」
(((大魔王が謝っているーーーっ!!?)))
ラスボスは奥さんだ・・・
クリストフを尻に敷いているソフィーを見た三人は心の底からそう思うのであった。
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