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㊷ダークエルフの長は大魔王-3-
しおりを挟む「・・・紗雪。自分から話し辛いのであれば、俺からシュルツベルク伯に話すが?」
レイモンドの言葉に紗雪は自分から話すと首を横に振った後、収納ポーチから天女の羽衣を取り出した。
「この布は・・・?」
「篁家の家宝の一つである天女の羽衣です」
「天女?」
「フリューリングでは白鳥処女が天女に該当します、シュルツベルク伯」
淡い光を帯びた、縫い目がない布に見入っているアルバートにレイモンドが耳打ちをして教える。
(どこかで天女という言葉を聞いた事があるような気がするのだが・・・。そうだ!マスミちゃん!)
アルバートは、ローゼンタール公爵夫人が紗雪の先祖を人間と天女との間に産まれた子供と言っていた事を思い出す。
「サユキは天女・・・白鳥処女、なのか?」
「正確に言えば天女の子孫です。代を重ねて来た事で天女の血が薄くなっている私は、人間と何ら変わりないですよ」
寿命だって百年くらいだし、治癒力も身体能力も人間と同じだと紗雪がアルバートに教える。
「そうか。サユキは並外れた霊力を持つ人間で・・・改めて尋ねるが、この世界で生きて行くという認識でいいんだな?」
紗雪はほぼ人間と言ってもいい。だが、同時に白鳥処女でもある。白鳥処女は男と子供を捨てて天に帰った女なのだ。
紗雪はフリューリングで採れた野菜や肉を口にしているので元の世界に戻る事は出来ない。
だが、それでも元の世界に戻る方法があるとしたら、レイモンドは面に出さないだけで、キルシュブリューテ王国で築いた縁や絆を捨てて帰るという不安を常に抱えているのだろう。
「はい」
笑みを浮かべて即答した紗雪にアルバートは安堵の息を漏らす。
「混じり者の娘が白鳥処女の末裔である事は分かった。・・・・・・それで、お主達に聞いてもいいか?」
何故、プルメリア島のバニラを欲する?
周囲を威圧するオーラを発しているダークエルフの長の問いに紗雪は答える。
お菓子作りに欠かせない香料であるが故にバニラが欲しいのだと──・・・。
「ほう・・・そのような理由でバニラを求めるか」
バニラはショコラに入れるか、儀式で使用する香料を菓子作りに使うという理由にダークエルフの長は豪快な声を上げて笑った。
「面白い!」
「親父殿、貴重なバニラを輸出する代わりに儂達も相手から見返りを求めるべきじゃ!例えば、我が国では採れない果物や香木、採掘出来ない金属とか・・・」
「確かにそうじゃ。お主、シュルツベルク伯爵と言ったな?お主達が作るバニラを使った甘味が儂達を満足させたのであればお主達と取引をしよう」
「勿論、儂達が満足しなかったらこの話はなかった事になるがな」
「儂達を満足させた暁には、お主達の国でしか採れない果物と乳製品を我が国に輸入して欲しいのじゃよ」
「これは私の一存では判断が出来兼ねますので、ディートヘルム陛下に持ち帰った上で回答するといたしましょう」
ダークエルフの長にそう答えたアルバートはボウ・アンド・スクレープをした。
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