カフェ・ユグドラシル

白雪の雫

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㊲バニラビーンズ-3-

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 「サユキ嬢よ、ソラール大陸の南に小さな島があるのが分かるな?」

 「はい」

 この島はプルメリア島といい、ダークエルフのみが住んでいる。大きさで言えば日本の四国地方くらいだ。

 ダークエルフは世界各地に集落を作って他種族と積極的に交流を持っているが、紗雪が求めているバニラビーンズとやらの元になる植物の栽培と加工が出来るのは、プルメリア島に住むダークエルフだけなのだとディートヘルムが紗雪に教える。

 「陛下。インペラトーレ帝国の商人からバニラビーンズを購入するか、ダークエルフと契約する事は可能なのでしょうか?」

 「商人から買うのは可能だと思うが、おそらく足元を見られるだろうな・・・」

 帝国の皇族と貴族でさえ特別な日にしか口に出来ないショコラに使われているスパイスは皇族への献上品の一つとなっているので、他国の人間に売るとなれば相場より高い値段設定になっているのではないだろうか。

 一ゴルドや二ゴルドを払って手に入れたバニラビーンズが塩一摘まみ分の可能性があるかも知れないと、ディートヘルムが指摘する。

 「では、プルメリア島に赴いてダークエルフと直接契約した方がいいのでしょうか?」

 「地図を見れば分かると思うが、ソラール大陸とプルメリア島の間には何もない。一方、クレール大陸とソラール大陸との間には多くの島がある」

 その諸島にはセイレーンとハーピーが棲んでおり、運良く襲われなければ七日くらいでプルメリア島に着く事が出来るのだが、彼女達は島を通り抜けようとする船を襲い乗客を食い殺すのが常である。

 別ルートでプルメリア島に行くという方法もあるが、クレール大陸から見て左下──サテリット大陸を迂回せねばならない。結果、プルメリア島に到着するまで数倍の時間だけではなくコストを要するのだ。

 だったら、自分でバニラビーンズを作ればいいじゃない!

 もし、この場にマスミが居たら紗雪にそうツッコミを入れていただろう。

 だが、バニラは栽培から加工は難しいだけではなく、手間と時間がかかる。だからこそ、バニラビーンズを入れたショコラは身分の高い者しか口に出来ない高級な品でもあるのだ。

 そんなバニラビーンズを作るなど素人の紗雪に出来る筈がない。やはりここは、プロであるプルメリア島のダークエルフから手に入れるのが一番の近道だろう。

 (問題はどうやってプルメリア島に行くか・・・)

 「レイモンド殿、冒険者としてのそなたに余は依頼する」

 「陛下?」

 そんな紗雪をよそにディートヘルムがレイモンドに告げる。

 「報酬は三十プラチナ。それとは別に船と船乗り、食糧等といった必要なものは余が用意する」

 ダークエルフが住むプルメリア島に行き、サユキ嬢が求めるバニラビーンズを手に入れよ

 「陛下!?」

 紗雪としてはバニラビーンズが売っている店を教えてくれるだけで良かったし、知らなければ諦めようと思っていたのだ。

 まさかここまで話が大きくなるなんて、しかも国のトップを巻き込んでしまう形になるなど夢にも思っていなかった紗雪は思わず戸惑いと驚きの色を含んだ声を上げる。

 「サユキ嬢よ。これはバニラビーンズを使ったデザートが食べたいという余の願望もあるが、一番の理由は我が国の発展の為だ」

 ((言っている事は立派だけど・・・))

 ラストステージで勇者と対峙するラスボスの魔王を思わせる低音ボイスと威圧感を出してまで言うセリフではないと、紗雪とレイモンドは心の中でディートヘルムに対してツッコミを入れる。

 「ど、どうしよう・・・レイモンド」

 「引き受けるしかないのは確かだ・・・」

 国王からの依頼=国王の命令なので、レイモンドに拒否権はない。

 「陛下、バニラビーンズを手に入れて見せましょう」

 大事になってしまったと心の中で慌てふためく紗雪をよそに、レイモンドがディートヘルムの依頼を引き受けた意を示す為にボウ・アンド・スクレープで頭を下げた。









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